カテゴリー別アーカイブ: 最近の研究から

素粒子のジグソーパズル=大統一理論?!

IMG_0046今年に入って1月はD論審査、2月は研究会、3月もいろいろあってこんなに更新があいてしまいました。4月
から授業も始まるのでまた再開したいと思います。

ヒッグズが見つかった時、いろんな方が「ジグソーパズルの最後のピース」に例えておられます。確かに、1つのピースがなくてどこかさがしていて、あった!完成!という気持ちは表現できていると思います。

しかし、と突っ込みますが、ジグソーパズルというのはできたものを遠くから眺めると、何かの絵や写真になっているものです。そして、大抵は外枠は四角いきちんとした形をしています。では、ヒッグズが見つかって標準模型が完成したのはいいとして、それって何でしょうか?

実は、(標準模型のヒッグズ以外の構成要素である)(カラー自由度も別に数えて)(右巻きニュートリノも3つあるとして. . . すいません、ただし書きが3つも続いちゃいました. . .)クォークとレプトンは、各世代ごとにSU(5)の5*表現と10表現と1表現の直和にぴったりはまるのです。もちろん、ゲージボゾンもSU(3)xSU(2)xU(1)はSU(5)の部分群ですからこれもちょうどはまります。そしてさらに、これらの表現はSO(10)のスピナー表現16のSU(5)の既約表現への分解にちょうどなっています。

こういう理論を大統一理論(GUT)といって、非常に古くから知られています。では、こんなことをなぜわざわざここに書くのでしょうか?

それは、最近の超弦理論にもとづく模型構築には、GUTはどうでもいいからSU(3)xSU(2)xU(1)の標準模型が実現さえできればいい、という考え方がよく見られるからです。

今日ここで強調したいのは、「素粒子はSU(5)の5*+10+1にまとまる」と言った瞬間に、クォーク・レプトンのあの奇妙なU(1)ハイパーチャージの割り振りが自動的に見事に説明できている、ということです。

それは、こういうことです:
5は3+2ですから、SU(3)xSU(2)xU(1) を SU(5) に埋め込めるのは当たり前だと思う方もおられるかもしれません。しかし標準模型のゲージ群にはU(1)もあります。そしてSU(5)の中に自然にSU(3)xSU(2)を埋め込んだとき、これらと交換するU(1)はユニークに決まってしまいます。すなわち、クォーク・レプトンのいくつかを特定のSU(5)の表現に組んだとすると、そのU(1)チャージはもう決まってしまっている、ということです。そして驚くべきことに、それらは現実のあの(1/6とかの)一見奇妙なアサインメントと一致しているのです。

この事実は、ゲージ結合定数が繰り込み群で高エネルギーで統一するかしないかとか言う以前に、すでに現実の素粒子の性質をGUTが説明している、と言えます。

繰り返しますが、この事実はものすごい古くから知られていることです。それでも、この事実を伏せて、あるいは偶然だとスルーして、模型を構築する場合が近年よくあります。

もちろん僕は批判しているわけではありません。ただ、上で述べたような GUT の美点が最近は語られることがあまりないような気がしたので書いてみました。

超弦理論は大変に豊富な構造をもっています。いろんなしかたで標準模型ライクな模型を実現することができます。しかし、それはまるで模造紙ぐらいの大きな枠に、3×16=48ピースのジグソーパズルをばらして、あんな風にも入る、こんな風にも入ると言っているのに似ていると思います。

最近の研究から:F-theory family unification

E7toA4_image「最近の研究から:F-theory family unification という記事を今度書きたいと思いますが、もうしばらくお待ちください。」

と書いてから2ヶ月もたってしまいましたので、今日はとりあえず手短に紹介します。機会があって簡単にまとめたものなのでたぶんわかりにくいと思いますが、これから先ひとつひとつについて説明を加えていきたいと思います。

F 理論の基本的なアイデアは次のようなものでした:タイプ IIB 超弦には複素スカラーがありますが、 その運動方程式は、(他の場を0とおいた場合)アインシュタイン重力を2次元トーラスコンパクト化したときの複素構造の運動方程式と一致します。 そこで複素スカラーの場の配位を考える代わりに、仮想的にそれが複素構造モジュラスになるようなトーラス配位を考えることにより、7-ブレーンの重なりによるゲージ対称性の非摂動論的拡大が、楕円ファイブレーションを許す仮想的な多様体の特異点近傍に局在する質量のない自由度(ストリングジャンクションの励起)によるものとして理解できる、というものです。特に、7-ブレーンは mod SL(2,Z) モノドロミーで同一視されるので、タイプ IIB 弦から見て本質的に非摂動論的記述であり、E8×E8 ヘテロティック理論との双対性にわかりやすい描像を与えます。(ヘテロティックの E8 の必然性を例えば高校生に説明するのは難しいでしょう。F理論なら(小平分類という「ラグ」に隠すということもありますけど)Dブレーンと同様に議論できるのでなんとかなると思います。)

一方、世代統一(Family unification)とは、ある超対称性をもつ系の大局的対称性が自発 的に破れる際に現れる南部・ゴールドストーン粒子の超対称パートナー(準南部・ゴール ドストーン(準NG)フェルミオン)を、標準模型のクォーク・レプトンと同一視しようとする古くからの考え方です。特に対称性が E7 から SU(5)に破れる場合(九後・柳田模型)、超対称シグマモデルのカイラル超対称場は3つの 5*+ 10 表現と1つの 5 表現であり、これらは3世代のクォーク・レプトンと1つのヒッグズにちょうど対応すると見ることができます。したがって、 もしこの考え方が正しければ、クォーク・レプトンの世代構造に対して合理的な説明が与 えられることになります。

私は最近、このようなコセット構造は、F 理論を用いて容易に実現できることを(6次元ですが)指摘しました。その鍵となったのは、多重交差する 7-ブレーンの交差に局在する string junction のスペクトラムと等質ケーラー多様体の対応です。この対応を使うと、九後・柳田模型のコセットは、 上の図のようなブレーンの多重交差に対応することがわかります。合流できるブレーンの最大枚数は小平分類によってきまっており、E8 特異点に対応する合流ブレーン(+2)以上の枚数は集まれないことから、SU(5)をゲージ群として残す限り3世代を超える世代はこのシナリオではあり得ないことが帰結されます。

このような、世代統一を F 理論で実現するというアイデアは 今までになかったユニークなものであり、この幾何学的機構による現実的な素粒子模型の実現について今後も研究を行っていきたいと思います。