今年に入って1月はD論審査、2月は研究会、3月もいろいろあってこんなに更新があいてしまいました。4月
から授業も始まるのでまた再開したいと思います。
ヒッグズが見つかった時、いろんな方が「ジグソーパズルの最後のピース」に例えておられます。確かに、1つのピースがなくてどこかさがしていて、あった!完成!という気持ちは表現できていると思います。
しかし、と突っ込みますが、ジグソーパズルというのはできたものを遠くから眺めると、何かの絵や写真になっているものです。そして、大抵は外枠は四角いきちんとした形をしています。では、ヒッグズが見つかって標準模型が完成したのはいいとして、それって何でしょうか?
実は、(標準模型のヒッグズ以外の構成要素である)(カラー自由度も別に数えて)(右巻きニュートリノも3つあるとして. . . すいません、ただし書きが3つも続いちゃいました. . .)クォークとレプトンは、各世代ごとにSU(5)の5*表現と10表現と1表現の直和にぴったりはまるのです。もちろん、ゲージボゾンもSU(3)xSU(2)xU(1)はSU(5)の部分群ですからこれもちょうどはまります。そしてさらに、これらの表現はSO(10)のスピナー表現16のSU(5)の既約表現への分解にちょうどなっています。
こういう理論を大統一理論(GUT)といって、非常に古くから知られています。では、こんなことをなぜわざわざここに書くのでしょうか?
それは、最近の超弦理論にもとづく模型構築には、GUTはどうでもいいからSU(3)xSU(2)xU(1)の標準模型が実現さえできればいい、という考え方がよく見られるからです。
今日ここで強調したいのは、「素粒子はSU(5)の5*+10+1にまとまる」と言った瞬間に、クォーク・レプトンのあの奇妙なU(1)ハイパーチャージの割り振りが自動的に見事に説明できている、ということです。
それは、こういうことです:
5は3+2ですから、SU(3)xSU(2)xU(1) を SU(5) に埋め込めるのは当たり前だと思う方もおられるかもしれません。しかし標準模型のゲージ群にはU(1)もあります。そしてSU(5)の中に自然にSU(3)xSU(2)を埋め込んだとき、これらと交換するU(1)はユニークに決まってしまいます。すなわち、クォーク・レプトンのいくつかを特定のSU(5)の表現に組んだとすると、そのU(1)チャージはもう決まってしまっている、ということです。そして驚くべきことに、それらは現実のあの(1/6とかの)一見奇妙なアサインメントと一致しているのです。
この事実は、ゲージ結合定数が繰り込み群で高エネルギーで統一するかしないかとか言う以前に、すでに現実の素粒子の性質をGUTが説明している、と言えます。
繰り返しますが、この事実はものすごい古くから知られていることです。それでも、この事実を伏せて、あるいは偶然だとスルーして、模型を構築する場合が近年よくあります。
もちろん僕は批判しているわけではありません。ただ、上で述べたような GUT の美点が最近は語られることがあまりないような気がしたので書いてみました。
超弦理論は大変に豊富な構造をもっています。いろんなしかたで標準模型ライクな模型を実現することができます。しかし、それはまるで模造紙ぐらいの大きな枠に、3×16=48ピースのジグソーパズルをばらして、あんな風にも入る、こんな風にも入ると言っているのに似ていると思います。