「最近の研究から:F-theory family unification という記事を今度書きたいと思いますが、もうしばらくお待ちください。」
と書いてから2ヶ月もたってしまいましたので、今日はとりあえず手短に紹介します。機会があって簡単にまとめたものなのでたぶんわかりにくいと思いますが、これから先ひとつひとつについて説明を加えていきたいと思います。
F 理論の基本的なアイデアは次のようなものでした:タイプ IIB 超弦には複素スカラーがありますが、 その運動方程式は、(他の場を0とおいた場合)アインシュタイン重力を2次元トーラスコンパクト化したときの複素構造の運動方程式と一致します。 そこで複素スカラーの場の配位を考える代わりに、仮想的にそれが複素構造モジュラスになるようなトーラス配位を考えることにより、7-ブレーンの重なりによるゲージ対称性の非摂動論的拡大が、楕円ファイブレーションを許す仮想的な多様体の特異点近傍に局在する質量のない自由度(ストリングジャンクションの励起)によるものとして理解できる、というものです。特に、7-ブレーンは mod SL(2,Z) モノドロミーで同一視されるので、タイプ IIB 弦から見て本質的に非摂動論的記述であり、E8×E8 ヘテロティック理論との双対性にわかりやすい描像を与えます。(ヘテロティックの E8 の必然性を例えば高校生に説明するのは難しいでしょう。F理論なら(小平分類という「ラグ」に隠すということもありますけど)Dブレーンと同様に議論できるのでなんとかなると思います。)
一方、世代統一(Family unification)とは、ある超対称性をもつ系の大局的対称性が自発 的に破れる際に現れる南部・ゴールドストーン粒子の超対称パートナー(準南部・ゴール ドストーン(準NG)フェルミオン)を、標準模型のクォーク・レプトンと同一視しようとする古くからの考え方です。特に対称性が E7 から SU(5)に破れる場合(九後・柳田模型)、超対称シグマモデルのカイラル超対称場は3つの 5*+ 10 表現と1つの 5 表現であり、これらは3世代のクォーク・レプトンと1つのヒッグズにちょうど対応すると見ることができます。したがって、 もしこの考え方が正しければ、クォーク・レプトンの世代構造に対して合理的な説明が与 えられることになります。
私は最近、このようなコセット構造は、F 理論を用いて容易に実現できることを(6次元ですが)指摘しました。その鍵となったのは、多重交差する 7-ブレーンの交差に局在する string junction のスペクトラムと等質ケーラー多様体の対応です。この対応を使うと、九後・柳田模型のコセットは、 上の図のようなブレーンの多重交差に対応することがわかります。合流できるブレーンの最大枚数は小平分類によってきまっており、E8 特異点に対応する合流ブレーン(+2)以上の枚数は集まれないことから、SU(5)をゲージ群として残す限り3世代を超える世代はこのシナリオではあり得ないことが帰結されます。
このような、世代統一を F 理論で実現するというアイデアは 今までになかったユニークなものであり、この幾何学的機構による現実的な素粒子模型の実現について今後も研究を行っていきたいと思います。