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高エネルギー加速器セミナーしました

もう先月(11月)の11日と18日のことなんですが、平成27年度「高エネルギー加速器セミナー(パスワードが小さくでるので入れてください)」という、毎週水曜10時から総研大でやっているセミナーで2週連続で講演させていただきました。題して“Introduction to Superstring theory(I),(II)”。基本的には総研大の学生さん向けのセミナーなのですが、思いがけずたくさんの他分野のスタッフの方々や実験の方にもおこしいただいて恐縮しました。(以前同じ官舎だった菊池さんにもおいでいただいて大変うれしかったです。ありがとうございました。)

なるべく数式を使わないで超弦理論の美しさの一端をどう伝えようか、大変苦労しました。結局ものすごいたくさんのアニメーションを Shade でつくることになりました。ppt ファイルがおけたらよかったのですが、都合により pdf にしたもの(第1回 第2回)をおいておきます。

この週は、2日前に京大基研でトーク、その前の週は科研費申請の締め切りとものすごい忙しかったです。これが終わったら更新しようと思っているうちにクリスマスになってしまいました。

Friedman-Morgan-Witten を知っていますか?

IMG_0040なんて、もちろん一般の方や学生さんはご存知ないでしょう。素粒子理論の研究者でも普通は知らないと思いますし、超弦の研究家でも日本で理解している人がどれだけいるでしょうか。

しかし、知っている人が少ないからと言って重要でないというわけではありません。というか、むしろこの論文は「素粒子論としての超弦理論」として「超」重要なことが見いだされ、書かれている論文です。そして、これらのことについて日本では最近(全く、でなければ)ほとんど語られないのが問題なのです。

この論文も古い論文です。1997年1月なので、もう20年近くになります。タイトルは”Vector bundles and F theory” hep-th/9701162 です。なのでこの内容自体が「最近の研究から」の記事としておかしいかもしれませんが、僕自身これに関連した研究をしていて論文を書いたので、FMWの重要性についてあらためて書いてみようと思います。たぶん話が長くなるので、何回かに分けて書いてみます。

まず、タイトルですが、「ベクター束とF理論」なんて、なんて抽象的で数学にしか関係ないようなタイトルなんでしょう。しかし、この論文は現実の素粒子の標準模型の構造を最もよく反映する超弦理論である E8xE8 へテロティック弦 のコンパクト化に大きな進展を与えています。

へテロティック弦はアノマリー相殺から予言された奇跡的な無矛盾性をもつ理論で、そのもっとも変な(?)ことの一つが、アノマリーを相殺するために(普通は変換しない)「B場」(2階反対称テンソル場)もゲージ変換や局所ローレンツ変換しなければならないことです(Green-Schwarz 機構)。すると、コンパクト化空間の幾何と空間内のゲージ場の配位が連動しなければならないことが結論されます。Green-Schwarz-Witten(あるいは Polchinski でも) の教科書に載っているような素朴な場合には、1/4 SUSY を保って D=4, N=1 にするために SU(3) ホロノミーをもつ多様体をコンパクト化空間に選び、それと「連動」してゲージ場も SU(3) インスタントン配位を仮定します。これがいわゆる “standard embedding” で、すると E8 ゲージ対称性は SU(3) が「期待値」をもつのでそれと交換する E6 にまで破れます。

少し長くなりましたが、こうして「自然」に E6 大統一理論が得られます。E6 はすばらしい群ですが、標準模型にするためには SU(5) や SO(10) のようなもっと小さな群が必要です。しかし、SUSY を 1/4 だけ破るためには基本的に SU(3) ホロノミーになるので、スピン接続(厳密には H=dB を足したもの)は SU(3) だが、インスタントンは SU(4) や SU(5) に値をもつような配位を考える必要があります。これが “non-standard embedding” です。

このように、カラビヤウ空間内にある条件をみたしたヤンミルズ配位が欲しいーFMW の論文は、そのようなベクターバンドルをつくる話なのです。

non-standard embedding は、Green-Schwarz-Witten でもちょこっとだけ(でもないか)議論されています。が、それからやく10年たって、その前年に発見された F理論との双対性とともに驚くべき進歩を見たのです。そこで最も驚くべきこと(そして日本ではほとんど全く語られていないこと)は、へテロティック弦にも、ベクターバンドルの構成を通して自然にブレーン的な描像があらわれることです。

これら一連のことを理解して得られる感動、そしてさらに現実の標準模型の構造(SU(5),SO(10),E6 そしてE7)との偶然とは思えない符合ー超弦理論はきっと現実を本当に記述しているに違いないと信じる気持ちが涌き起こってきます。

(具体的内容について全然書きませんでした。いつか書けたらと思います。)

素粒子のジグソーパズル=大統一理論?!

IMG_0046今年に入って1月はD論審査、2月は研究会、3月もいろいろあってこんなに更新があいてしまいました。4月
から授業も始まるのでまた再開したいと思います。

ヒッグズが見つかった時、いろんな方が「ジグソーパズルの最後のピース」に例えておられます。確かに、1つのピースがなくてどこかさがしていて、あった!完成!という気持ちは表現できていると思います。

しかし、と突っ込みますが、ジグソーパズルというのはできたものを遠くから眺めると、何かの絵や写真になっているものです。そして、大抵は外枠は四角いきちんとした形をしています。では、ヒッグズが見つかって標準模型が完成したのはいいとして、それって何でしょうか?

実は、(標準模型のヒッグズ以外の構成要素である)(カラー自由度も別に数えて)(右巻きニュートリノも3つあるとして. . . すいません、ただし書きが3つも続いちゃいました. . .)クォークとレプトンは、各世代ごとにSU(5)の5*表現と10表現と1表現の直和にぴったりはまるのです。もちろん、ゲージボゾンもSU(3)xSU(2)xU(1)はSU(5)の部分群ですからこれもちょうどはまります。そしてさらに、これらの表現はSO(10)のスピナー表現16のSU(5)の既約表現への分解にちょうどなっています。

こういう理論を大統一理論(GUT)といって、非常に古くから知られています。では、こんなことをなぜわざわざここに書くのでしょうか?

それは、最近の超弦理論にもとづく模型構築には、GUTはどうでもいいからSU(3)xSU(2)xU(1)の標準模型が実現さえできればいい、という考え方がよく見られるからです。

今日ここで強調したいのは、「素粒子はSU(5)の5*+10+1にまとまる」と言った瞬間に、クォーク・レプトンのあの奇妙なU(1)ハイパーチャージの割り振りが自動的に見事に説明できている、ということです。

それは、こういうことです:
5は3+2ですから、SU(3)xSU(2)xU(1) を SU(5) に埋め込めるのは当たり前だと思う方もおられるかもしれません。しかし標準模型のゲージ群にはU(1)もあります。そしてSU(5)の中に自然にSU(3)xSU(2)を埋め込んだとき、これらと交換するU(1)はユニークに決まってしまいます。すなわち、クォーク・レプトンのいくつかを特定のSU(5)の表現に組んだとすると、そのU(1)チャージはもう決まってしまっている、ということです。そして驚くべきことに、それらは現実のあの(1/6とかの)一見奇妙なアサインメントと一致しているのです。

この事実は、ゲージ結合定数が繰り込み群で高エネルギーで統一するかしないかとか言う以前に、すでに現実の素粒子の性質をGUTが説明している、と言えます。

繰り返しますが、この事実はものすごい古くから知られていることです。それでも、この事実を伏せて、あるいは偶然だとスルーして、模型を構築する場合が近年よくあります。

もちろん僕は批判しているわけではありません。ただ、上で述べたような GUT の美点が最近は語られることがあまりないような気がしたので書いてみました。

超弦理論は大変に豊富な構造をもっています。いろんなしかたで標準模型ライクな模型を実現することができます。しかし、それはまるで模造紙ぐらいの大きな枠に、3×16=48ピースのジグソーパズルをばらして、あんな風にも入る、こんな風にも入ると言っているのに似ていると思います。