なんて、もちろん一般の方や学生さんはご存知ないでしょう。素粒子理論の研究者でも普通は知らないと思いますし、超弦の研究家でも日本で理解している人がどれだけいるでしょうか。
しかし、知っている人が少ないからと言って重要でないというわけではありません。というか、むしろこの論文は「素粒子論としての超弦理論」として「超」重要なことが見いだされ、書かれている論文です。そして、これらのことについて日本では最近(全く、でなければ)ほとんど語られないのが問題なのです。
この論文も古い論文です。1997年1月なので、もう20年近くになります。タイトルは”Vector bundles and F theory” hep-th/9701162 です。なのでこの内容自体が「最近の研究から」の記事としておかしいかもしれませんが、僕自身これに関連した研究をしていて論文を書いたので、FMWの重要性についてあらためて書いてみようと思います。たぶん話が長くなるので、何回かに分けて書いてみます。
まず、タイトルですが、「ベクター束とF理論」なんて、なんて抽象的で数学にしか関係ないようなタイトルなんでしょう。しかし、この論文は現実の素粒子の標準模型の構造を最もよく反映する超弦理論である E8xE8 へテロティック弦 のコンパクト化に大きな進展を与えています。
へテロティック弦はアノマリー相殺から予言された奇跡的な無矛盾性をもつ理論で、そのもっとも変な(?)ことの一つが、アノマリーを相殺するために(普通は変換しない)「B場」(2階反対称テンソル場)もゲージ変換や局所ローレンツ変換しなければならないことです(Green-Schwarz 機構)。すると、コンパクト化空間の幾何と空間内のゲージ場の配位が連動しなければならないことが結論されます。Green-Schwarz-Witten(あるいは Polchinski でも) の教科書に載っているような素朴な場合には、1/4 SUSY を保って D=4, N=1 にするために SU(3) ホロノミーをもつ多様体をコンパクト化空間に選び、それと「連動」してゲージ場も SU(3) インスタントン配位を仮定します。これがいわゆる “standard embedding” で、すると E8 ゲージ対称性は SU(3) が「期待値」をもつのでそれと交換する E6 にまで破れます。
少し長くなりましたが、こうして「自然」に E6 大統一理論が得られます。E6 はすばらしい群ですが、標準模型にするためには SU(5) や SO(10) のようなもっと小さな群が必要です。しかし、SUSY を 1/4 だけ破るためには基本的に SU(3) ホロノミーになるので、スピン接続(厳密には H=dB を足したもの)は SU(3) だが、インスタントンは SU(4) や SU(5) に値をもつような配位を考える必要があります。これが “non-standard embedding” です。
このように、カラビヤウ空間内にある条件をみたしたヤンミルズ配位が欲しいーFMW の論文は、そのようなベクターバンドルをつくる話なのです。
non-standard embedding は、Green-Schwarz-Witten でもちょこっとだけ(でもないか)議論されています。が、それからやく10年たって、その前年に発見された F理論との双対性とともに驚くべき進歩を見たのです。そこで最も驚くべきこと(そして日本ではほとんど全く語られていないこと)は、へテロティック弦にも、ベクターバンドルの構成を通して自然にブレーン的な描像があらわれることです。
これら一連のことを理解して得られる感動、そしてさらに現実の標準模型の構造(SU(5),SO(10),E6 そしてE7)との偶然とは思えない符合ー超弦理論はきっと現実を本当に記述しているに違いないと信じる気持ちが涌き起こってきます。
(具体的内容について全然書きませんでした。いつか書けたらと思います。)