D-ブレーン「だけ」ではフレーバー構造を実現できない3つの理由(その1)

D-ブレーンのほかにオリエンティフォールドとかがあってもダメなんですが、超弦理論にはD−ブレーンでもオリエンティフォールドでもない世界があって、現実の素粒子の構造はそちらにぴったりはまっている、ということなのです。

およそ20年ほど前、D−ブレーンというものが超弦理論に発見されました。それらは、それまで超弦理論をワールドシート上の場の理論を量子化して定義して得られていたスペクトラムにはなかった、ソリトンのような「ワールドシート理論から見て」非摂動論的なオブジェクトだったため、QCDにおける格子計算が「非摂動論的」取り扱いであるという事実からの(時には恣意的な)連想から、D−ブレーンさえやっていればすべてわかるに違いない、という(今となっては誤った)期待がありました。

確かに、D-ブレーンの発見は超弦理論に多くの知見をもたらしました。AdS/CFT対応は、それまで知られていなかったゲージ理論と重力理論の関係に基づく新しい視点からさまざまな研究成果を生み出し、またD-ブレーンが非常に軽くなれる状況(特異点近傍)では、それまで全く別の理論と思われていた理論が実は等価になっている、という驚くべき事実が次々と明らかになりました。

しかし、超弦理論はQCDとは違います。QCDでは非摂動論にやるということはすべてをやるということなのに対し、D−ブレーンは弦(ファンダメンタル・ストリング、ワールドシートで定義される弦)からみたら非摂動論的ですが、逆にD−ブレーンからみて弦は非摂動論的オブジェクトであり、どちらがまさっているとかいうものではありません。例えば、へテロティック弦の摂動論的な例外型ゲージ対称性は、D-ブレーンだけの系、あるいはオリエンティフォールドを入れても実現することはできません。

なので、どの弦理論がいいのかは、現実の素粒子の性質と照らし合わせてはじめてきめられることなのです。そして、D-ブレーン模型にはフレーバー構造を実現するのに重大な欠陥が少なくとも3つあります。それを裏返せば、なぜF理論(あるいはある特定の幾何学構造を盛り込んだM理論、あるいはそれらを回避するだけならへテロティック理論も)でなければならない理由になるのですが、次回それらについて説明したいと思います。