ご挨拶

富士
物質や生命の機能に対して、界面などの境界条件は重要な役割を果たしています。界面はまた、超伝導の増強や、新奇な物性を生む場としても注目されます。本領域では、「超低速ミュオン顕微鏡」を用いた新しい実空間イメージングの方法を確立し、界面において多様な物理・化学・生命現象が現われる機構を解明して、物質設計に役立てる新しい学術領域の開拓を目指します。加速器で作られる正電荷のミュオンはスピンが揃っていて、物質内部に埋め込まれると、平均寿命2マイクロ秒で崩壊するまでの間に、隣り合った原子の状態と運動を、高感度で測定します。 超低速ミュオン顕微鏡」は、物質・生命の研究に最も必要とされる、(1)深さ方向にナノメータ分解能での連続走査性能を持つ「超低速ミュオン」と、(2)ミクロンオーダーのビーム径で物質内部の3次元走査性能を持つ「高密度マイクロビーム」の2つの機能を目指す世界初の実験装置です。 生命科学においても生体のイメージングなどの新たな可能性を拓きます。加えて、「超低速ミュオン」をさらに低速化し、「マイクロビーム」をさらに尖鋭化することにより、「標準理論」を越える素粒子/基礎物理のフロンティアを築きます。
本研究は次の4つの研究計画班と公募研究者で構成します。

(A01) 超低速ミュオン顕微鏡と極微μSR法創成:顕微鏡の開発を先導し、微小領域を3次元にマッピングする顕微法を確立することにより、アクチナイド物質、分子性結晶、DNAの性質を解明。

(A02) スピン伝導と反応:電子や原子などの移動を伴う系のスピン選択性やダイナミクスを解明。半導体のスピン伝導、触媒化学反応、電気化学を担うイオン伝導、生命反応を司る電子伝達。

(A03) 表面-バルク境界領域におけるヘテロ電子相関:表面からバルクへの境界領域における、ナノからミクロンの長さスケールで生起する共同現象を解明。超伝導、磁性の境界効果等。

(A04) 物質創成の原理を極める超冷却と尖鋭化:世界最強レーザー技術で領域の基盤技術を支えるとともに、顕微鏡のさらなる高度化と、将来のミュオン異常磁気能率の精密測定を目指した超高性能ビームの原理の実証。

鳥養映子
鳥養映子領域代表。背景はJ-PARC物質・生命科学実験施設(MLF)の正面玄関モニュメント