研究項目

A01 超低速ミュオン顕微鏡と極微μSR法創成
本班の代表者らはパルス状ミュオンビームとVUV 光を同期させることによって、これまでにない低速でかつエミッタンスに優れた超低速ミュオンを生成するための基礎技術を KEK 並びに英国の理研RAL ミュオン施設で開発してきました。高時間分解能を有し、かつ、ビーム径を3mmφ に絞る事ができる超低速ミュオンを、安定して毎秒20 個引出すまでに技術開発が進展しています。 一方、東海村に建設されたJ-PARC ミュオン施設では、陽子強度が設計値の1/8(120kW)に達した平成21 年度末には理研RAL ミュオン施設を越え、世界最高ミュオン強度を更新中です。平成22 年度には、ミュオン顕微鏡のための専用ビームライン建設が始まり、本新学術領域研究が認められた際にタイムリーに設置が行える予定です。本研究班では超低速ミュオン顕微鏡の本体部分に相当する超低速ミュオン顕微鏡mSR 分光器を整備します。A04 班で準備される100μ J/p/cm2 を超える大強度パルス状ライマンαレーザーシステムとの連結により、世界最高性能・最高強度の超低速ミュオン顕微鏡がJ-PARC に誕生します。また、ビーム径を1μmφ 程度にできるので、これまで研究対象となり得なかった微小試料、微小領域状態を探る研究を行います。(研究者数13 名)
図2 超低速ミュオン顕微鏡の概念図
図2 超低速ミュオン顕微鏡の概念図
A02 界面のスピン伝導と反応
本計画班は、キャリアの動的過程、すなわち伝導と反応を伴う諸現象の機構を、統一的な視点から解明する新しい学術分野の開拓を目指します。 電子伝導・イオン伝導・触媒化学反応・生命分子反応に内在するスピンの時間発展を、超低速ミュオン顕微鏡を用いて観測します。得られた結果を、「動的過程を伴う相互作用のスピン選択性」という概念で理解することにより、これらの現象を統一的に説明します。 スピン偏極した軽い陽子と見なせるミュオンを、表面・界面水素化反応、電池電極反応、界面水素の電子物性を測定するトレーサーに用いて、反応中の原子の挙動を観測し、化学反応の研究に新領域を拓きます。また、物質中で電子の捕獲と放出を伴うミュオンの素過程を利用して、高分子や生体物質など、磁性を持たない物質の性質を超高感度で探ります。さらに空間マッピングにより、伝導経路の同定や、界面におけるスピン寿命の測定を行います。これらの研究により、金属触媒や光触媒における原子間スピン交換、界面におけるスピン散乱、高分子膜や生体中の電子伝達、イオン伝導の空間分布、触媒や細胞中の酸素の挙動など、極微領域での運動を伴う現象に微視的に迫ります。(研究者数16 名)
図2
A03 表面-バルク境界領域のヘテロ電子相関
表面から深さ102nm まで、深さ方向数nm の空間分解能でミュオンを注入でき、なおかつミュオンスピン回転緩和法が局所磁性の敏感なプローブであることを用い、表面・界面・薄膜の磁性、超伝導性を調べます。空間反転対称性の破れた境界領域に特徴的な複合的(ヘテロ)電子相関を通じて異方的超伝導、薄膜渦糸ダイナミクス、表面・界面磁性、研究を行います。異方的超伝導体境界効果: 異方的超伝導体はクーパー対軌道対称性を反映した境界効果を示し、その研究は、超伝導発現機構解明に重要な情報を与えます。走査トンネル分光法、角度分解光電分光法とあわせて、異方的超伝導体の新研究法を確立し、異方的超伝導発現機構を解明します。表面・界面磁性: 表面・界面近傍で現れる電子の軌道角運動量の効果と電子相関とがもたらす複合的な磁性、伝導現象を明らかにします。(研究者数17 名)
図3
A04 物質の究極を極める超冷却と尖鋭化
本研究で実現する低温のミュオンを再加速することでビーム軸に垂直な方向への角度分散が極めて小さいビームを生成できます。このビーム性能をさらに先鋭化させ、ミュオン磁気モーメント研究等のレプトンセクターの物理量精密測定から、標準理論を超えた物理の発見・確立が期待されます。そのためにはよりエミッタンスや時間分解能の高いビームが必要となります。このため、(1) ミュオニウム発生源の低温化によりエミッタンスを更に向上させ、(2) エネルギーに時間変調を掛けたレーザーと位相回転を組み合わせてサブμ m の収束を実現し、(3) RF による位相回転によるバンチングでビームを短バンチ化し、100ps を切る究極の時間分解能を目指します。また、ミュオニウム発生源の低温化により空間散逸も小さくなるので、ミュオニウム乖離用レーザーを絞ることで取出効率を向上させることも可能となります。本研究班で実現した機器をA01 班が開発する機器に組み込むことで、得られるビーム特性は更に向上することが見込まれます。また、A01 班でも基幹設備となる共鳴イオン化を飽和させる為の100μ J/p/cm2 大強度パルス状ライマンレーザーは、理研で詳細の具体的な設計が進んでいるため、本研究班でその実現をはかります。(研究者数11 名)
図4
X00 総括班
総括班は、計画研究代表者と有識者から構成され、(1)各計画班および公募研究の有機的な連携促進と研究支援、(2)領域の運営と研究遂行に関する一元的な窓口、 (3)共同研究、研究人材育成の組織的推進、(4)評価と助言・指導、(5)成果の情報発信、の機能を果たします。これにより、本領域の円滑な推進を図り、確実な成果に結びつけることを目的としています。目的の実現のため、計画研究部門、イノベーション創出部門、評価部門の3部門を設置し、全体を領域代表がとりまとめる体制を作ります。計画研究部門は、異分野からなる研究者間の有機的な連携を促進すると共に、全体会議の定期開催により計画研究班全員の情報共有を図ります。イノベーション創出部門は、計画研究班と協力して、学会・社会連携、産業界・国際連携を推進します。評価部門は、関係する分野の経験豊富な有識者4名で構成し、計画研究班代表らから研究の進捗報告を受け、指導・助言を行うとともに、年1回評価報告と提言を行います。また総括班は、本領域が主体的に研究を進められるように、施設運営に関わる研究機関との調整に責任を持ちます。(研究者数8名、評価者4名)
総括班