ミュオンとは
ミュオン(μ)は素粒子の内、電子と同じレプトンに分類されている不安定素粒子です。π中間子が自然崩壊することで誕生し、正電荷又は負電荷を持ち、陽子の約1/9倍、電子の約200倍の質量があります。ミュオンは2.2μs(約50万分の1秒)の寿命で陽電子とニュートリノに崩壊し、その際に弱い相互作用によってスピンの向きに選択的に陽電子を放出します。
ミュオンの生成
J-PARCではシンクロトロンによって3GeVまで加速させた陽子ビームをミュオン生成標的(黒鉛)に照射します。陽子と炭素原子核が衝突すると核破砕反応が起こり、π中間子(パイオン)が生成されます。π中間子は平均26ns(10億分の26秒)で自然崩壊して、ミュオンとニュートリノ(ν)を生成します。
生成標的から飛び出してきたパイオン(π+, π-)は超伝導ソレノイド電磁石内を飛行中に崩壊して、ミュオン(μ+, μ-)になります。生成標的に止まったパイオン(π+)は運動エネルギーが0なので、崩壊して得られるミュオン(μ+)は最大4MeV程度です。静止した負パイオンは原子核に捕獲されるので、負の低速(表面)ミュオンを取り出すことは出来ません。
超低速ミュオンとは
超低速ミュオンは、加速器から引き出した低速(表面)ミュオンからミュオニウム(正ミュオンの周りを1個の電子が回っている水素原子の同位体のような状態。Muと表記)を生成した後、イオン化レーザーを照射(共鳴イオン化解離法)して電子を剥ぎ取ったミュオンです。生成されるMuはエネルギーが約0.2 eVまで低下しているので、再変換して得られるミュオンはとてもエネルギーが低く、超低速ミュオンと呼ばれています。