研究紹介
JSNS2 (J-PARC E56) 実験
(J-PARC Sterile Neutrino Search at J-PARC Spallation Neutron Source;
J-PARC MLF中性子源を用いたステライルニュートリノ探索)
J-PARC 物質生命科学研究施設(MLF)の水銀標的にて大量に発生するニュートリノを用いて、現在までの 標準模型で記述されない(弱い相互作用を行わない)ステライルニュートリノに関する振動現象を探索します。 (2013年9月に正式に実験を提案しました。
ステライルニュートリノ
ステライルニュートリノ は弱い相互作用を起さないニュートリノで、 暗黒物質の候補でもあります。
下の表のような実験で、その存在が示唆されています。
LSND、MiniBooNEが通常の3つのニュートリノ(電子、μ、τ型) では振動が起りえない、μ型のニュートリノから電子型への変換を、 また、Ga実験や原子炉実験で、電子型ニュートリノの消失を 観測しています。これはニュートリノ振動であったとするならば、 L(m)/E(MeV)~1 の非常に短基線で振動が起ったことになります。
ただし、現在のところ、実験のビームや検出器に対する 系統誤差の甘さが指摘されており、世界の物理関連の人達を確信させるに 至っていません。 そこで、本研究では、MLFの非常に優れたビームと最新の検出器を用いて ステライルニュートリノの存在について完全なる結着を付けることを 目的としています。
MLFの概観と実験の検出器位置について
図; 物質生命科学研究施設の概観図。赤は検出器の設置候補地
右手の方向から、エネルギー3GeVの陽子がやってきて、紫の矢印の先 にある水銀標的に衝突します。
その際、パイ中間子、μ粒子が静止崩壊を起こし、その際、大量の ニュートリノも生成します。我々はそのニュートリノを用いて実験を 行います。
ニュートリノの生成時間
図; 物質生命科学にくる陽子ビームタイミングと水銀標的で生成する
ニュートリノの生成時間の関係について。 (横軸が時間、縦軸が生成されたニュートリノの数。)
図上にある、2つの四角が陽子ビームの時間構造です。だいたい80nsの 幅を持つbunchが2つあり(これをspillといいます)
このspillが40ms毎に來ます。(25Hz周期)
水銀中のパイ中間子やK中間子から生成されるニュートリノは比較的陽子
のタイミングと同じ時間に生成されますが、静止ミュー崩壊から生成される
ニュートリノはミューの寿命が長いため、他のニュートリノより、 遅れて生成します。
この特性を用いて、我々の実験ではミューから生成されるニュートリノの みを選択して用います。
静止ミューからのニュートリノのエネルギーは精密に理解されており、 この情報を使えることが、精密実験へと導きます。
また、陽子ビーム開始時間から10μsまでに来た先発事象を使うことで、 宇宙線背景事象を大幅に減らすことができます。
Detector
50トンの液体シンチ検出器と検出原理。
右上の図にあるような検出器タンクには、Gdが入った液体シンチを 入れて、逆β崩壊反応を用いたニュートリノ検出を行います。 この反応は、右下の図にあるように、振動後の反電子ニュートリノが 液体シンチ内の陽子と反応し、陽電子と中性子を生成します。 陽電子は反応後、すぐにシンチ光を発するのに対し、中性子は液体 シンチ内で熱化し、約30マイクロ秒たった後にGdに吸収されて 8MeVのγ線を放出します。 この2つの信号の同時遅延計測方法を用いることで、背景事象を 一気に減らすことができます。
エネルギー分布が鍵
図; 24m地点に50トンの液体シンチ検出器を設置した際の検出される ニュートリノエネルギー。
青が背景事象。赤がステライルニュートリノがあった場合、振動条件を 変えた際の信号。
期待される感度
図; 5年×MW強度ビームで得られる実験の感度。ピンクの線が90%信頼度です。
緑(99%信頼度)と茶色(90%信頼度)の島はLSND実験が主張する ステライルニュートリノ肯定的振動領域で
我々の実験は、全ての領域で LSNDが出している肯定的な結果について その真偽について結論を出せます。
エネルギー分布が振動かどうか曖昧な場合は、更に長い帰線と大きな 検出器を使用した次期計画も考えています。