QCD は低温領域ではカラーの閉じ込めとカイラル対称性の自発的 破れという性質を持っているが、有限温度・密度においては、 非閉じ込め、カイラル対称性の回復などが起こり、多様な相構造 を持つと予想されている。 我々は、格子QCDシミュレーションを用い、ハドロン相関関数の 振る舞いを通して、これらの現象を研究している。 これは、場の理論としての QCD の構造のを理解のみならず、 重イオン衝突実験の結果を解釈する上でも重要な知見を得ること が期待できる。
ダイナミカルクォークの効果を無視する近似で、チャーモニウムの 相関関数を有限温度で調べることにより、これまでに次のような ことが分かった。 相転移近くの閉じ込め相ではポテンシャルモデルから予想されて いるような質量の変化は起きず、モデルに用いるポテンシャルに 対して再検討が必要である。 また、非閉じ込め相でも、ハドロン的なモードの存在を示唆する 振る舞いが得られ、単純なほぼ自由なクォークとグルーオンで 構成されているという描像よりはるかに複雑な構造があることが 分かった。 更に、これらの結果を理解するための現象論的な枠組みの考察を 行っているところである。
また、有限密度でのシミュレーションは、位相問題のため難問で あるが、我々はテイラー展開法によって、有限温度でのハドロン の遮蔽質量の、密度ゼロの近傍での振る舞いを求めた。 カイラル対称性の回復がこの密度効果におよぼす影響など、より 詳細な理解を得るために、カイラル外挿を行うための系統的な 計算を行っているところである。