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研究背景

宇宙のどのような環境下で元素が生成されたのか?天体の進化と定量的に結びつけて、元素生成の起源解明が進んできました。その結果、水素(原子番号Z=1)から鉄(Z=26)に至るまでの元素の起源となる天体環境は明らかとなりました。しかし、鉄からウラン(Z=92)に至る重い元素の半分についての起源は謎のままです。これらの元素は速い中性子捕獲過程(r-過程)により合成されたと考えられていますが、どのような天体環境下で起こる過程なのかが分かっていません。これを解明するには、r-過程時に生成される中性子過剰な重い不安定核、特に滞留核と呼ばれている50, 82, 126という中性子数で作られた不安定核の崩壊の仕方、寿命、質量等の核データをベータ崩壊核分光という手法で詳細に調べる必要があります。数百ミリ秒の滞留核の寿命を測定できればr-過程の継続時間を推定出来るので、起源となる天体環境を特定するのに役立ちます。KISSでは、超高純度アルゴンガスセルを使用して、136Xe/238Uビームと198Pt標的との核反応で生成された中性子数126の未知の滞留核を捕獲しイオンとして引出し、様々な核分光手法を用いてこの領域の中性子過剰核の性質を調べています。

研究概要

多核子移行反応

質量数が195近傍の短寿命核は、ウランの核破砕反応では作りにくく、他の生成方法が求められていました。そこで、我々は核子当たり数MeVという低いエネルギーの重イオン衝突反応に着目しました。このエネルギーは、原子核の中での核子のフェルミエネルギーより十分低いので、重イオン同士(重イオンビームと重い原子核)が衝突する際に、多数の核子の交換を繰り返し、中性子や陽子の移行が重イオン間で行われると考えられます。しかし、多数の核子が関与する複雑系なため、反応を記述する理論はまだ確立しておらず、現在の理論による断面積の予想能力を実験によって検証する必要があります。

 

2012年3月にフランスGANILのVAMOS磁気分析器を用い、136Xeビームと198Pt標的の多核子移行反応断面積を系統的に測定する実験を行いました。解析結果から多核子移行反応を用いることで、中性子数126近傍の未知核を大量に生成できることを突き止めました。また今回の実験結果から、より中性子過剰な238Uビームを用いることで、更に安定線から遠く離れた未知核を効率良く生成できる可能性を見出しました。現在、238Uビームを使って中性子数126近傍核の生成量を調べ始めました。

 

短寿命核の選別方法:アルゴンガスセル+レーザー共鳴イオン化

KISS(図1参照)では、アルゴンガスセルで捕集した短寿命核をガス輸送した後、ガスセルの出口付近でレーザー共鳴イオン化法により、興味のある元素のみを選択的にイオン化し(原子番号Zの選択)、20keVの低エネルギービームとして引出し、双極電磁石で質量分離(質量数Aの選択)することで、単一の原子核のみを選び出しています。その後、短寿命核をテープ装置まで輸送して、高精度の核分光測定を行っています。
元素選択型質量分離器 KISS
図1:元素選択型質量分離器KISS概略図

 

多核子移行反応で生成されたN=126近傍の短寿命核は白金標的からある運動エネルギーと放出角度を持って飛び出してきます。精密核分光を行うためには、これらの短寿命核を高効率で捕集し、分離選択する必要があります。しかしながら、大角度(約65±10度)かつ低運動エネルギー(1MeV/核子以下)で放出されるため、従来の粒子識別方法で分離選択することが非常に困難です。我々はこの問題を解決するために、短寿命核を高効率で捕集かつ分離選択できる高純度アルゴンガスセルに着目しました。短寿命核の運動エネルギーは厚さ数センチの一気圧アルゴンガス中で完全に損失するため、短寿命核を高効率で捕集できます。捕集された短寿命核は、アルゴンガスの層流に乗って約0.5秒で出口まで輸送されます。流体シミュレーションを行い、高効率かつ高速アルゴンガス層流を生成可能なガスセルを製作しました。中性原子のガス輸送時間を測定することで、流体シミュレーション結果と良く一致することを確認し、予定通りの性能を有するガスセルを製作することに成功しました。

 

KISSでは2段階レーザー共鳴イオン化法を用います。2段階というのは、2つの異なる波長のレーザーを用いて、中性原子から電子を1つ剝ぎ取り、1価の短寿命核イオンを生成するという意味です。1段階目には、波長が250nm近辺の紫外線レーザーを用いて電子を励起させます。この1段階目のレーザー波長を変更することで、簡単に興味のある元素を選択できます。そのためKISSでは1段階目のレーザーに色素レーザーを使用しています。色素の種類を変えることで、200-1100nmの広範囲にわたってレーザー波長を変えることができ、現在知られている元素の約80%を選択的にイオン化できます。2段枚目にはイオン化効率を上げるために大強度のエキシマレーザー(XeCl, 308nm)を利用しています。このレーザーの組み合わせで、KISSで着目している重い領域の元素を選択的にイオン化できることを実験的に確認しました。

 

ドーナツ型アルゴンガスセルと回転標的

短寿命核の生成量を増やすためには、大強度一次ビーム136Xe/238Uを利用する必要があります。そのための工夫として、ドーナツ型ガスセルと回転標的(図2参照)を開発しました。

 

元素選択型質量分離器 KISS 

図1:ドーナツ型ガスセルの流体シミュレーションと実機の写真

 

大強度一次ビームを白金標的に照射すると、ビームのエネルギー損失による発熱のため標的が溶けてしまいます。発熱を抑えるために、円盤状に標的を並べて回転させることで、発熱箇所を分散させ、約10倍程度一次ビームの強度を増やすことができます。その結果として、短寿命核の生成量を10倍増加させることが可能になります。

 

大強度一次ビームをガスセル中に照射すると、高濃度のアルゴンプラズマがガスセル中に生成されます。このアルゴンプラズマから放出される紫外線やX線が、レーザーイオン化領域にアルゴンプラズマを誘起するため、レーザーイオン化した短寿命核イオンが再中性化し、引出したイオンビームの強度が低下します。これを避けるために、一次ビームがアルゴンガスセルに入らないように、ドーナツ型にすることで、大強度ビーム利用を可能としています。実際に、ドーナツ型ガスセルを用いることで、短寿命核イオン強度を10倍に増やすことに成功しました。更に強度を増やすために、日々開発を行っています。

 

高精度β崩壊核分光測定用検出器

図3はKISS用に開発した高精度β崩壊核分光用検出器です。KISSガスセルから引き出された短寿命核ビームは、アルミ蒸着マイラーテープに打ち込まれて、その後、ベータ崩壊時に放出されるベータ線とガンマ線のエネルギーと時間を測定し、ベータ崩壊の寿命測定、精密核分光を行います。

 

多核子移行反応で生成される短寿命核の収量は非常に少ないため、宇宙線や実験室壁面から放出される放射線によるバックグラウンド(BG)量を下げなければ、精度良く測定できません。そのために、低バックグラウンドなベータ線検出器として、ガス検出器を開発しました。このガス検出器は、ベータ線の放出方向の軌跡を追えるように32chのアルゴン(90%)+メタン(10%)の混合ガス1気圧を用いた比例係数管からなっています。内部は、テープを取り巻くように円柱状に内側16ch、外側16chからなり、内側と外側の対となる一組の検出器が鳴った時に、本物のベータ線を検出したと判断します。それによりBG量を0.1cpsまで抑えることに成功しています。今後は、信号を両端から読み出し3次元で軌跡を測定することで0.01cpsまで減少させる予定でいます。

 

その周りには4台のSuper Clover Ge検出器が配置されています。これはKEKと韓国IBS(Institute of Basic Science)の共同研究により韓国から借用したものです。このGe検出器の内部には、4つの大きなGe結晶(相対効率38%x4)があり、検出効率が非常に大きいのが特徴です。これまでKISSで使用していた検出効率を10倍向上できました。この検出器の信号を処理するための電気回路の調整、データ取得システムおよびデータ解析プログラムを共同で開発しており、2017年2月から実験に投入されています。
KISS装置の準備が整った現在、N=126近傍核の精密核分光測定を展開していくところです。

 

元素選択型質量分離器 KISS
図3:KISSのベータ崩壊核分光用検出器

Presentation at Meeting

International workshop/conference

  • OMEG2015 2015/6/24-24, Y. Hirayama (Poster)
  • EMIS2015 2015/5/11-15, Y. Hirayama (Oral), Y.X. Watanabe (Oral), S. Kimura (Poster), M. Mukai (Poster)
  • ARIS2014 2014/6/1-6, Y. Hirayama (Poster), M. Mukai (Poster)
  • 16th ASRC International Workshop 2014/3/18-20, Y.X. Watanabe (Oral)
  • FUSION14 2014/2/24-28, Y.X. Watanabe (Invited)
  • KEK-TRIUMF workshop 2013/10/10,11, H. Miyatake (Invited)
  • LIA worhshop, 2013/9/30-10/4 Y.X. Watanabe (Invited)
  • 12th Asia Pacific Physics Conference of AAPPS,
    "Study of the multi-nucleon transfer reactions of 136Xe+198Pt for producing exotic heavy nuclei", Kim Young Hee (Oral)
  • INPC2013 Y. Hirayama (Poster), Y.H. Kim (Poster)
  • EMIS2012 Y. Hirayama (Oral)
  • "Beta-decay spectroscopy of r-process nuclei using KEK isotope separation system" by Y. Hirayama (Oral) at Advances in Radioactive Isotope Science - ARIS 2011 2011/5/29-6/3
  • "KEK isotope separation system for β-decay spectroscopy of r-process nuclei" by Y.X. Watanabe (Oral)2nd IRiSworkshop

 

Domestic workshop/meeting

  • 日本物理学会2013年度秋季分科会「Measurement of multinucleon transfer reaction of 136Xe + 198Pt: II」渡辺裕、他
  • 日本物理学会2013年度秋季分科会「Development of KEK Isotope Separation System I」平山賀一、他
  • 日本物理学会2013年度年次大会 「KISSでの重いr-過程核の崩壊核分光にむけた高効率共鳴イオン化経路の探索」向井もも

 

Workshop dedicated to KISS project

  • 2016 SSRI-PNS Collaboration Meeting 2016/9/2-3
  • SSRI-PNS Collaboration Meeting 2015/9/3-4
  • The 2nd KISS workshop 2011/3/5
  • The first KISS workshop 2010/9/6

Reference

  • KEK Isotope Separation System (KISS)
    KEK RNB group
    20 March, 2015

  • Laser ion source for multi-nucleon transfer reaction products
    Y. Hirayama, Y.X. Watanabe, N. Imai, H. Ishiyama, S.C. Jeong, H. Miyatake, M. Oyaizu, S. Kimura, M. Mukai, Y.H. Kim, T. Sonoda, M. Wada, M. Huyse, Yu. Kudryavtsev, P. Van Duppen
    Nucl. Instrum. Meth. B 353, 4-15 (2015)

  • Ionization cross section measurements for autoionizing states of iridium and rhenium
    Y. Hirayama, M. Mukai, Y.X. Watanabe, N. Imai, H. Ishiyama, S.C. Jeong, H. Miyatake, M. Oyaizu, Y. Matsuo, T. Sonoda, M. Wada
    J. Phys. B: At. Mol. Opt. Phys. 47 (2014) 075201

  • In-gas-cell laser ion source for KEK isotope separation system
    M. Mukai, Y. Hirayama, S.C. Jeong, N. Imai, H. Ishiyama, H. Miyatake, M. Oyaizu, Y.X. Watanabe, Y.H. Kim
    Rev. Sci. Instrum. 85 (2014) 02B906

  • β-deacy spectroscopy of r-process nuclei with N = 126 at KISS

    Y. Hirayama, Y.X. Watanabe, N. Imai, H. Ishiyama, S.C. Jeong, H. Miyatake, M. Oyaizu, Y.H. Kim, M. Mukai, S. Kumra
    AIP Conf. Proc. 1594 (2014) 380-387


  • Study of the multi-nucleon transfer reactions of 136Xe + 198Pt for producing exotic heavy nuclei

    Y.H. Kim, Y.X. Watanabe, Y. Hirayama, N. Imai, H. Ishiyama, S.C. Jeong, H. Miyatake, S. Choi, J. Song, E. Clement, G. de France, A. Navin, M. Rejmund, C. Schmitt, G. Pollarolo, L. Corradi, E. Fioretto, D. Montanari, M. Niikura, D. Suzuki, H. Nishibata, J. Takatsu
    EPJ Web of Conferences 66, 03044 (2014)


  • Present Status of KEK Isotope Separation System
    Y. Hirayama, S.C. Jeong, Y.X. Watanabe, N. Imai, H. Ishiyama, H. Miyatake, M. Oyaizu, Y.H. Kim, M. Mukai, T. Sonoda, M. Wada, M. Huyse, Yu. Kudryavtsev, P. Van Duppen
    EPJ Web of Conferences 66, 11017 (2014)

  • Study of collisions of 136Xe + 198Pt for the KEK isotope separator
    Y.X. Watanabe, Y. Hirayama, N. Imai, H. Ishiyama, S.C. Jeong, H. Miyatake, E. Clement, G. de France, A. Navin, M. Rejmund, C. Schmitt, G. Polarolo, L. Corradi, E. Fioretto, D. Montanari, S.H. Choi, Y.H. Kim, J.S. Song, M. Niikura, D. Suzuki, H. Nishibata, J. Takatsu
    Nuclear Instruments and Methods in Physics Research B 317, 752-755 (2013)

  • Off-line test of the KISS gas cell
    Y. Hirayama, Y. Watanabe, N. Imai, H. Ishiyama, S.C. Jeong, H. Miyatake, M. Oyaizu, Y.H. Kim, M. Mukai, Y. Matsuo, T. Sonoda, M. Wada, M. Huyse, Yu. Kudryavtsev, P. Van Duppen
    Nuclear Instruments and Methods in Physics Research B 317, 480-483 (2013)

  • KEK Isotope Separation System for Decay Spectroscopy of R-Process Nuclei
    Y.X. Watanabe, H. Miyatake, S.C. Jeong, H. Ishiyama, N. Imai, Y. Hirayama, M. Oyaizu, K. Niki, M. Okada, M. Wada, T. Sonoda
    NUCLEAR STRUCTURE PROBLEMS Proceeding of the French-Japanese Symposium,World Scientific Publishing, Co. pp.167-172 (2013)

  • KISS: KEK isotope separation system for β-deacy spectroscopy
    S.C. Jeong, N. Imai, H. Ishiyama, Y. Hirayama, H. Miyatake, Y.X. Watanabe
    KEK Report 2010-2 (2010)

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