物体からの散乱
ここでは、一般の物体からのX線散乱を考えます。
我々の身の回りある物体は すべて原子で構成されており、
入射したX線は、原子の持つ電子により散乱される。
したがって 物体のX線散乱を計算するためには、
物体の全ての電子からの散乱を考えれば良いわけです。
では、実際に計算してみましょう。
原点Oに存在する電子から散乱された波と 距離rだけ離れた位置に存在する
電子から散乱された波の位相差を計算します。
入射光の、原点Oと距離rに到達するまでの光路差xは、
x=sinΦです。したがって 位相差は、2πsinΦ/λ=k・rとなる。
(kは、入射光の波数ベクトル)
同様にして、原点Oと距離rからの波数ベクトルk'方向への散乱
光は光路差yで、位相差-k'・rです。
すると、全体で位相差(k-k')・rとなります。
後は物体全体からの電子の積分を考えれば良いですから、
波数ベクトルk'方向への散乱振幅F(k-k')は、
物体の電子密度関数ρ(r)を用いて、
F(k-k')=∫drρ(r)
exp[i(k-k')・r]
となります。
この式、どこかで見たことありませんか?
フーリエ変換
フーリエ変換とは、ある任意の時間tの関数 f(t)を、
含まれる角周波数成分に分解し、 角周波数ωの関数 F(ω) にしたものである。
日本語で書くと、わけ分からないですね。
数式で見てみると、
F(ω)=∫dt f(t) exp(-iωt) (フーリエ変換)
f(t)=1/(2π)∫dω F(ω) exp(iωt) (フーリエ逆変換)
フーリエ逆変換を見て頂ければ、上で言っていることが分かりませんか?
つまり、いろんな角周波数成分を足し合わせることにより、
もとの関数f(t)を再現しています。
また、どの周波数成分が多く存在するかを示しているのが F(ω)ですね。
詳しいことは、他のところで勉強して頂くとして、上のフーリエ変換の式と
上で計算した散乱振幅の式は同じですね。
つまり、電子密度の関数ρ(r)のフーリエ変換は、
散乱振幅F(k-k')となります。
実空間と逆空間
すでに述べたように、実空間である
電子密度の関数ρ(r)のフーリエ変換は、
散乱振幅F(k-k')となり、これを
逆空間といいます。
実験では、X線散乱強度を測定することにより、
散乱振幅F(k-k')が求まります。(注1)
この求まった散乱振幅F(k-k')をフーリエ逆変換してやれば
X線を当てた物体の電子密度分布ρ(r)が求まります。
このように、X線散乱では、X線が電子により散乱されるので、
物質の散乱振幅を測定すれば、物質の電子密度を
求めることが出来ます。
同様に、中性子散乱では、中性子が原子核・スピンにより
散乱されるので、 物質の散乱振幅を測定すれば、物質の
核・スピン密度を求めることが出来ます。
(注1): X線散乱強度の測定では、散乱強度|F(k-k')|^2が
求まるだけで、散乱振幅F(k-k')そのものが求まるわけで
はありません。 実験の解析上、散乱強度を散乱振幅に変換する部分が
大変 重要な問題となります。(位相問題)
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