近年の情報科学分野の技術の発展には目覚しいものがある。マイクロプロセッサ の高性能化と低価格化が進み、更に、インターネットに代表されるようにネット ワーク技術の急速な発展が挙げられる。また、ソフトウェア工学分野では、これ まで行われてきたソフトウェア開発とは考えを異とするオブジェクト指向技術が 普及してきた。これらの大規模情報システムを構築する基盤技術の発展により、 システムの構築は、これまでに比べて合理的、かつ、容易に進められるようになっ てきた。
一方、高エネルギー物理学実験においては、測定装置の大型化、また、収集デー タ量の大容量化が進み、今まで以上に高速処理が求められている。この要求に答 えるべく、情報科学分野の最新技術を随時導入してシステム開発を行っているが、 その開発にかける労力は非常に負担になってきている。
そこで、本研究は、これらの情報科学分野の成果を高エネルギー物理学実験のオ ンラインシステムのアプリケーションソフトウェアに応用し、
また、高エネルギー加速器研究機構でのビームテストを含む多様な中小規模実験 への利用を想定し、それらのシステムにおいて必要となる機能が容易に構築でき るようなツールキットを開発してきた。インターネットを利用することで、ネッ トワーク分散化技術のLAN外への適応も行い、当初計画には無かった遠隔地にお ける実験データの閲覧、同期、さらには、データベース化なども行った。最終版 では、これらの成果も取り入れたKONOEパッケージとして広く利用者に配布して いる。
さらに、これら開発したツールキットはさまざまなタイプのユーザに対応すべく、 以下の点に留意して開発を行ってきた。
という点に留意して開発を行なってきた。これらの点に関しても、プロジェクト 開始当初より計画していたため、その成果を十分上げられたと考えている。また、 すべてのパッケージを開発者グループ内で開発したことから、このKONOEパッケー ジは商用ソフトウェアに依存する部分は全く無く、ライセンスなどの問題がない 点も特徴的な点としてあげられる。
最終年度の昨年度は、これまでのまとめと多地点での同時計測システムのデモシ ステムを含んだKONOEのパッケージの整理を行った。このことによって、ネット ワーク分散型である利点を十分に取り入れたKONOEソフトウェアパッケージを利 用することにより、容易にオンライン実験環境を構築することができるようになっ た。また、特に、大学などでオンラインシステム開発に時間を割けない場合にお いても、容易に導入が可能になったと考えられる。さらに、このプロジェクトの 教育という目的に関しても、高エネルギー物理分野での現在の主流であるオブジェ クト指向言語C++を取り上げ、オブジェクト指向技術などの訓練を系統的に行っ てきたことで、ユーザ、特に、大学院生などが次期大規模実験等で主導的な役割 を果たせるような基盤を作ることが出来たと考えられる。
この研究は、坂本宏(東大)、田村詔生(新潟大)、中野好夫(岡山大)、長坂 康史(広工大)各氏との共同でなされている。
研究発表
平成17年6月に行われるIEEE主催の国際学会RealTime2005において、その成果を「KONOE, a Tool for an Object-Oriented Online Environment, with Gate Package」とのタイトルで発表予定。