1997.8.29-30 Symposium

1997.8.29-30技術系シンポジウム討議資料
１９９７年８月
文部省・国大協の「訓令による技術専門職制度」
導入に対する緊急の要求と方針について（案）
《技術専門職制度確立・専行職適用をめざす新たな提案》
　東京地区大学教職員組合協議会（都大教）

１．はじめに
　専行職適用が見送られて１年以上が経過した。この間の大きな状況変化に対応した
機敏で的確な方針提起が都大教には期待されていたが、文部省、国大協などの正確な
動きを把握することが困難であったことや、任期制導入反対運動に力を集中せざるを
得なかったことなどからこうした期待に応えることが残念ながらできなかった。最近
になり、この一年間の国大協や文部省の検討状況などが入手できたことを受けて、都
大教幹事会・技系連絡会を中心に検討を重ねてまとめた緊急の要求と方針を以下に提
案する。

２．専行職適用が見送られるまでの経過
《９６年３月、人事院が専行職適用を見送った経過》
　人事院は、８５年の専門行政職俸給表新設以来、教室系技術職員を専行職適用対象
職種とし、「制度を整えてくれば検討する」との姿勢で門戸を開けていたが、発足１
０年目の９５年度が近づくと結論を出す構えとなり、国大協が９５年１２月に文部省
へ提出した「専門行政職俸給表適用審査基準」に対して、「専行職適用はしない」と
の判断が下された。
　人事院が専行職適用を認めなかった理由として、(a)専行職は公権力を行使する職種
に限定。(b)職務内容や資格要件が多様。(c)省令上の規定がない。などと指摘しているが、
 (a) については、８５年に専門行政職俸給表が新設され、４省庁１７職種７，０００人
に適用されて以来、昨年までは指摘がなく、適用を拒否するために作られた新たな口
実である。
 (b) についても、国大協が長年の検討によりまとめた「適用審査基準」は、適用対象と
なる専門技術業務を６項目に整理し、かつ資格要件を評価して適用するとしたのであ
り、この提案を無視している。
 (c) については、組合が当初から要求してきたことである。
いずれも専行職が適用できなかった真の原因が何であったのか明確にされていない。
なぜ適用が見送られたのか明らかにすることは今後の要求実現の展望を明らかにする
ためにも重要である。私たちは以下の通り総括する。

《専行職不適用の真の原因、文部省・国大協の怠慢と、人事院の不当な対応》
(1) 文部省は、人事院から専行職適用には「新しい官職の設定」＝専門職制度の新設
が必要と指摘されていたにも関わらず、制度問題としては受け止めず、制度上「教員
の補助職」と規定した「人事課長通知・文人給５２号」と、教員組織の末端に補助職
として配置する形態を放置し続けた。さらに、国大協の組織化に際しては、組合の専
門職型の組織化の提案を受け入れず、機能するはずもないライン制技術部を強要し、
旧来の配置形態を維持し続けた。
　そのため、技術系職員が如何に高度な技術的知識や豊富な技術的経験に基づいた職
務に従事していても、その職務は６級以上には評価されず、６級定数は僅か５％未満
に押さえられ、技術的困難さでは同水準の職務に従事している他省庁の職員に比べて
２級以上の格差が定着し、専行職適用の条件整備どころか、時間の経過とともに専行
職の敷居は高くなり、その適用が一層困難になって行った。専行職適用されなかった
最大の原因はこうした文部省の無理解と怠慢にあり、その責任は重大である。

(2) 国大協は、当初「条件整備を行い専行職適用を図る」とし、「教員とは独立した
技術職種の確立」との理念を示し、また「適用審査基準」で専門技術業務の整理と資
格要件を具体化し全技術職員を専行職の対象とする提案をおこなったが、組織化では
、専門職制度を理解しない文部省の意向に従って、技術長、班長等のライン制技術部
を発足させた。技術部は、専行職適用の中間組織としていたが、「文人給５２号」に
よる補助職規定と補助職としての配置形態を改めず、むしろ専門職化への条件整備に
逆行する役割を果たした。官職の省令での規定についても組合からの再三の要望にも
かかわらず専行職適用の重要な条件としては理解されなかった。こうした国大協の責
任も問われなければならない。
　東大検討会が準備した国大協の専行職移行案は、専門職制度としての枠組みは提案
したものの、省令に官職を規定することや、配置形態の具体的提案はされていなかった。

(3) 私たちは、現行の補助職としての制度上の位置づけを改め、専門職制度の新設と
技術系職員の全員移行を要求するとともに、ライン制組織に強く反対し、専門職制組
織の新設を要求してきた。
　しかし、ライン制技術部発足後は「ライン制組織の凍結」を主張するだけで、専門
職組織への改組に向けた新たな業務遂行形態や配置形態についての論議をほとんど行
わずに「本籍地と現住所」を主張しただけで、結果として「現住所」である「補助職
としての配置形態」を許容し続けることになった。このため、人事院が指摘した結果
と思われる第四常置委員会での「技術部の熟成化」論に対しては、単に「ライン制組
織の実質化の目論見」と警戒するだけで、専門職化への重要な課題とは認識しないま
ま「専行職移行後の課題」として先送りしてしまった。このことは私たちの弱点とし
て総括する必要があり、今後の教訓としなければならない。

３．これまでの都大教技系連絡会の活動
　私たちは、技術系職員の地位確立と待遇改善のために、現行補助職規定の廃止と省
令官職設定による専門職制度新設及びそれへの全員移行、ライン制組織反対、昇格改
善などを要求してきた。そのため、各大学での要求活動、技術系職員の職務実態の人
事院への提出と説明、行（二）技術系職員の行（一）振替の人事院行政措置要求・苦
情処理、文部省前を中心とした霞ヶ関官庁街での街頭宣伝行動や東京国公などの支援
のもとに取り組まれた大学職員の地位確立と処遇改善を要求する文部省前集会、国公
労連の人事院本院交渉・都大教の人事院関東事務局交渉などに取り組んできた。また
、重要な時期には全国の技術系職員にも参加をよびかけシンポジュウムを開催し、全
国的な署名活動などを行ってきた。
　国大協が、昨年１０月に文部省に要望書を提出し（参考資料１）、その中で、「教
室系技術職員は、講座に属し、教官の蔭に隠れて、その職務の重要性、専門性が一般
的に認識されず低く評価され、低い処遇のままであった。・・・講座から離して業務
体制の整備をはかり、技術職員は技術職員をもって管理、指導、活動させ、業務処理
を効率化させる仕組みを作り、独立的な職としてその地位を社会的に浮上させ、処遇
を改善することが教育研究の効率化を図り、かつ高度化に対応する措置として是非と
も必要である。・・・ここにあらためて大学に技術部、技術系専門職を配置すること
及び、その拠所としてこれらの官職を政省令等で定めることを強く要望する。」とい
った認識を示し、提案を行うに至ったのは、都大教技系連絡会をはじめ全国の技術系
職員の要求活動の反映であった。
　私たちは、国大協のこのような認識と提案を手掛かりにして、技術系職員の地位確
立と待遇改善の活動を発展させることが可能になっていると判断している。

4．その後の国大協、文部省の動き
(1) 訓令から省令へ２段階による専門職制度をめざす方針を打ち出す。
専行職適用が見送られた以降、国大協第四常置委員会と文部省人事課給与班は、事後
策について一体で協議を重ねて、「専行職適用を引き続き要望し、その具体化の第一
歩として、当面、省令等で官職を設定し、行（一）内での処遇改善を図る」ことを確
認した。そして、「政省令での官職の設定」に否定的な文部省高等教育局長に対し、
国大協会長が８月に口頭で、１０月には前記したように文書でその必要性を要望した
。しかし、高等教育局は「職員の待遇改善のための省令改正は本末転倒」としたため
、国大協と文部省人事課は、省令による専門職制度設定を２段階で実現する方針を選
択し、第１段階では訓令（人事課長通知改正）による専門職制度を目指すことを確認
した（参考資料２）。
文部省検討会でも「省令での官職の設定」は同意が得られず、当面、訓令での専門職
制度による処遇改善が合意され、９７年３月、「中間まとめ」として国大協に報告し
た（参考資料３）。本年４月以降は、「中間まとめ」をもとに８月下旬の人事院への
来年度の級別定数要求提出に向けて（人事院との最終協議は１０月末と考えられる）
、文部省は、検討事項である根拠法令、配置基準、資格基準などの準備を急いでいる
。また、人事院も文部省の対応を視野に入れ、東大（工、医）など幾つかの大学に技
術長の職務と、技術部が動いているかどうかの実態調査に入った。

(2) 技術長・技術班長を「専門員」に、技術主任等を「専門職員」に。
第四常置委員会の報告と文部省検討会の中間まとめや、梶井第四常置委員長の発言な
どから、国大協・文部省が一体で進めている方針の骨格は次の通りと判断できる。
第１段階では、訓令で業務分掌と職制を定めて、国大協モデルによる現行のライン制
組織を専門職組織に改組する。技術長と技術班長を「専門員（６、７級）」に、技術
主任と４級以上の技術職員を「専門職員（４、５、６級）」に組み替える。また、国
大協モデルで組織できない大学にも専門員、専門職員を配置する、としている。
第２段階では、省令に技術専門官制を設置し、「技術主幹（７、８級）」（ライン制
の「課長」ではない）を導入する、としている。
これら訓令や省令による専門職制度は、他省庁の一般的な専門職制度と同一形態とな
っている。また最近になってようやく各大学に配置されてきた事務専門員・専門職員
の処遇と同じ水準のものと考えられる（参考資料４）。また、人事院もこのことに一
定の理解を示していると云われている。従って、国大協・文部省がまともに実施する
意志があれば、長年放置されてきた技術系職員の地位確立と処遇改善が大きく改善さ
れる可能性が出てきたと判断できる。
しかし、まず第１段階で文部省が準備する根拠法令、配置基準、資格基準などの内容
や専門員・専門職員の級別定数の査定の状態によっては、業務や、学歴、資格などに
よる分断（一部適用）などが持ち込まれる危険性があり、組合の要求と提案を早急に
まとめて提出し、交渉等をおこなうことが重要になっている。

5．技術系職員を取り巻く状況をどう見るか。
《専門職化へ実現可能なところから直ちに着手しなければスクラップ化》
(1) 人事院は技術系職員の行（一）昇格等の処遇改善については理解を示している。
人事院は、専行職適用は見送らざるを得なかったものの、科学技術会議答申などの研
究支援職員の人材確保の観点から待遇改善などの指摘もあり、当面、行（一）昇格等
の処遇改善については理解を示している。しかし、橋本内閣による「行財政改革」を
口実にした、公務員賃金の抑制、「成績・能力主義」による差別賃金制度の拡大など
の動きが強化しており、当面の昇格改善を実現するためにも組合運動、技術系職員の
運動強化が重要になっている。

(2) ５０代前後の団塊世代の昇格改善は一刻も早い対処が必要。
専行職適用による抜本改善に期待を寄せていた、５０代前後の組合員の昇格を巡る状
況は深刻さを増している。この間、５級昇格基準は改悪されてきており、特に、技術
部発足以来、技術部や技術室のある大規模大学・研究所に６級以上の上位級が集中す
ることになった結果、地方小規模大学（部局）や技術部が作れない大学（部局）や、
かって行（二）から行（一）に振替た技術系職員などの６級昇格が遅れており、この
ままの状況が続けば５級退職者が続出する危険性がある。こうした事態を放置するこ
とはできない。直ちに６級昇格を中心に具体的な成果を上げることが求められている。

(3) 橋本行革会議や財政構造改革会議の「国立大学エージェンシー化」、「民営化」
など国立大学に対する逆風は一層強まる。
すでに事務職員を対象に定削の３００名の上乗せがあった。さらに、教育学部の５，
０００名の入学定員の削減や、事務一元化など事務組織の再編制を手始めに激しい嵐
が吹き荒れることが予想される。これらを放置すれば、定員削減、技術系職員委託の
拡大など、技術系職員のスクラップ化の危険性がある。

(4) 実現可能なことから着手し、改善の積み上げを進めよう。
私たちが置かれた状況を総合的に判断すれば、問題解決を先送りすればするほど状況
は悪化すると判断され、今は一刻の猶予も許されない。もし、なんの措置もしなけれ
ば一年毎に状況は悪化し、５年も放置すれば技術系職員はスクラップ化の対象にされ
かねない。こうした状況下で、文部省、国大協、大学当局などのサボタージュは断じ
て許されず、私たちは緊急要求を対峙して、その実現を強く要求して行かねばならない。

６．専行職適用に向けた当面の要求と方針
(1) 第１段階で訓令（人事課長通知改正）により技術専門員・技術専門職員制度を緊
急に実施し、第２段階で省令による専門職制度を５年以内に実現し、第３段階で専行
職の適用をめざすことを基本方針とする。
　このような３段階の方針を提案した理由は、

  (a) 第１段階は、専門職としての技術部を発足するための過渡期として不可欠である
。省令によるグレードの高い専門職制度を発足させる際には、「補助職の象徴である
現行の教官組織の末端に所属する方式」から「教官組織から独立した機能する専門職
組織とその配置方式」へ、各大学（部局）・研究所の教育研究体制に対応した改組を
行うことが前提になる。その過渡期として訓令による専門職制度を位置づけ、専門職
としての職務遂行形態と配置形態を確立するために柔軟な配置で試行し、専門職とし
て機能する技術部の配置形態と業務遂行形態を５年以内に整えることにより、第２段
階の省令によるグレードの高い専門職制度の実現をめざす。

  (b) 第１段階の要求を緊急に実現することは、グレードの高い第２段階の省令による
専門職制度確立への近道である。上記の総括で明らかなように、文部省と国大協の怠
慢によって、６級以上の級別定数は５％未満に放置されたままである。こうした状況
で直ちに省令による専門職制度を実現したとても、８級専門職の定数が非常に少ない
（グレードの低い専門職）制度にされてしまう危険性が大きい。

  (c) 私たちを取り巻く厳しい社会状況や、緊急に改善を迫られている団塊世代の昇格
の遅れを考慮すれば、今すぐ訓令による専門職制度を実現して、国大協・文部省を巻
き込んだ昇格闘争を展開し、７・６級定数を５年以内に２０％台確保することが、省
令によるグレードの高い専門職制度を実現する着実なアプローチである。

(2) 第１段階における文部省・国大協の「訓令による専門職制度」に対する緊急の要求。
文部省は、現在第１段階である「訓令による専門職制」について検討を進めているが
、私たちは、以下の項目を実現するよう強く要求する。

  (a) 訓令による専門職制度は、専行職適用に向けた第１段階であり、省令による専門
職制度確立への過渡期の制度ととして位置づけることを明確にすること（第１段階で
固定化させない）。

  (b) 文人給５２号を改正して補助職規定を廃止し、文人任、文人給などの訓令（人事
課長通知）により、専門職制度（技術専門員、技術専門職員の職の設定など）を導入
すること。
  (c) 次の専門技術業務に従事する５級以上の教室系技術職員全員を技術専門員・専門
職員とすること。その昇格は、年令、経験をとして必要な級別定数を確保した上で、
次の目標で運用すること。
　　　３０才台前半で４級技術専門職員
　　　４０才前後で５級技術専門職員
　　　４５才で６級技術専門員
　　　５０才台半ばまでに７級技術専門員

　《　専門技術業務の内容　》（国大協専行職俸給表適用審査基準）
�(a) 研究実験用設備・機器の開発、設計、試作、操作等
�(b) 研究実験の実施、測定、分針、検査、データ処理、解析等
�(c) 資料調査、保全、複製、古文書影写等を通じての研究資料の作成等
�(d) 研究実験用各種資料の採集、保存、標本作製、観察、分類、分析等（生物資料にあ
ってはさらに飼育管理、育成、培養等）
�(e) 学部学生の実験・実習の技術指導、大学院学生の研究の技術指導
�(f) 研究実験室環境の技術的保全と安全防災の技術的支援

� 前項の専門技術業務に従事する各種俸給表適用職員全員を行（一）へ統合し技術
専門職を適用すること。
技術業務に従事する職員全体を技術専門職として位置づけ、そのため、当面、技術業
務に従事している行（二）、医（二）、教務職員、助手適用者全員を行（一）へ振替
え、技術専門職を適用すること。

(3) 第２段階における、省令による専門職制度確立の要求。
　第２段階への過渡的制度である訓令による専門職制度導入の後は、専行職適用を目
標とし、省令による専門職制度の確立に向けて以下の条件整備を進めること。
�(a) ６級以上の上位級を３年以内に１０％台、５年以内に２０％台に引き上げること。
�(b) 省令による専門職制度の関係法令、組織形態、配置基準を５年以内に整えること。
�(c) 第１段階を達成した大学（部局）・研究所に関しては、５年以内に教員から独立
した機能する専門職型の技術部組織を確立させること。
�(d) 第２段階への移行を実現するための年次計画を策定すること。

(4) 第３段階（第２段階が終了した段階）で専行職の適用をめざす。
人事院が専行職適用を拒否したことから、専行職適用を要求しないとしたり、将来は
大学技術職員の独自俸給表を要求するなどという議論があるが、これは人事院の判断
を曲解している。人事院は国大協や文部省の専行職適用の条件整備のもとでは適用し
ないとしているのであり、将来にわたっての説明は難しいとしているのである。また
国大協も、さらに文部省も専門員・専門職員による待遇改善については専行職適用の
条件づくりの一環であり、将来は専行職適用をめざすとしている。私たちは、第２段
階の省令による専門職制度と、専門職型の技術部組織が確立すれば専行職適用の条件
が整うと判断する。

(5) 私たちが当面取り組むべき課題。　
�(a) 文部省の「訓令による専門職制度」に対する緊急の要求を、大学（部局）当局、
国大協、文部省、人事院に申し入れる。
�(b) 提案の第１段階に対応した各大学（部局）・研究所における技術部の専門職とし
ての機能する組織形態、配置基準を検討し、当局に申し入れる。
�(c) この新しい方針と、専門職としての機能する組織形態を検討するため、この夏シ
ンポジウムを開催する。
�(d) 引き続き文部省前、霞ヶ関官庁街での宣伝行動を取り組み、要求の実現を迫る。
�(e) 必要な時期に要求貫徹集会、署名運動など多彩な取り組みを展開する。
                                                                          
以 上