6. R & D 環境



PURE の導入は UNIX 環境への移行をめざした R&D を主目的としていますので, 作業がスムーズに行えるように, 特に H3050 と H9000 それぞれ3台を, いつでもリブートできる WS として位置付けました.PURE で予定している R&D は, 以下の通りです. この中には, データ処理センターで行なう計画以外のものも含んでいます.



6.1 PURE の環境整備

a) 整備計画

計算機環境を WS に移行するには, 整備すべき課題が多くあります. PURE では, 共通計算機システムの主要な役割である, 「計算サーバ + データサーバ + バッチ環境」を WS で実現することを中心課題としていますのて, そのために必要な環境整備を優先的に行なう予定です. 具体的には, 以下の項目を予定しています.

WS の利用には欠かせないものとして, 以下の2点も順次整備する予定です.



b) 運転の省力化

24時間運用のためには, 運用に必要な労力を少なくすることが必要です. 特に夜間や休日の場合には切実な問題です. サーバマシンの H3500/540 では, system panic がおこった場合には, 自動的に dump を採取して, システムを reboot するようにしました. サーバマシンに対策をしたことによって, 休日にシステムの障害が起こった場合に, 直ちに対処しなければならないケースを減らせました.





6.2 他社機器の接続

WS では, 大型計算機と違って, 他社の機器を容易につなげることが期待されます. 新しい便利な製品をつなぐ場合や, 安価な機器をつなぐ場合がよくあります.

WS への, 他社機器の接続をテストした結果を, Table-9 に示します. 未テストの部分は空欄になっています. テストした WS は H3050/340, H3050LC, および H3500 です. 接続した磁気ディスクは(株)ウインシステムの EXD-2000 および (株)アイエイアイの SDX-1000SSD です. DAT 装置は (株)アイエイアイの SAX-1308SS (DDS 形式) および SAX-4000XS (DDS2 形式), 8mm 装置は (株)アイエイアイの STX-8510XS, デジタルリニアテープ(DLT)装置は (株)アフタックの 3190-F20 です. DAT 装置の SAX-4000XSおよび DLT 装置は H3050 で 8mm 装置として定義しました.



Table-9 Devices connected with H3050

------------------------------------------------------------------------
                        H3050/340    H3050LC    H3500/340    H3500/540
------------------------------------------------------------------------
  磁気ディスク装置         OK           OK         OK           ng 
  DAT 装置                 OK           OK         OK           OK 
  8mm 装置                 OK           OK         yet          OK 
  DLT 装置                 OK           OK         yet          yet
-------------------------------------------------------------------------




6.3 UNIX 環境の R & D

a) HP74x/HP-RT

PS 実験のための次期オンラインシステム, および KEKB や LHC などの将来計画のための研究開発として, HP 社製 VME ボードコンピュータ(HP74x/HP-RT)を使用したデータ収集システムの開発を, 物理研究部オンライングループで行なっています. このシステムは高性能 RISC-CPU を搭載し, リアルタイム UNIX である LynxOS をベースにした HP-RT を利用しており, 次世代のデータ収集システムの核の1つとして注目されています. この HP-RT の開発環境を HP9000 上に構築しました.

現在までの開発の到達段階は次の通りです. VME 割り込みモジュールなどからの割り込み処理を行なったり VME メモリモジュールなどへのアクセスを可能にする汎用 VME デバイスドライバを開発しました.これにより NIM レベルでのイベント信号を VME 割り込みモジュールで受け VME ビジュアルスケーラを読みだし表示したり, TKO システムから VME-MP モジュールを介して TKO データを読みだすことが可能になっています.

また, VME-CAMAC インターフェイス(K2917)を使用した KEK 標準 CAMAC デバイスドライバが動作しています. これにより従来から DEC ステーションや SPARC ステーションなどのワークステーションで使用していたデータ収集用ソフトウエアが, この HP 製のシステムでそのまま動作するようになり, しかもその性能は格段に向上しました.

データ収集用ソフトウエア UNIDAQ はハードウエアとしては VME バス, OS としては UNIX(リアルタイム UNIX を含む)をベースとした計算機を対象としています. 最近この UNIDAQ の HP74x/HP-RTへの移植が終了しました.

データ収集システムに使用される計算機は DAQBENCH と呼ばれるデータ収集システムの評価用ベンチマークプログラムにより評価されています.



b) 高エネルギー実験の計算機環境では, 大容量のデータの蓄積が大きな課題のひとつです. 将来のデータストレージとして SONY の DMS(Digital Mass Storage System) が候補の1つとして考えられています. SONY の DMS を KEK の計算機環境で使用するための R&D として, 高速大容量テープ装置の共同研究が始まりました. この共同研究のために PURE の WS を使っています.







6.4 他クラスターとの結合

理論グループおよび 加速器研究部の SAD グループでは, 既に独自のクラスターシステムを構築しています. 今回 PURE の一部の WS を, これらのクラスターに組みこんで利用する環境を作成しました.



a) SAD クラスター

軌道解析のプログラム SAD を処理するシステムです. HP9000 で構築されていて, HP 社の TaskBroker 機能により, ジョブを処理するシステムを構築しています.

ユーザ管理は, PURE および SAD それぞれのクラスターで NIS により行なっています. Username および user# を一致させ, home directory を同一にして, ユーザが全く同じ環境で使えるようにしました.

Username は KEKVAX を基準にしながら一致させました. しかし 1994年 7月12日時点で, SAD ユーザ 86 名のうち, KEKVAX に account がないユーザ 8名, 異なる username のユーザ 12 となっています. Username の付け方は, 将来の検討課題として残りました. User# は SAD クラスターを "guidelines"に沿うように変更しました.

PURE での home directory は, SAD の home directory を automount して, 全く同一のファイル構造に見えるようにしています.



b) 理論クラスター

HP9000 で構築されているシステムです.

ユーザ管理は, PURE および理論それぞれのクラスターで NIS により行なっています. Username は PURE と理論クラスターとで, 必ずしも一致していません. Home directory は同一でありません. Username が異なる場合には, ユーザが区別しています. User# は理論クラスターで "guidelines" に沿うように変更し, NFS ファイルのアクセスができるようにしました.

Home directory はそれぞれのクラスターにあります. PURE では, 理論クラスターの home directory を automount しています. これによりユーザは PURE 上で directory の位置を変えることにより, 理論クラスターのファイルを読み書きできます. また, 各々のクラスターで独自に home directory を持っているので, 理論クラスターが停止しているときでも PURE を使用することができます.

ライブラリはクラスターの外部にある kiwifs を利用するということで, 共通の環境ができました.










謝辞

PURE システムの構築を支援して下さったデータ処理センターの渡瀬芳行教授および河邉征次助教授に感謝いたします.

PURE システムのデザインにあたって, 物理研究部の千葉順成助教授に相談にのっていただき, PS 実験グループの意見をまとめて頂きました. UNIX およびネットワークについてコメントしていただいた, 東京大学大型計算機センターの一井信吾助教授およびデータ処理センターの石川正助教授に感謝します.

CERNlib のインストールおよび移植について know-how を提供して下さった, データ処理センターの森田洋平助手に感謝します. CERNlib の H3050 への移植にあたっては, 日立製作所ソフトウエア開発本部の方々および KEK 担当システムエンジニアの飯田隆夫氏に感謝します.

共通計算機の入替えによる WS の導入に関して, データ処理センターの渋谷義和氏, 宮脇孝氏を始めとする日立製作所の関係者, 日立電子サービスの方々に感謝します. PURE へのフリーソフトのインスト

ールに協力して下さっている, 日立情報(株)の蔵持一雄氏, 小原洋氏および潮田正人氏に感謝します.

HP-RT 開発環境の整備および PS 実験データ解析用の HP 計算機の環境整備にあたっては, 東京工業大学の田島靖久氏に感謝します. SONY の DMS の R&D は物理研究部の藤井啓文助教授が中心になって行なっています. 理論クラスターとの接続は物理研究部の鈴木英之助手, SAD クラスターとの接続は加速器研究部の三増俊広助手および山本昇助手と協力しておこないました. 各種テープ装置の接続および互換性の調査にあたってはデータ処理センターの佐々木節助手に協力していただきました.

HP の Fortran について調査に協力して下さった横河ヒューレットパッカード社の山田素志氏に感謝します.

システムを検討するにあたって, 1994年3月に CERN および DESY を見学したことが参考になりました. 計算機環境について説明して下さった Dr. Sverre Jarp をはじめとする CERN の方々, Dr. JanHendrik Peters をはじめとする DESY の方々に感謝いたします.