筑本知子
超電導工学研究所
近年の女性の社会進出にともない共働き家族が増え、子供を保育園 等の託児施設に預けながら研究生活を送っている研究者も多数いるこ とと思います。子持ちの研究者にとっての最大の課題は学術的会合ま たは学会等に出席している間の子供の託児です。物理学会の会員の中 にも、年会や分科会の期間中の子供の保育者が確保できず、会議の参 加を断念・短縮せざる得ない経験をされた方はいらっしゃるのではな いでしょうか。優れた研究成果をあげていても、その発表・議論の場 を逸したり、また、研究をすすめる上で重要な情報収集の場が充分に 得られないなど、悔しい思いをされた方もいるのではないでしょうか。物理学会誌<会員の声>2000年9月号掲載予定今後の社会情勢の変化を考えた場合このような問題を抱えた方が増 えることがあっても減ることはないと思います。これに対して、社会 における保育サービスの向上が伴わなければ小さい子供をもつ働き盛 りの研究者のactivity を低下させ、社会(学会)とっても大きな損失 になっていくと思います。とりわけ、学会がこうした若手の研究者の 学会参加を(保育サービスの提供という形で)支援することは、研究 交流による情報が最も必要な若い時期に孤立して、研究者としてのキ ャリア形成からdrop outするのを防ぐだけでなく、大学院生や未婚の 若い研究者にとって、将来の人生設計が可能になり、研究者の道をす すむのをencourageするという意味で大変重要だと思います。
さて、このような状況に対処するために、徐々にではありますが、 国内外の各種学会において学会内保育室を設置するところが出てきて おります。例えば、日本天文学会においては1997年春の年会以来、 半年毎の年会会場に保育室を設置しています。ここで強調したいのは、 日本天文学会では、すぐれた若手研究者を参加者として確保するため に、保育室設置が年会運営にとって不可欠な要素であると位置付けて おり、ポスター会場や会議室などとともに保育室を併設し、運用に関 わる費用の一部も学会予算から補助するなど年会運営として定着して いることです。(その他の保育室を設置した国内の学会のリストにつ いては次のWebサイトおよびそのリンク先をご参照ください。 http://sunrise.hc.keio.ac.jp/~mariko/gakkai/info.html ) また、海外では、2000年度のアメリカ物理学会March meetingにお いてchild care serviceが実施されております。
また、今年度に開催された日本学術会議の第132回総会において決 議された『女性科学者の環境改善の具体的措置について』の声明の中 に、「研究者に対する育児援助(例えば、保育費の補助、学会等の開 催時に おける保育室の開設、大学や民間を含む研究機関での保育所 の設置、保育者雇用のための補助等)を充実させること。」という文 言が盛り込まれました。
さて、この日本物理学会においても、学会期間中に保育室が設置 されていれば助かると切実に感じている人は潜在的に多数いるものと 思われます。そこで、こういった保育室を必要としている研究者が、 子供の心配をせず学会で活発な研究活動に参加できるように、年次 大会、あるいは秋季大会の会場内に保育室を継続的に設置すること を検討していただきたいと思います。
勿論、保育室の設置については、すでにいろいろな学会での実施経験 の蓄積が ありますが、物理学会ではどのような問題があるか、また保育 室に何が求められているかを議論することは、より良い保育室を安定運 用するためにも重要です。そこで、学会期間中の保育室設置に賛同する 有志を世話人として、今月新潟大学において開催される年次大会の期間 中の9月22日(金)17時30分より「物理学会期間中の保育所設置を考 える会」と題したインフォーマルミーティングを開くことになりました。 (詳しくは物理学会誌8月号の掲示板を御参照下さい。)世話人の一人 として、この場を借りて呼びかけをさせていただきますが、現在お子様 をお持ちの方だけでなく、学会における保育に興味をお持ちの方、また できれば物理学会理事の方にも是非とも参加していただき、広い視点か らの御意見をいただきたいと考えております。
また、学会期間内の保育室設置を議論するための足がかりとして、有 志を中心にホームページ (http://www-nh.scphys.kyoto-u.ac.jp/JPSchildcare/index.html) を立ち上げました。Web上にて、学会期 間中の保育室設置に関する情報提供や保育ニーズアンケートの募集を行 っております。是非とも、そちらもご参照いただくとともに、アンケー トへの御協力をお願い致します。