研究歴 熊野俊三
現在まで主にハドロンの内部構造とクォークパートン模型について研究してきた。ここで
は、課題に分けて最近のものから順に研究結果を説明する。参考論文は、研究業績リストの学
術論文 [1–78] から引用した。
1. 運動方程式を用いたスピン1粒子のパートン分布関数の関係式と Lorentz 不変性関係式
近い将来、スピン 1 ドロンの偏極構造関数は、様々な加速器施設で測定される。最近、
横運動量依存および縦方向のパートン分布関数が、ツイス 2 のみならずツイスト 3 4
に対して提案され [6]、スピン 1/2 子の構造関数と同じレベルでスピン 1 構造関数
研究できる状況になった。さらに、テンソル偏極したスピン 1 のハドロンに対するツイ
3 の多重パートン分布関数も示された [6]。本研究 [1] では、クォークの運動方程式を用
いて、テンソル偏極パートン分布関数とテンソル場を用いて定義されるツイス 3 の多重
パートン分布関数の間の関係式を導いた。この研究で我々は、(1) ツイスト 3 の分布関数
f
LT
、横運動量モーメントの分布関数 f
(1)
1LT
、多重パートン分布関数 F
G,LT
G
G,LT
の間の
関係式(2) イスト 3 の分布関 e
LL
、ツイス 2 の分布関数 f
1LL
、多重パートン分布
関数 H
G,LL
の間の関係式を新たに示した。次に、分布関数 f
LT
, f
(1)
1LT
, f
1LL
, F
G,LT
の間の
Lorentz 不変性関係式を導いた。これらの関係式を導出する際に、テンソル場で定義され
る多重パートン分布関 [F
D,LT
(x, y), G
D,LT
(x, y), H
D,LL
(x, y), H
D,T T
(x, y)] と共変微分
で定義される多重パートン分布関数 [F
G,LT
(x, y), G
G,LT
(x, y), H
G,LL
(x, y), H
G,T T
(x, y)]
間の関係式を新たに示した。これらの関係式は、スピン 1 のハドロンの分布関数に制限
与え、多重パートン相関を研究するために有用である。特に、Q
2
が数 GeV
2
の小さい Q
2
領域の実験では、ツイスト 3 項が比較的大きく効いていると考えられるため、ツイスト 3
の構造関数の物理は重要になる可能性がある。
2. スピン1粒子のテンソル偏極パートン分布関数に対するツイスト2の関係式と総和則
構造数の和則ツイ2の係式、構造数のきさ x 存性する
を与え、高次ツイスト効果を特定するために重要である。偏極構造関数 g
1
g
2
に関する
Wandzura-Wilczek (WW) 係式 Burkhardt-Cottingham (BC)
最近、スピン 1 のハドロンに対する新たなツイスト 3 4 のパートン分布関数が提案され
[6]高次ツイスト項を含めたスピン 1 のハドロン構造関数の研究が可能になった。本研究
で、 WW 関係式と BC 総和則に類似する式を、ツイスト 2 3 のテンソル偏極パー
トン分布関数 f
1LL
f
LT
に対して導いた。つまりf
LT
のツイスト 2 の部分は f
1LL
(ある
いは b
1
) x 積分として表され、関数 f
2LT
(2/3)f
LT
f
1LL
x 積分は 0 になることを
示した。また、もし反クォークのテンソル偏極分布がない場合に成立するパートン模型
f
1LL
(b
1
) 総和用いればf
LT
自体の総存在するも示したWW 関係 BC
総和則 g
2
x 存性と高次ツイスト効果を特定するために用いられた様に、これら
関係式と総和則は、スピン 1 ハドロンのテンソル偏極パートン分布関数 x 分布に関する
研究と、ツイスト 2 の効果と高次ツイスト項を分離するために価値ある関係式である。
れらの関係式を導く過程で、テンソル偏極したスピン 1 ハドロンには、ツイスト 3 のマル
チパートン分布関数 F
LT
, G
LT
, H
LL
, H
T T
が存在することを示した。これらのマルチパー
トン分布関数は、スピン 1 ハドロンのマルチパートン相関を研究できる意味で興味ある
理量である。スピン 1 の重陽子に関する実験研究は、2020 年代と 2030 年代に、Jefferson
研究所、FermilabNICA, EIC, EicC において行われるため、近い将来、スピン 1 のハド
ロンの研究は盛んになると期待される。
1
3. 電子・イオン衝突型加速器に対する科学的要件と検出器の概念
報告 [4] ではイオン衝突型加速 (EIC) に対する物理的課題と出器の要件につい
て説明した。EIC は、高エネルギー電子と高エネルギー陽子を衝突させる米国の新しい大
強度加速器施設でありこの施設では核子と原子核内のグルーオンが支配する運動学的
域の研究が可能となる。さらに偏極ビームを用いた EIC では、陽子、中性子および軽
イオンの空間構造とスピン構造に関する前例のない実験が可能になる。この報告書には
EIC の実現に向けて EIC ユーザーグループによて検討された物理プログラムおよび検出
器開発の詳細が記載されており、さらなる発展の基礎を提供することを目的としている
また、科学的要請に最も適した実験装置の概要 2 つの相補的な検出器と運動学的領域
重要性を説明した。このレポートは 3 つの部分で構成されている。第 1 は発見と開発概念
に関する事業計画概要である。 2 は幅広い物理測定と検出器機能に対する要請に関す
説明であり、第 3 では汎用型検出器と物理的要請を満たす技術について紹介した。これら
は、可視物質の基本的構造を理解する世界的実験プログラムの基礎となるものである
のレポート [4] で、熊野は特に「7.5.2、ニュートリノ物理学」の執筆に貢献し、ニュート
リノプロジェクトと EIC 物理の相乗効果を理解するため、6つの課題「断面積と運動学
的領域「ニートリノ原子核相互作用の研究」核子ストレンジネスの測定」「アイソ
スピン物理と総和則」「電弱測定 NuTeV 異常」「ニュートリノ散乱における GPD
定の可能性」を説明した。
4. NICA SPD における陽子と重陽子のグルーオン分布関数
Spin Physics Detector (SPD) は、ロシアで建設中の加速器施設 Nuclotron-based Ion Col-
lider fAcility (NICA) における多目的実験プロジェクトである。この実験では、偏極した
陽子と重陽子を 27 GeV までの重心系エネルギー 10
32
cm
2
s
1
までのルミノシテーで
衝突させる。これにより核子の偏極グルーオン分布関数を、チャーモニウム、オープン
ャーム、直接光子生成などの過で測定できる本論文 [5] の目的は、このプロジェクト
の研究目的関連する理論と実験、期待される実験結果を総括することにある。特に、
の実験においては、スピン非対称性の測定により、核子スピンへのグルーオスピンの
寄与、核子のグルーオンSivers 関数と Boer-Mulders 関数、重陽子のグルーオトラン
スバーシィの研究をす本論文 [5] において、熊野は2つの節5.3 Gluon transversity
in deuteron5.4 Tensor-polarized gluon distribution in deuteronの執筆に貢献した。
NICA の偏極重陽子ビームを用いて、スピン1の重陽子に特有な偏極構造関数を研究する
ことが可能である特にヘリシー2の変化が必要なグルーオントラスバーシテ
は、スピン 1/2 の核子には存在せず、重陽子には存在する分布関数である。重陽子は陽子
と中性子の束縛系であるが、それらの核子はグルーオントランスバーシティに直接寄与
しないため、このグルーオン分布は核子束縛系を超える新たな物理を発見するための適切
な観測量であるまた、テンソル構造関数はスピン 1/2 の核子には存在せず重陽子標準
模型による理論計算は、現存する HERMES b
1
データと異なるため [11]、エキゾチッ
なハドロン現象を探る良い手段であると考えられるNICA-SPD ではこれらの物理量を
偏極重陽子ビームを用いた直接光子やハドロンの生成過程により研究する。
2
5. スピン1のハドロンに対する横運動量依存クォーク分布関数
本研究でーク相関数を Lorentz 不変な形展開するによスピン1の
ロンに存横運動量 [transverse momentum dependent (TMD)] ーク分布
を示し [6]特に、ツイスト3と4において可能 TMD 関数を明らかにしたことが新し
い結果である。この展開に際して、エルミート性と空間反転不変性の条件を課した。しか
し、TMD 関数定義式中に時間方向に依存すリンク変が存在するため、時間反転不
性は課していないて、TMD 関数には通常の時間反転に対する偶関数に加えて奇関数
が存在する。我々は、これまで考慮されてこなかった光円錐ベクトル n に依存する項を導
入し、ツイスト4までに存在する全て TMD 関数を提案しスピン1のハドロンに 40
TMD 関数が存ことを示またたな n 依存項のより相関関数の展
開係数とツイト2 TMD 関数の正しい関係式を示し、ツイスト3と4に 30 の新たな
TMD が存すること明らかにした相関関数時間反転不変性をたすため
TMD 関数を横運動量で積分した新たな総和則
d
2
k
T
g
LT
=
d
2
k
T
h
LL
=
d
2
k
T
h
3LL
= 0
が存在することを見つけた。また、これらの TMD 分布関数に対応する、スピン1の新た
TMD 破砕関数が存在することを説明した。色はハドロン内に閉じ込められているため
実際に観測することは難しいが、TMD では色の自由度を色の流れとして観測できる貴重
な研究機会である。TMD の研究は、グルーオン凝縮、色 Aharonov-Bohm 果、色
エンタングルメントなど学際的な研究分野を生み出すことができ、今後の発展が期待され
る。スピン1の重陽子の実験研究は、米国の Jefferson 研究所、Fermi 研究所、電子・イ
ン衝突型加速器 (EIC)、ロシアの NICA において進む予定である。
6. Drell-Yan 過程によるグルーオン・トランスバーシティ分布の研究
ハドロンの横方向偏極物理量として研究が進んでいるものに、クォー・トランスバー
ティ分布がある。この分布は、クォークのスピン反転により定義される物理量であるた
奇カイラル分布関数と呼ばれている。また、この 1 次モーメントは、クォークに対して
算された電気双極子モーメント (EDM) を実験で測定される中性子 EDM に変換する係
であり素粒子標準模型を超える物理を探索するために貴重な物理量であるそれに対
て、グルーオン・トランスバーシティ分布は、グルーオンのスピン反転 (∆s = 2) が必
であるためスピン 1/2 の核子には無く、スピン 1 の重陽子には存在する。グルーオン・
ランスバーシティ分布に関して、米国ジェファーソン研究 (JLab) の電子加速器を用
た実験計画があるが、未だに実験は行われていない。本研究で [7,8]新たにフェルミ米
国国立加速器研究所 (Fermilab) などのハドロン加速器施設を用いて、グルーオトラ
スバーシティ分布の実験研究が可能であることを理論的に示した。直線偏極した重陽子
的を用いた陽子・重陽子 Drell-Yan 過程を定式化することにより、断面積が陽子の非偏極
クォーク分布関数と重陽子のグルーオントランスバーシティ分布の積で与えられるこ
を明らかにした。また、断面積の値をミューオン対の質量横運動量、ラピディティの関
数として示した。これによりFermilab において実験提案が可能になりE1039 実験プロ
ジェクトとして検討中である。さらに、グルーオントランスバーシティは、NICA の偏
極重陽子を用いても測定可能である。なお、直線偏極は重陽子の偏極としてほとんど用い
られないため、論文 [7] では直線偏極を実験で用いられる通常の重陽子偏極で表した。重
陽子は陽子と中性子の束縛系であるがスピン 1/2 の核子はグルーオン・トランスバーシ
ティ分布に直接寄与しないため、単純な核子束縛状態を超える新たなハドロン物理を探る
場合、グルーオトランスバーシティが最適な物理量であり、新たなハドロン物理学分
野の誕生が期待される。
3
7. ハドロンの重力形状因子
核子スピンの主要な要素はクークのスピンではないことが明らかになりその起源を特
定するためには、パートンの軌道角運動量の寄与を決める必要がある。そのため、従来の
Bjorken 変数 x で表される縦方向トン分布ではなく横方向も次元
求めとが要に構造数のつが2 (γ
+γ h+
¯
h,
¯
h: h ) で研 GDA (Generalized Distribution
Amplitude) である。この 2 光子過程は、仮想コンプトン散乱において Mandelstam 変数 s
t を交叉させた過程であるため、GDA は時間的一般化パートン分布 GPD (Generalized
Paton Distribution) とも言うことができる2016 年に初めて、KEKB ファクトリー
験により2 光子過程における π
0
中間子の対生成断面積が報告され、実質的に GDA が研
究できる状況になった。3次元構造関数の GDA は、重力形状因子つまりクォーク及びグ
ルーンのエネルーテソルの形状子を内包しておGDA が特定できればれら
から形状因子を導き出すことが可能である。我々は Belle の実験データを用いて、世界で
初め実験に基づハドンの重力形状因子と半を求めた [9,10]π 中間には2つの
力形状因子 Θ
1
Θ
2
が存在し、各々が力学的(圧力、ずり応力)分布、質量分布に対応す
る。我々は、これらの形状因子を求め、平均二乗半径として
r
2
mech
= 0.82 0.88 fm,
r
2
mass
= 0.32 0.39 fm を得た。電荷の二乗平均半
r
2
charge
= 0.659 ± 0.004 fm
は他の実験から求められており質量半径はこれよりかなり小さく、力学的半径は少し大
きいことを意味する。これまで重力の研究はマクロな物体に限られていたが、我々の研
により重力起源としてのハドロン質量、ハドロン内の圧力がミクロなクォーク・グルー
オンの自由度を用いて研究可能になりこの分野の今後の発展が期待される。なお、この
研究と前述のグルーオン・トランスバーシティの研究は、2019 年度 KEK 年次報告書にお
いて、KEK のハイライト研究成果の一つとして掲載されました。
8. 重陽子標準模型によるテンソル構造関数 b
1
の理論計算
スピン1のドロンと原核には、ピン 1/2 の核子に存しない偏極造関数が存し、
新たなハドロン物理を見つける手法として着目されている。荷電レプトン深非弾性散乱に
おいては、その新たなテンソル構造として4つの構造関 b
14
が存在するその内2つの
関数がツイスト2であり、スケーリング極限において、Callen-Gross 関係式に相当する式
2xb
1
= b
2
で結びついており、これらの構造関数が最初に測定される。このテンソル偏極
構造関数 b
1
は、すでに HERMES による実験があるが、2020 年代半ばか JLab で精密な
測定が開始される予定であるため、理論的にスピン1粒子である重陽子の標準模型を用い
て予測しておく必要がある特に、陽子と中性子各とそれら S 波束縛状態から b
1
に寄
与がないため、この構造関数は新たな高エネルギースピン物理量として、またこれまで
ないハドロン構造を探る手段として着目されている一般的に、原子核構造関数を計算
る方法として畳み込み積分法がある。これは、原子核構造関数を原子核内核子の運動量
布と核子内のパートン運動量分布の畳み込み積分として記述する手法であるこの計算手
法と陽中性子の D 波束縛状態を含む重陽子の標準的模型を用いて、重陽子のテンソ
偏極構造関数 b
1
の理論予想を示した [11]本研究で、これまでの理論計算の間違いを指摘
し、新たに非常に大きい x 領域 (x > 1) に分布が存在することを示した。この理論結果を
2005 年の HERMES 実験と比較した結果、b
1
の大きさと x 依存性が大きく異なることが判
明した。これは、軌道角運動量状態 S D にある陽子と中性子の単純な束縛状態を超え
る物理の存在を示唆するものである。もし、この標準模型の予測とは異なる結果が JLab
実験で確認されればハドロン物理の新たな発見に繋がる実際、これまで見つかってい
ない隠れた色の自由度が b
1
に寄与するとの理論論文も出始めてお新たなハドロン物
分野の開拓が期待される。
4
9. ニュートリノ原子核反応模型の構築
素粒子標準模型を超える新たな物理を探る手段として、ニュートリノ振動実験が行われて
きた。今ではニュートリノ振動が存在し、ニュートリノが質量を持つことが確認されて
る。2017 年時点でこの実験は新たな段階にあり、これからのレプトンセクター CP
称性の破れの発見に向けて精密研究が進んでいた。ニュートリノ実験では、一般的に標
は核子ではなく原子核であ例え T2K 実験の場合は水 (H
2
O) である。従って、ニュ
トリノ・核乱の積にて、酸核と応も理解おく
ある。特に、ニュートリノ振動実験の系統誤差の大部分はニュートリノ原子核反応部分の
不定性が原因であり、これからの精密 CP 実験のためには、精度良い反応断面積を理論的
に計算できることが必要である。そこで、低エネルギーから高エネルギーに至るニュ
トリノ原子核反応の断面積を正確に計算できる模型を提供することを目的に研究を行い
ニュートリノ原子核反応を包括するレビュー論文として発表した [12]。レプトン原子核散
乱の運動学的領域によ異なる理論模型を用いる。低エネルギー側から準弾性散乱
鳴粒子生成深非弾性散乱、レッジェ散乱の異なる領域の模型を構築した。この際、これ
まで実験結果が存在する電子散乱のデータと理論を比較して模型の検証を行い、ニュート
リノ反応の特徴である軸性ベクトル型反応に拡張した。ハドロンと原子核は原理的には
基本相互作用である量子色力学 (QCD) で記述できるはずであるが、有限密度の低エネル
ギー現象においては QCD を正確に解く手段がないため、ハドロン自由度を基礎にした有
効模型を用た。運動移行の2乗である Q
2
が大きく (Q
2
1 GeV
2
)質量も大き
(W
2
4 GeV
2
) 領域では、摂動論的 QCD と標準的パートン分布関数を用いて模型を構
した。これら2つの領域は、クォークハドロン双対性により結び付けた。Q
2
1 GeV
2
,
W
2
4 GeV
2
の領域は粒子とポロンにより記述され、軸性ベクトルカレント
関して、Q
2
0 の極限で部分的に保存される軸性カレント (PCAC) の条件を満たすこと
に注意した。これらの模型をまとめ、統一計算手法として提供するコード作成を進めた。
10. 破砕研究の包括的解析
電子陽電子対消滅における荷電ハドロン生成データを用いて強結合 α
s
について
動最低次 (LO) と2次 (NLO) の解析を行い、π 中間子、K 中間子、陽子の破砕関数とそれ
らの不定性を求めた [37]。この解析で、特にグルーオンと軽いクォークの破砕関数の不定
性が非常に大きいことを明らかにした。頻繁に用いられる Kniehl, Kramer, Potter (KKP)
Kretzer の破砕関数には、大きく異なる部分があり、それらの信頼性が問題となってい
た。本解析で、2 つの関数は我々が求めた不定性の範囲内にあることを示し、それらの解
析に矛盾がないことを明らかにした。また、破砕関数を正確に決定するには、Z ボゾンの
質量より小さいエネルギーの Belle 等のデータ解析が重要であることを指摘した。一般的
に、破砕関数にはパートン分布関数の価クォーク分布と海クォーク分布に相当する有利破
砕関数と非有利破砕関数が存在する例えば π
+
(u
¯
d) に対しては、u および
¯
d クォーク破
関数は有利関数、d クォーク破砕関数は非有利関数であり、破砕関数はハドロンのフレー
バー構造を特定するために利用できると考えられる。そこで、エキゾチックハドロン候
であ f
0
(980) を例にして、破関数の2次モーメントと関形の特徴を理論的に示し、
エキゾチックハドロンの内部構造を特定するために利用できることを示し [35]。ハドロ
ンの破砕関数は、これまで主に LEP SLD における Z 領域の電子・陽電子対消滅におけ
るハドロン生成を用いて決定されてきた。2013 年に、Belle BaBar が非常に精度良い破
砕関数のデータを軽いハドロン (π, K, p/¯p) に対して報告した。破砕関数の決定は、荷電
レプトン非弾性散乱における K 中間子生成用いた、非偏極および偏極ストンジォー
ク分布関数の決定に大きな影響をもたらし、核子スピンの起源の特定に大切な役割を果た
。まずBelle BaBar のデータが破砕関数の不定性を小さくすることを示し、これら
の実験結果の重要性を示した [14]。また、2016 年に客員研究員として KEK に来訪した米
Jefferson 研究所・博士研究 Sato 氏との共同研究を推進し、Monte Carlo 法を用いた
破砕関数の決定研究を完成し、得られた破砕関数コードを公開した [13]
5
11. Fermilab における陽子・重陽子 Drell-Yan 過程のテンソル偏極非対称度の理論予測
スピン1の重陽子には新たな偏極構造関数が存在し、その中のツイスト2の構造関数 b
1
b
2
である。これらの関数はークとグルーオンのテンソル偏極パートン分布関数で
すことができる。b
1
2005 年に HERMES により測定されたが、測定誤差が大きいため、
精密測定 JLab で行われる予定であるしかし、JLab 実験は比較的大きい Bjorken 変数
x 領域の研究であ反クォークのテンソル偏極分布については特定できない特に[69]
で提案した様に、総和則
dxb
1
(x) = 0 からのずれは有限な反クォークのテンソル偏極
意味してお高エネルギー反応による新たなテンソルスピン構造分の存在を示唆する
これは、Gottfried 総和則の破れが反クォーク分布のフレーバー依存性 (¯u
¯
d ̸= 0) を示し
たことに類似する。HERMES 実験で
dxb
1
(x) = [ 0.35 ± 0.10 (stat) ± 0.18 (sys) ] × 10
2
が得られてお限な反クークンソル偏極分が存在すると考えられる。そこで本
研究では、この偏極分布関数、特に反クークテンソル偏極分布関数を Fermilab-E1039
実験において測定することを、陽子・重陽子 Drell-Yan 過程のスピン非対称度を理論的に
予測することにより提案した [15]HERMES 実験による小さい Q
2
領域 (Q
2
= 2.5 GeV
2
)
のデータを説明できるテンソル偏極分 [29] を用いて、Fermilab 実験の大きい Q
2
領域で
分布関数を計算しこれを用いて Fermilab 陽子重陽子 Drell-Yan 実験の非対称度を求め
た。ここで、Fermilab-E1039 実験で可能な、非偏極陽子ビームとテンソル偏極重陽子標
を想定した。この Drell-Yan 断面積は、陽子のクォーク・反クォークの非偏極分布関数と
重陽子のテンソル偏極分布関数の積で表され、その断面積のテンソル偏極非対称度は %
であった。この成果を Fermilab Drell-Yan 研究者が将来計画に用い、実験の実現に向けて
プロジェクトを推進中である。
12. J-PARC における排他的 Drell-Yan 過程を用いた一般化パートン分布関数の研究
これまで核子の構造関数は、縦方向運動量分布としてのパートン分布関数が主に研究され
てきた。しかし、核子スピンの起源、特に軌道角運動量の寄与の解明には横方向分布の理
解が不可欠であるため、3 次元構造関数の研究が盛んに行われている。3 次元構関数の代
表的なものとして一般パートン分布関数 (GPD) がありCERN JLab など世界の加速
器施設で研究されている。これらの荷電レプトンビームを使用した実験では仮想コンプ
トン散乱と中間子生反応を用いて GPD の研究が行われている。れにしてJ-PARC
などのハドロン加速器施設における GPD 研究は検討されていなかった。そこで、我々は
J-PARC π 間子ビームを使用した、排他的 Drell-Yan 過程による GPD の研究を提
した [16]GPD として2つの模型 BMP2001 GK2013 を用いて π
p µ
+
µ
n の排他的
断面積を計算し、これと包含的断面積、J からのミューオン対生成、その他のバックグ
ランドを比較し、欠損質量スペクトルを見ることにより排他的 Drell-Yan 過程が特定でき
ることを示した。この反応は JLab の実験過程 γ
p π
+
n の逆過程でありJLab 実験の
仮想光子が空間的であるのに対して、J-PARC 実験では時間的である。また、x = 0.3-0.6
に感度がある JLab 実験りも小さ x x = 0.1-0.3 で測定でる違いがあり、2つ
の実験は相補的であるπ 中間子ビームとして、2020 年完成の高運動量ハドロンビームラ
インを使用するこのビームラインの実験計画に E50 プロジクトがあその主目的
チャームバリオン分光であるが、この検出器の後方にミューオン検出器を設置すること
より GPD 実験が可能になるため、E50 験に加わる形で計画を提案したJ-PARC ハド
ロン物理の新たな研究方向性を示した。この実験の実現に向けて、2019 年に LoI (Letter
of Intent) を提出した。
6
13. 排他的高エネルギーハドロン反応によるエキゾチックハドロンの内部構造解明
Gell-Mann Zweig のクーク模によば、中間子 q¯qバリオン qqq の組成を持つ。
これ組成、例 qq¯q¯q qqqq¯q を持子はチックハンとる。
2004 年以エキゾチクハドロの実験的が幾つもされていしかしながら、
通常のハドロンかエキゾクなかは質量崩壊スピンの様な包括的な物理量か
では判定し難い。そこで、高エネルギーハドロン反応と摂動論的 QCD を用いて内部構造
を探り、エキゾチックかどうかを判定することを提案した [17,23]。摂動論的 QCD によれ
ば、高エネルギーの排他的ハドロン反応は、構成クォーク間のハードなグルーオン交換
よって起こるため、ハードなクォークとグルーオンの伝播因子を考慮することにより、断
面積に対してクーク計数則が成立することが理論的に示されている。この計数則によれ
ば、2体のハドロン反応 a + b c + d の断面積は、重心系においてn
a,b,c,d
を反応に関
するハドロン内の構成子数として /dt f(θ
cm
)/s
n1
, n = n
a
+ n
b
+ n
c
+ n
d
と表すこと
ができる。この理論予測は、BNL JLab の実験で実際に検証されたこの計数則に着目
し、高運動量π中間子ビームを用いて励起状態を含むハイペロンの内部構造を調べる可能
性を研究した。ハドロン共鳴状態が支配的な低エネルギー領域から摂動論 QCD が使用
できる高エネルギー領域まで、3クォーク状態とされる Λ(1116) 及びエキゾチクハ
ンとされる Λ(1405) の生成断面積を見積り、その違いを調べた [23]。この結果を J-PARC
実験研究者と議論し高運動量ビームを用いた実験の可能性を示した。次に、我々はこの
計数則を用いてハードなハイペロン光生成反応の実験結果との対応を調べた基底状態の
Λ(1116) 3 クォーク状態と矛盾ないが、エキゾチックハドロンとされる Λ(1405) につい
ては実験誤差が大きく、構成子数を特定することが困難であった。しかし、エネルギーが
大きくなるにつれ5つのクォーク状態から3つに変化する興味ある現象が見られた
の研究成果を論文 [17] に発表した。今後JLab-12 GeV の実験が行われ構成粒子計数
を用いたエキゾチックハドロンの研究が進展すると考えられる。
14. エキゾチックハドロンの複合度
近年、エキゾチックハドロンの候補が実験的に報告されている。この理論的記述として
通常の構成をもつハドロン (q¯q, qqq)エキゾチックな構成要素を持つ粒子、ハドロン分子
状態るいはこれらの混合状とみす模など様々なものがあこれらの模型には、
必ず実験値を再現するパラメーターが含まれておりそれらの記述はハドロンの内部構
を理解するためには必ずしも有効な手段とは必ずしも言えない模型に依存しない形式で、
ハドロン構造を理解する物理量として、束縛状態の複合度がある我々は、エキゾチッ
ハドロン候補であスカラー中間 f
0
(980) a
0
(980) 2 体系成分を示す複合度を研
した [18]。例えば、クォーク模型によ q¯q 構成では f
0
(980) の強い相互作用による崩壊幅
f
0
ππ を説明できず [75]ϕ f
0
γ[63] や2光子崩壊幅 (f
0
γγ) の研究から、K
¯
K
子的な構造が有力視されてきた。複合度とは, ある状態の中に2体のハドロンが存在して
いる割合で、元々は重陽子が陽子と中性子の束縛系である事を示すのに用いられた。複合
度が1に近ければ、ハドロン分子としての束縛状態であり逆に0に近ければ、クォーク
模型で記述される様な通常のハドロンである。我々は、実験によって決定された f
0
, a
0
質量と結合定数を用いて、まず f
0
a
0
K
¯
K 複合度 (X
f
, X
a
) を計算した結果、f
0
の複
合度は大きくa
0
は比較的小さいことが判明した。次に、f
0
-a
0
混合の混合強度 (ξ
fa
) を計
算しBES の実験結果比較した特に、ξ
fa
|X
f
X
a
| の関係を調べた結 |X
f
X
a
| < 0.4
が得られ、f
0
a
0
が同時 K
¯
K 分子状態ではないことが分った。これらの結果によ
f
0
(980) は主に K
¯
K 状態、a
0
(980) はそれ以外、つまりクォークの束縛状態であると考えら
れることを明らかにした。これまで、f
0
a
0
は両方共に K
¯
K 分子状態であるとの理論予
測があったが、の結果はこれに反しf
0
(980) a
0
(980) の内部構造研究に新たな視点
を与えた。
7
15. B 研究施設の成果報告と破砕関数
KEK SLAC B 中間子研究施設は、大量に生成されたB中間子やタウ・チャーム粒子
などの崩壊現象に粒子粒子の対称性の破れを調べ新たな粒子を発見してきた。
これらの施設で、B 中間子と反 B 中間子の対称性の破れを発見し、小林・益川理論の検証
を行うなどの成果を挙げたがそれらに加えて、新たなエキゾチックハドロンの発見、
砕関数の精密測定などハドロン物理学においても貴重な成果を残したこれまでの研究成
果をまとめ、加速器の説明、実験解析手法、小林・益川理論とその検証、ハドロン分光と
崩壊、破砕関数などを詳しく解説し、928 ページの論文 The Physics of the B Factories
して発表し [19]。この報告書 2014 7 11 日、CP 対称性の破れ発見か 50 年〜
Belle 実験と BaBar 実験小林益川理論実証の記録を共同出版〜」として KEK からプレ
スリリースされた。熊野は、この論文の中で、特に破砕関数の解説に寄与した。ハドロン
の破砕関数は、それまで主に LEP SLD 施設を用いた、Z 質量領域の電子・陽電子対消
滅におけるハドロン生成を用いて決定されてきた。2013 年に、Belle BaBar が非常に精
度良破砕数のータを、軽いハロン (π, K, p/¯p) に対して報告した。また、心系
ネルギーと生成ハドロンのエネルギー比 z の広い領域をカバーして正確な破砕関数が
定できる様になった。Belle BaBar の重心系エネルギーは約 10 GeV でありLEP/SLD
Z 質量領域とは大きく異なり破砕関数のスケーリングの破れ、つまりグルーオンの破
砕関数が分かる状況になった。高エネルギー重イオン反応によるクォークグルーオンプ
ラズマの発見と性質の解明、高エネルギー偏極陽子反応による陽子スピン起源の解明には
正確な破砕関数が必要不可欠でありB 中間子研究施設はこの方面においても大きく貢献
した。さらに、B 中間子研究施設において奇カイラル破砕関数を測定したことにより
の加速器施設で奇カイラル性を持つパートン分布関数が観測可能になり、特に横方向スピ
ンを用いた陽子スピン構造の解明に決定的な役割を果たした論文 [19] で、これらの成
を詳しく解説した。
16. GPD GDA を用いたエキゾチックハドロンの内部構造解明
エキゾチックハドロンが実験的に報告されているが、それが実際にエキゾチックな組成を
持つかどうかは自明ではなく質量や崩壊幅などの物理量では判断し難いそこで、高エ
ネルギースピン分野で研究が進んでいる3次元構造関数を用いてエキゾチックハドロン
候補の内部構造を探る研究を進めた。ハドロンの代表的な3次元構造関数に一般化パート
ン分 GPD (Generalized Parton Distribution) があこの3次構造を明らかにする
野は、ハドロントモグラフィーと呼ばれている。我々は、この研究手法をエキゾチック
ハドロンの特定に用いハドロンの3次元構造を明らかにすることにより、エキゾチッ
かどうかの判定ができることを示した [20]。具体的には、縦方向のパートン分布関数の形
状や、形状因子の大きい Q
2
の振る舞いに、エキゾチックな特徴が現れるはずである。価
ーク分布関数は、構成粒子数が多くなほどその分布は小さ x 領域に移動する。
構成粒子数 n = 2 3 の場合、計算した価クォーク分布が実験から得られた π 中間子と核
子の価クォーク分布に一致することを確認し、予測されるテトラクォーク (n = 4) とペン
タクォーク (n = 5) ハドロンの価クォーク分布を示した。また、形状因子の大きい Q
2
域においては、摂動論的 QCD の構成粒子計数則を用いて構成粒子数を数えることにより
エキゾチックな構造を見つけることができる。しかし、エキゾチックハドロンの様な不
定粒子は実験の固定標的として使用できないそこで、GPD を測定する仮想 Compton
程の s-t 交叉程である2光子過程をいて測定される一般化分布振 (GDA: Generalized
Distribution Amplitude) を用いることを提案した。2光子過程における排他的ハドロン対
生成を摂動論 QCD の部分と非摂動関 GDA の積として表わこの GDA を実験か
ら決めることにより、生成されたハドロンの内部構造についての情報が得られる。本研究
では、Belle 実験などで測定される2光子過程を用い a
0
(980), f
0
(980) などのエキゾチ
ク中間子の構造を探ることができることを理論的に示した。
8
17. 輻射崩壊による Λ(1405) の内部構造解明
核子、核子の励起状態、その他大多数のバリオンの質量は、qqq の組成を仮定した単純な
クォーク模型により理解できるが、Λ(1405) の質量については実験値と大きく異なること
が知られている。このため、Λ(1405)
¯
KN の分子的束縛状態であると予想されている。
最近では
¯
K が原子核に存在す K 中間子原子核の実験研究が J-PARC などの加速器施
設で研究されておりその基礎となる
¯
KN の分子状態としての Λ(1405) の内部構造は、
ず解決されるべき課題である。本研究でΛ(1405) の輻射崩壊幅 [Λ(1405) Λγ, Σγ] を用
いて、Λ(1405) 内の
¯
KN 存在割合である複合度が特定でき、分子状態であるか否かの判別
ができることを示した [21]特に、この電磁輻射過程は E1 遷移であるため束縛系の大き
さにより崩壊幅が大きく異な分子構造かコンパクトなクォーク束縛状態なのかを区別
できると考えられる。そこで、輻射崩壊幅の実験値を用いて Λ(1405) 複合度を調べた。
まず、理論的に中間子・バリオン中間状態のループ効果を考慮して、Λ(1405) Λγ, Σγ
の崩壊幅を計算し、崩壊幅と Λ(1405) 複合度との関係を理論的に示した。次にΛ(1405)
πΣ との結合定数を Λ(1405) πΣ 崩壊幅から決め、πΣ の複合度が 0.19 程度である
こと示しπΣ 分子構造 Λ(1405) の主要構成要素でないことを明らかにした。また、
射崩壊 Γ
Λγ
, Γ
Σγ
の測定値と実験誤差を考慮して、それらの値と Λ(1405) 合度との関
係を示した。輻射崩壊幅は正確に測定されていないが、現時点の実験値と理論計算を比
することによΛ(1405) の複合度が 0.5 よりも大きい結果を得たて、輻射崩壊幅
Λ(1405) の主要構成要素は
¯
KN であることを明らかした。また、Λ(1405) の質量が 1424
MeV 1381 MeV である場合についても崩壊幅と複合度との関係を示した正確な複合
度を決定するには、高い実験精度で輻射崩壊幅を求める必要があり将来の J-PARC 実験
に期待したい。
18. 日本の核物理の将来レポート、核子構造
21 世紀になり、日本には世界最高性能の加速器施設 J-PARC, KEKB RIBF が完成し、
RCNP, ELPH とともに、これらの実験施設を利用して多角的にハドロン原子核物理の研
究を進めることが可能になった。また、大型計算機の性能についても著しい発展があ
計算機物理学も進展した他方で世界に LHC, RHIC, JLab, GSI などの主要加速器
設があり、これらの施設を用いた原子核物理学にも日本の研究者は参加している。これら
の加速器で展開される物理は多岐にわたているが原子核研究者は各自の研究分野に専
念するあまり他分野の理解が進んでいない可能性がある。また、J-PARC RIBF は当初
の計画から実現まで 20 年以上かかっていることから、これらの施設で行われる物理に関
して再検討が必要である。そこで核物理委員会の提案により日本の核物理の将来研究
計画をまとめた報告書を 2013 年に作成 [22]今後進むべき方向性を示した。この報告書
は、不安定核物理、精密核物理、ハイパー核・ストレンジネス核物理、ハドロン物理、
エネルギー重イオン衝突による物理、核子構造の物理、核物理的手法による基礎物理、
算核理の子核理の分野を含むものである。またこの改訂版 2021 年に発表し
[2]これらの論文の中で、熊野は核子構造分野の執筆に貢献した。核子構造部分では、
ピンパズルを説明し、因子化とパートン分布関数、偏極構造関数とレプトン陽子散乱お
よび陽子陽子衝突について解説し、これら実験データの包括的解析によって決定される
偏極パートン分布関数の状況を説明した。また、横偏極現象の解明と高次ツイスト効果
究の現状を示し、核子スピンのパートンスピンと軌道角運動量への分解について説明し
特にを特めに軌道角運動量の寄する
めの3次元構造関数を解説した。またこれらの構造関数に関する格 QCD
有効模型による理論的な理解についてまとめ最後に将来の実験計画 (CERN-COMPASS,
RHIC, Fermilab, KEKB, JLab, EIC, J-PARC) を紹介した。
9
19. 破砕関数の Q
2
発展方程式の数値解と発展コード
Belle 実験グループは 2013 年に、これまでの LEP/SLD データと比較できないほどの高精
度で破砕関数の測定結果を発表した。LEP SLD Z 質量に相当するエネルギーで破砕
関数求めたが、Belle の重心エネルギー 10.58 GeV であるため、破砕関数のスケー
ングの破れが明確になり初めてグルーオンの破砕関数を求めることができると期待さ
た。スケーリングの破れを記述する DGLAP (Dokshitzer-Gribov-Lipatov-Altarelli-Parisi)
方程式は、特に QCD の摂動高次項を含む場合、複雑な微積分方程式であり解析的に解く
ことができない。他方で、破砕関数を用いた高エネルギーハドロン反応の解析は多岐に
たり素粒子標準模型を超える物理、ークグルーオンプラズマの性質、核子スピンの
起源解明などにとって必要不可欠である。高エネルギー実験データの包括的解析による
定された破砕関数は、一般的に小さいエネルギースケール (Q
2
) において提供されてお
それを一般研究者が必要な高エネルギー反応で用いる場合には、Q
2
のスケール発展を計
算する必要がある。この Q
2
発展は実験研究者や理論研究者が頻繁に使用しているが、一
般に公開されているコードがないため、我々に公開コードを作成する様に要望があった
破砕関数の DGLAP 方程式は破砕関数 Q
2
による微分と、破砕関数と分岐関数の積の、
生成ハドロンのエネルギー比 z による積分で表される我々は、この方程式を正確にかつ
速く解く数値解法を、Euler 法と Gauss-Legendre 法を基礎にして工夫することにより提
し、Q
2
発展コードを開発したQCD 結合定数 α
s
の摂動最低次 (LO: Leading order) と摂
動2次項 (NLO: Next-to-leading order) を含む DGLAP 方程式の数解コードを提供した
このコードと解説を論文 [24] に発表し、一般の研究者が利用できる様にインターネット上
に公開した。このコードは、ハドロン有効模型の結果と実験データの比較、高エネルギー
ハドロン生成反応の記述に用いられ、本研究は高エネルギー原子核素粒子物理学の発展に
寄与した。
20. 標準模型による CDF 2ジェット生成異常現象の理解
2011 4 月、Fermilab 1.96TeV の陽反陽子衝加速 Tevatron CDF 実験チー
が標準模型では説明できない新発見をしたと発表し、その結果は Physical Review Letters
106 (2011) 171801 れた。陽子・反よって W
ジェットを観測し、横軸を2つのジェットの不変質量として示したところ、140 GeV 領域
に標準模型で説明できないピークを発見したこの CDF の結果が新発見であるためには
それ標準の枠で説きなこと示す必要る。W ジェット成に
は、初期状態の陽子と反陽子内の様々なフレーバーのクォークと反クォーク及びグルーオ
ンが関与しており、これらのパートンの核子内運動量分布を正確に把握しておく必要があ
る。パートンが担う陽子あるいは反陽子の運動量の割合は Bjorken 変数 x で表され、特に
x = 0.05 0.1 付近の分布関数が CDF 実験結果に影響する。ストレンジクーク分 s(x)
は、従来ニュートリノ深非弾性散乱における µ
+
µ
生成反応で決定され s 0.4(¯u +
¯
d)/2
であることが知られているが、この x 領域の関係式に問題があることが、HERMES 実験
により示唆されていた。我々がこの s(x) の不定性が2ジト事象に及ぼす影響を調べた
ところ、CDF の様な狭いピーク構造ではないが、顕著な断面積の変化を見出した。CDF
異常現象は断面積が落ちる肩の部分にあるため、断面積の変化が結果の解釈に影響する
このことから、CDF 異常現象の一部は s(x) の不定性に起因していることを指摘した。物
理的には、ストレンジクォーク分布は摂動論的なグルーオン分岐過 (g s¯s) 大部分
は起因するが、固有ストレンジと呼ばれる Q
2
のスケール発展と関係なく核子内に存在す
る分布があると考えられておりs(x) の分布研究は、その生成メカニズムと関連する興
ある課題である。この研究結果を論 [25] に発表したが、投稿受付の2日後に掲載が決定
されたことからも、研究成果の緊急性と重要性が認められたものと考える。
10
21. 崩壊現象から探る Λ
c
(2940)
+
の構造
Belle BaBar によ、重いクォークを含むハドロン系に、いくつものエキゾチックハド
ロン候補が報告された。その一つに Λ
c
(2940)
+
があり、核子と D
中間子の分子的束縛状
態ではないかと考えれているしかし、Λ
c
(2286)
+
D 波励起状態である可能性があり
その構造に興味が集まっていた。この内部構造を検証するため、Λ
c
(2286)
+
の輻射崩壊と
強い相互作用による崩壊を調べることを提案した。まずΛ
c
(2940)
+
Λ
c
(2286)
+
γ の輻
射崩壊幅を分子構造模型により計算し、我々の理論予測を示した [28]。この計算では、寄
与する ND
ループの項を考え、ゲージ不変性に注意して定式化を行った。崩壊幅への寄
与は、ND
ループ中の陽子からの輻射項が大きくD
, Λ
+
c
及び Λ
+
c
ND
頂点項は比較的
小さかった。Λ
c
(2940)
+
pD
0
nD
+
の混合状態であると考え、その混合角 θ を導入し
(|Λ
c
(2940)
+
= cos θ |pD
0
+ sin θ |nD
+
)。輻射幅は、この混合角 θ Λ
+
c
ND
形状
因子の運動量カットオフパラメータ Λ に大きく依存するため、これらのパラメータの関
数として輻射幅の結果を示した。例えばθ = 10
, Λ = 1 GeV の場合、崩壊幅は 84 keV
であった。次に、Λ
c
(2940)
+
Λ
c
(2286)
+
π
+
π
, Λ
c
(2286)
+
π
0
π
0
の強い相互作用による崩
壊についても、分子構造を考慮して崩壊幅を理論的に計算した [26]。この崩壊を2段階過
Λ
c
(2940)
+
Σ
++
c
π
Λ
c
(2286)
+
+ π
+
π
, Λ
c
(2940)
+
Σ
0
c
π
+
Λ
c
(2286)
+
+ π
+
π
,
Λ
c
(2940)
+
Σ
+
c
π
0
Λ
c
(2286)
+
+ π
0
π
0
, Λ
c
(2940)
+
ρ
0
Λ
c
(2286)
+
Λ
c
(2286)
+
+ π
+
π
で考え、各々の課程の寄与を明らかにした。特に、Λ
c
(2940)
+
Σ
c
π Λ
c
(2286)
+
+ ππ
の寄与が大きく、中間に ρ が関与する項は無視できる程度であった。この崩壊幅を混合角
θ とカットオフ・パラメー Λ 関数として示した。例えば、θ = 10
, Λ = 1 GeV の場
合、崩壊幅は 4.9 MeV となった。将来、これらの理論計算結果と実験値との比較により
Λ
c
(2940)
+
のエキゾチックな内部構造が明らかになると期待される。
22. 原子核構造関数のクラスター的性質
多くの原核は殻模によて記述されるしかし、量数 10 付近の原子核および安定核
から離れた不安定原子核には模型の準位を非常に高いところまで取らない限殻模型
で記述が難しいクラスター構造を持つ原子核が存在する。原子核を標的にした深非弾性散
乱の実験がな原子核に対して行わた結果、ラスター構造を持つ原子に対しても
構造関数とパートン分布関数の研究が進展した2009
9
Be の構造関数に関して理論
に解釈が困難な結果が JLab の実験で報告された構造関数の原子核補 F
2
Bjorken
x に対する傾 |d(F
A
2
/F
D
2
)/dx| を原子核密度の関数として表した場合
3
He,
4
He,
12
C
と原子核密度が大きくなるに従って滑らかに原子核補正の傾きが変化しているにも関わら
9
Be だけはこれらの補正より非常に大き「異常な」実験結果とた。本研究では
その結果が
9
Be のクラスター的性質 ( 2α + n) 示すことを指摘した。通常の殻模型と
クラー的質を述で反対化分力学用い子核造関研究
[27]。原子核内の平均的核子運動量分布と核子構造関数の畳み込み積分として原子核構造
関数を記述したところ、
9
Be の結果を説明できるほど F
A
2
自体に対するクラスターの効果
は大きくなかった。これは、原子核内にクラスター構造を持ったとしても、それを角度平
均した場合、殻模型の単一的な密度分布と大きい差異がないことに起因するしかし
ラスターによって生じる原子核内の局所的最大密度を考慮すれば、
9
Be の異常な現象は理
解できることを指摘し
9
Be の構造関数異常とクラスター構造との関係を示した従って、
JLab 結果は
9
Be 局所的クラスター構造と関係してお、高密度状態により核子の短
距離相関を含めた現象があらわになったと言える。我々の研究結果を受けてJLab
験提案 (JLab PAC-35 proposal, PR12-10-008) にクラスター研究の目的を加えた実験準備
が進んだ。
11
23. スピン1粒子の偏極構造関数の射影演算子とテンソル偏極パートン分布関数
スピン1のハドロンには、スピン 1/2 の核子には存在しない偏極構造関数が存在する。
極電子深非弾性散乱においては、b
14
の新しい構造関数が存在することが知られている。
本研究では、ハドロンテンルか b
14
を計算する射影演算子を、ハドロンの運動量とス
ピンベクトルの組み合わせにより正確に求め、論文 [34] に発表したこの結果は理論模
型でハドロンテンソルを計算しそれから4つの構造関数を正確に導くために必要な研究
である。次にスピン1粒子に重陽子のテンソル構造をクグルオンの自由度
で理解す標にパー布関数のを行た。2005 年、HERMES
より初めて電子偏極重陽子非弾性散乱の構造関 b
1
が測定されたがその結果がクォー
クのテンソル偏極分布にどの様に関係するか明らかではなかった。パートン模型で予測さ
れる総和 (
dx b
1
(x) = 0) を価クォークに対して用い HERMES の結果を解析し、最
適なテンソル偏極クォークと反クォーク分布を得た [29]。テンソル偏極分布関数は非偏極
パートンと偏極ハドロンで定義されており、その分布関数の Q
2
スケール発展は、非偏極
DGLAP 方程式によって記述されるしかし、HERMES の実験値では、その Q
2
発展を調
べることができる精度がないため、分布関数の最適化において Q
2
HERMES データの
平均値である Q
2
= 2.5 GeV
2
に固定した。この結果から、有限な反クォークテンソル分
[
dx (8δ
T
¯u + 2δ
T
¯
d + δ
T
s + δ
T
¯s)/18 = 0.0058] が得られたが、これは従来の重陽子模型
では理解できないため、更なる理論的研究が必要である。得られた最適テンソル偏極パ
トン分布関数を、一般のユーザーが計算できる様に公開した。これまで、この分布は存在
しなかったため、将来の実験提案、格子 QCD 計算、ハドロン模型による結果と比較でき
るものがなかったが、本研究によて、高エネルギー領域における重陽子のスピン構造
研究実質に可になた。際、この研究結果を用て、米国 Jefferson 研究 (JLab)
で電子散乱実験の提案がなされ (Letter of Intent to JLab PAC-37)2020 年代半ばには実
験が開始される予定である。
24. ハドロン反応を利用した一般化パートン分布と色透明度
2008 年時点で、一般化パートン分布関数 (GPD) は、荷電レプトン加速器施設における深
部仮想コンプトン散乱により研究が計画されていた。しかし、J-PARC GSI-FAIR など
のハドロン研究施設においてもGPD が研究できることを理論的に示した [31]この研究
では、高エネルギーハドロン反応過程 a + b c + d + e を考え、特 c d がほぼ逆方向
の大きい横方向運動量を持つ過程を考えた例えばN + N N + π + B (N核子、π
パイ中間子、B子あるい ∆) の反応の断面積に、核子自体の GPD と核子から 粒子
への遷移 GPD が寄与することを明らかにGPD の典型的な理論模型を用いて数値的に
N + N N + π + B 断面積を計算した。ハドロン反応を用いる点は断面積が大きいこ
とと、レプトン反応と異なる運動学的領域、例えば Efremov-Radyushkin-Brodsky-Lepage
領域と呼ばれる ξ < x < ξ (x はパートンの運動量比、ξ 歪みパラメータ) を満たす部
分が研究できる特徴があるこの研究は、ハドロン加速器施設プロジェクトの可能性を広
、異なる観点から GPD 研究できる可能性を示した点で価値がある。次に、π 中間子
ビームを用いた色透明度の研究を提案し [30]。原子核媒質中のハドロンの相互作用は、
基本的なハドロン相互作用を理解する意味で、また高エネルギー原子核反応への応用上有
益な課題である。高運動量移行のハドロン反応過程では、主に小さいハドロンの成分が
面積に寄与すると考えられる。この小さいハドロンは、原子核媒質中をほとんど相互作
をすることなく通過すると考えられ、これを色透明性と呼ぶ。核子・原子核と核子・核子
反応の断面積比を取り、これを色透明度 T と定義する [T = σ
NA
/(A σ
NN
)]。陽子ビーム・
エネルギーの様な反応の典型的なハードスケールが大きくなれば、つまり反応に関与する
ハドロンのスケールが小さくなれば、色透明度は大きくなると期待される。本研究では
色透明度 π 中間子ビーム運動量と原子核質量数の依存性を理論的に予測したこの結果
は、CERN-COMPASS J-PARC の実験で検証可能である。
12
25. JLab, RHIC-Spin の実験結果を踏まえた偏極パートン分布
核子スピンの起源を特定するためには、実験結果を QCD の高次補正項を含む形で解析す
ることにより偏極パートン分布を正確に決定し、クォークとグルーオンが担うスピンの割
合を決める必要がある。そこで、レプトン・核子非弾性散乱のスピン非対称性 A
1
や、偏
極陽子・陽子反 π 間子成にするン非称性実験果か、最適偏極
パートン分布を求める研究を進めた。この解析ではJLab, HERMES, COMPASS の実験
結果と PHENIX π 間子生成のデータを含めて解析した点が新し [38]。この解析に
よって得られた偏極パートン分布に対する誤差解析を、Hessian 法を用いて行った。その
結果、JLab のデータは大きい x 領域の偏極価ークの分布をHERMES COMPASS
のデータは x = 0.1 付近の偏極反クォーク分布を特定するために有効であることが分かっ
た。x = 0.05 HERMES COMPASS の重子デタに Q
2
の違によ差異
があり、これは大きい x 域の偏極グルーオン分布が正であることを示唆した。さらに
PHENIX の実験により偏極グルーオン分布の不定性が半分以下になることを示した。次
に、Jefferson 研究所の将来実験 E07-011 がグルーオン偏極に及ぼす影響に着目し、RHIC
におけるパイ中間子生成データの影響と比較検討した [32]。この包括的解析で、グルーオ
ン偏極 x 0.1 領域では小さ大きい領域 (x > 0.2) では正の分布になることを明らか
にした。ォーク分布関数の一次モーメント 25%程度であったが、偏極グルーオン分
関数に関しては未だに不定性が大き、一次モーメントが特定できないことが分かった
予想される E07-011 実験の偏極構造関 g
1
の誤差が非常に小さいため、摂動の高次項
して寄与する偏極グルーオン分布の効果が特定できることを、この研究によって明らかに
した。また、その効果は RHIC のパイ中間子生成による偏極グルーオン分布への制限と
程度であることを示し、RHIC JLab データは偏極グルーオン分布関数の誤差を半分
程度にすることを明らかにした。
26. J-PARC における高エネルギーハドロン物理
原子核は核子と中間子の自由度で記述され、原子核構造や反応の分野は確立された研究領
域となりつつある。しかし、ハドロン子核の基本相互作用である量子力学 (QCD)
非摂動的くことがありークグル多体系とドロンや
子核の構正確に把難しい場この状況J-PARC
ではフレーバーやハドロン密度の自由度を変化させることにより新しい粒子やクーク
ハドロン物質を生みだし、それらの物質を含めたハドロンの性質や反応を研究することを
目的として実験が行われている。2020 には高運動量ビームラインが完成し、高エネル
ギー陽子やパイ中間子などを利用したプロジェクトが可能になる。論文 [33] では、将来的
に研究可能な高エネギードロン物理の課題を介した。特に、3050 GeV の陽子一次
ビームを用いた研究について解説したJ-PARC の陽子反応は、高エネルギーの摂動論的
QCD の手法が使える適限界にあり動的手法の証と適応領域の拡大の研究には、
動論的物理から非摂動論的物理に至る領域を正確に理解することに繋がる重要性がある
すでに、チャーム粒子生成や Drell-Yan 過程を用いた、核子と原子核のクォーク・グルー
オン構造パートンエネルギー損失スピン非対称度の研究による核子スピン構造に関
る実験提案がありこれらの課題を説明した。また、陽子ビームを用いてベクトル中間子
の質量変化を測定することによりハドロン質量の生成機構を明らかにするプロジェクト
を解説した。さらに、現時点で実験計画はないものの、(p, 2pN) による核子間短距離相
作用の研究、スピン1のハドロンのテンソル構造、一般化パートン分布の研究等の様々な
課題が可能性として考えられることを紹介した。将来的には陽子ビームを偏極させて
験を行い、核子スピンの起源を明らかにする研究も検討されている。J-PARC はハドロン
物理学の多様な課題を研究することができる待望の施設であり、今後多方面への展開が期
待されている。
13
27. 摂動高次項の影響を取り入れた原子核内パートン分布関数
LHC RHIC は、高エネルギ−重イオン反応を用いた研究が行われてお、反応の断
面積測定からクォークグルーオンプラズマの性質が調べられている。この断面積の記述
には正確な原子核パートン分布が必要であ我々の分布関数最適化の研究を進めた。
た、ニュートリノ振動の研究には正確な酸素原子核の分布関数が必要である中規模の原
子核においては、核子のパートン分布から 10-20%程度の変化があることが知られてお
その補正を正確に理解することは、原子核内の分布関数のメカニズムを理解するためのみ
なら、応用上重要な課題である。例えば、ニュートリノ動の研究のためには、5%
精度で断面積を計算することが望まれている。特に、今回は摂動の高次項を含めた解析
行った。原子核構造関数 F
2
Drell-Yan 断面積比のデータを使用し、QCD の摂動最低次
(leading order, LO) と2次 (next-to-leading order, NLO) の解析を行って最適な分布関数
を決定し、分布関数の不定性を示し [36]。これによ、小さい x (= 0.01 0.001) にお
ける反クォークとグルーオンの分布はNLO おいてよりよい精度で決定されることが
分かった。重陽子から鉛の原子核に至る多数の原子核の実験を説明することに成功し
られた原子核のパートン分布関数を公開した。この解析により以下の結果を得た。(1)
きい x 領域の価クォークの原子核補正は F
2
のデータより精度良く決定できた。この補正
とバリオン数保存則や電荷保存則の強い制約により、小さ x においても価クォーク分布
は精度良く決定できた。(2) 逆に、小さい x 領域の反クォークの原子核補正は、F
2
のデー
タを用いて精度良く決定できたまたx = 0.1 の領域では Drell-Yan データの制約により
原子核補正はなく、大きい x では大きい不定性を持っていることを明らかにした。(3)
ルーオン分布は摂動の高次項として、構造関数や断面積に寄与するためNLO 解析で
より正確に求められることが期待される。しかし、原子核構造関数比の正確な Q
2
依存性
が決定されておらず、グルーオン分布の原子核補正を正確に求めることができなかった。
28. HERMES 効果
電子・原子核深非弾性散乱により、2つの構造関数 F
A
1
F
A
2
が求められる。仮想光子の
偏極で見れば、F
A
1
は横偏極、F
A
2
は横偏極と縦偏極両方の反応成分を含んでおりF
A
2
ら横偏極部分を差し引いて縦偏極関 F
A
L
が得られるQ
2
のスケール極限において
F
A
L
= 0 が成立するが、実際の実験が行われ Q
2
領域においては、R 比と呼ばれる縦
偏極と横偏極構造関数の比 R = F
A
L
/F
A
1
は有限な値を持つことが知られている。1980
代には、F
A
2
に関する原子核補正である EMC (European Muon Collaboration) 効果の研究
が盛んに行われ、その後 R 比についても原子核補正が存在するかどうか検討されていた。
2000 年、HERMES グループは縦方向と横方向の断面積 σ
L
T
に原子核効果が存在す
ことを発表し、この効果は HERMES 効果と呼ばれた。我々は、その論文で指摘された小
さい x 領域ではなく、大き x 領域で原子核の補正効果が理論的に予測されることを明
かにし [43]。従って、HERMES の実験結果の妥当性とは関係ない理論研究である。特
に、電子やミューオン散乱における仮想光子の運動方向が原子核内核子の運動方向と
一般的には異なることに注目し、核子の縦方向構造関数 F
N
L
と横方向の F
N
1
が混合するこ
とを示した。つまり、原子核の縦方向構造関数 F
A
L
は、核子構造関数 F
N
L
F
N
1
の両方と
核子の運動量分布によって表わされる。例えば、電子・核子散乱の断面積と構造関数は
仮想光子の運動量 z 方向に取り、核子は静止 z 方向の運動に設定して記述される。
しかし、原子核内の核子の運動は Fermi 運動と呼ばれ、空間の様々な方向に運動している
ため、横方向と縦方向の構造関数が混合する形になる。この混合によりHERMES
が大きい x 領域で顕著であることを明示し、将来の実験的検証の可能性を指摘したその
後、HERMES はデータを再検討し、原子核効果が小さい x 域に存在するかどうかは明
かではなくなった。しかし、我々は HERMES とは異なる運動学的領域に、R の原子核効
果が存在すると確信する。
14
29. NuTeV の弱混合角異常と原子核効果
弱い相互作用の中性カレントは、左巻き成分に作用するアイソスピンカレントとともに
左巻右巻を区別せずに用する電レントがこれ 2 つのカレンの混合割
が弱混合角あるい Weinberg θ
W
である。この弱混合角は、2002 年時点で衝突型加速器
の実験により正確に求められておりsin
2
θ
W
= 0.2227 ± 0.0004 であった。これに対して、
NuTeV のニュートリノ散乱の実験結果は sin
2
θ
W
= 0.2277 ± 0.0013 (stat) ± 0.0009 (syst)
であり、異なる値が得られた。これは、NuTeV 弱混合角異常と呼ばれている。混合
sin
2
θ
W
は標準模型における要な物理量であこの差異の原因を明することが必要で
は、NuTeV 実験グループ sin
2
θ
W
原子
て研究した [44]NuTeV 実験が使用した標的は鉄であるため、原子核補正による効果が重
要と考えPaschos-Wolfenstein 関係式 R
= (σ
νN
NC
σ
¯νN
NC
)/(σ
νN
CC
σ
¯νN
CC
) = 1/2 sin
2
θ
W
は断面積比と sin
2
θ
W
の関係を与えるが、原子核補正や鉄のような原子核の中性子過剰
果は慮さていい。まPaschos-Wolfenstein 係式、中性のパトン布関
数に対してアイソスピン対称性を仮定して得られておこの仮定に関しても検討が必要
である。本研究では、アイソスピン対称性の破れ、価クォーク分布 u
v
d
v
に対する原子
核補正効果、有限な s(x) ¯s(x) c(x) ¯c(x) 分布の効果を、Paschos-Wolfenstein 関係式
の補正項として示しNuTeV 弱混合角異常の原因がこれらにあることを指摘した。原
核補、特にクォー u
v
d
v
原子るこ
保存、バリオン数保存、電荷保存を用いて示した。更に、数値的にこの差を計算 [39]
Paschos-Wolfenstein 関係式への影響を調べ、部分的に sin
2
θ
W
の差異が説明できる結果を
得た。しかし2020 年時点においても、アイソスピン対称性の破れ、u
v
d
v
の原子核補
正効果、s(x) ¯s(x) c(x) ¯c(x) の効果はいずれも不定性が大きく、差異の大部分は
解決のまま残されており、将来の解明が待たれる。
30. 大強度ニュートリノ研究施設における核子と原子核の構造関数研究
ニュートリノ相互作用は弱いため、反応の断面積は一般的に非常に小さそのため実
誤差は大きい。将来の精密ニュートリノ物理学発展のためには、Neutrino Factory と呼ば
れる大強度ニュートリノ研究施設が必要でありその将来計画に参加した。特に、専門分
野である核子構造関数の知識を生かして高エネルギー大強度ニートリノ研究施設を用
いて究できるドロ構造ついて検した [S. Kumano, Nucl. Phys. Proc. Suppl.
112 (2002) 42; AIP Conf. Proc. 721 (2004) 29]。ニュートリノ・核子深非弾性散乱では、
軸性ベクトルカレント型相互作用の存在により、電子散乱にはない構造関数 F
3
が存在す
る。この構造関数は、核子の価クォーク分布関数で表されるため、ニュートリノ散乱の
験データは、核子の価クォーク分布関数を決定するために重要な役割を演じた原子核
価クォーク分布関数、つまり原子核補正に関しては、中間から大きい Bjorken-x 変数の領
域で構造関 F
A
2
から求められる。小さい x 領域においては、原子核のバリオン数と電荷
保存による価クーク分布に対する制約があるものの、分布を正確に決定することは困難
である。そこで我々は、小さい x 領域の原子核価クォーク分布関数がニュートリノ散乱の
構造関数 F
A
3
を用いて決定でき、価クォークの影散乱現象の研究に重要な役割を果たす
とを示した。次に、偏極構造関数として、通常の荷電レプトン散乱の関数に加えて新し
関数 g
3
, g
4
, g
5
が存在しそれらを用いて偏極パートン分布関数を詳しく研究することが可
能であることを示した。荷電レプトン散乱による核子スピン起源の研究では、価クォー
と反クォークが担うスピンの割合を分離することが難しいが、ニュートリノ散乱において
は、その分離が可能になる。特に、g
3
(あるいは g
5
) を利用して偏極価クォーク分布を求め
ることが可能となり、また他のデータと組み合わせることにより小さい x 領域での偏極反
クォーク分布を正確に求めることができる。この様に、荷電レプトン散乱のみではクォー
クが担う陽子スピンの割合は確定できないが、ニュートリノ反応では直接この割合が求め
られる利点があり、陽子スピンの解明に役立つ。
15
31. 偏極反クォーク分布のフレーバー非対称性
核子内反クォーク分布は、主にグルーオンからの摂動論的分岐過程 g q¯q によって生じ
ており、アップとダウン・クォークの質量は小さいため、その分岐から生じる ¯u
¯
d の反
クォーク分布関数には差異がないと思われる。しかし、非偏極反クォーク分布にはフレ
バーが存、非摂効果ていとがてい。他方で、偏
クォーク分布関数に対して、フレーバー非対称性が存在するかどうかは明かではない
極現象を含めた核子構造の理解のためには、フレーバー非対称性を生じる非摂動的メカニ
ズムを理解しておく必要があるそこで、我々はハドロン模型を用いて、偏極反クォー
分布のフレーバー非対称性を予測する理論研究を行った [45]。非偏極分布で用いられる代
表的な模型である中間子雲模型を用いて偏極反クォーク分布のフレーバー非対称性を研
究した。核子には「中間子雲」があることが知られており、例えば観測されている中性子
の負の平均2乗半 r
2
< 0 がこのメカニズムで説明されるこれを偏極反クーク分布
の計算に使用する。π 中間子はスピン 0 のため、中間子雲として核子内の偏極パートン分
布に直接寄与しない。そのため、偏極パートン分布に影響を及ぼす最も重要な粒子は、
ピン1の ρ 中間子であると考えられる。電子散乱において、仮想光子 ρ 中間子と相互作
用をるとて、この ρ 中間子雲の効果をフレーバー非対称性分布 ¯u
¯
d に対して計算
した。この研究では、N ρN N ρ の両方の過程を含め、ρ g
1
構造関数のみな
らず g
2
項を入れて計算を行た。この結果¯u
¯
d に対して負の布が得られたつま
偏極分布と同様に偏極分布においても
¯
d ¯u よりも過剰であると考えられ、
原因として ρ
+
の中の
¯
d が大きく影響していることを示した。この理論予測は RHIC-Spin
COMPASS の実験で検証される。また、陽子重陽子 Drell-Yan 過程においても検証
能であること指摘した 48
32. 原子核内パートン分布の最適化
高エネルギー原子核反応を正確に記述するためには原子核内のパートン分布を確定する必
要があり得られた分布は、グルーオンプラズマ生成の判断やニートノ振
実験原子補正などへの重要な応用が考えらる。しかし子内分布に関す CTEQ,
GRV, MRST の研究に対応する様な研究はなかった。そこで、偏極分布研究において開発
した化のを原核構数のに利し、原内のパー分布
めた [46]。これまで、原子核パートン分布関数の χ
2
解析は存在しなかったため、分布の
Bjorken-x 関数形を含めて理論の枠組みを新たに開発した。中規模の原子核に対して、原
子核補正は 10-20%であるため、すでに求められていた核子パートン分布関数を基準に取
、それからの原子核補正関数を最適化する方法を採用した。原子核補正は x に依存し
小さい x 領域では負の影散乱補正、x = 0.1 付近では正の反影散乱、0.3 < x < 0.7 では負
の核子束縛効果、x > 0.7 では正の核子の Fermi 運動効果が存在することが分かっている。
それらの原子核効果を近似する関数としてx 3 次関数 1/(1 x) を使用した。原子核
質量 A 依存性は次様に考えた。原子核の断面積は一般的 A に比例する体積効果と
A
2/3
で与えられる表面効果で表すことができる (σ
A
=
V
+ A
2/3
σ
S
)これを1核子あた
りの断面積にすれば (σ
A
/A = σ
V
+ σ
S
/A
1/3
) となり1/A
1/3
依存性が予想され、我々はこ
A 依存性を用いた。これらの x A 関数形を用いて、Q
2
= 1 GeV
2
における分布を
パラメータを用いて表現し、原子核標的を用いた深非弾性散乱の実験データを χ
2
解析す
ることにより、それらのパラメータの値を決定した。その結果、中 x 領域の価クォーク
分布と小さい x 領域の反クォーク分布を決定することはできるが、その他の領域のクォー
・反クォーク分布の決定は非常に難しいことが判明したまた、原子核内のグルーオン
分布を決定ることは困難であた。得られた最適分を他の研究者に利用できように、
我々の数値解析プログラムを web 上で公開した。
16
33. 偏極陽子・重陽子 Drell-Yan 過程と偏極パートン分布
高エネルギー偏極陽子陽子反応の理論的定式化は詳しく研究されておりRHIC-Spin
ロジェクトを行う基礎となっている。しかし、スピン1粒子が関与するハドロン反応は偏
極パートン分布との関連で全く研究されていなかた。1999 年当時RHIC-Spin の次期計
画として偏極重陽子の加速が検討されていたが、新たにどの様な観測量が可能か明ら
ではなかた。そこでは偏極陽重陽子 Drell-Yan 過程の理論定式化を行い、
ピン1重陽子の偏極構造関数を Drell-Yan 過程で測定する研究をした [48,49,50]エルミー
ト性、パリティ保存、時間反転不変性の条件を課した場合、偏極陽子・重陽子 Drell-Yan
過程において、108 個の構造関数が存在することを示した [50]。もちろん、これら全ての
構造関数が重要ではない。そこで、レプトン対の横方向運動量で断面積を積分すること
より 108 の内 22 個が有限な量として観測できることを示した。陽子陽子反応の場合
11 個が存在するため、新しい 11 個の構造関数が関与することが判明した。我々の研究
で、これらの構造関数は全て重陽子のテンソル構造に関係しており四重極子偏極の反
により観測できることが示された。また、パートン模型の解析により [49]、これらの内の
ツイスト2の部分が、スピン1粒子に特有な構造関 b
1
に関係していることが分かった。
この偏極陽子・重陽子 Drell-Yan 過程は、特に海クォークの偏極分布を特定するために有
効である [48]2020 年代半ばには、JLab b
1
の実験が開始されるが、ハドロン加速器施
設における偏極陽子・重陽子 Drell-Yan 過程は、異な x Q
2
の領域で特に反クォー
を特定できる違いがあJLab 実験と相補的である。結局、偏極重陽子加速計画 RHIC
では実現しなたが、2020 年時点で、偏極重陽子を固定標的として用いた陽重陽子
Drell-Yan 実験の実現に向けて、Fermilab-E1039 ロジェクトが進んでいる。また、我々
の定式化は GSI-FAIR NICA などの他の実験施設、さらに将来 EIC 計画で用いること
ができる。
34. 最適偏極パートン分布
トンにつCTEQ (Coordinated Theoretical-Experimental
Project on QCD) などの理論グループが究を進め2000 年時点である程度確立した分
関数存在た。しかし極パートン分布関数の析にいて進んでいなため
当時の実験果を説明する核子の偏極パートン分を求める研究を行 [42,47]EMC
によ g
1
の測定以来、偏極構造関数が重要な課題として研されてきたがグルーオン
各々の海クークがどの様に核子のスピンに寄与しているかは判明していなかた。そこ
で、高エネルギースピン物理に興味を持つ理論研究者と実験研究者が集まりAsymmetry
Analysis Collaboration (AAC) して極パン分に関る共研究めた [47]
この研究的は、陽子・重子・
3
He g
1
に関する験結果を析し、最適極パート
ン分布を提案することであるQ
2
= 1 GeV
2
において、偏極パートン分布を多数のパラ
メータで表現しておき、その分布を用いてスピン非対称性 A
1
を計算し、χ
2
を最小にす
ようにパラメータの値を決定した。この様にして最適偏極パートン分布を求めることによ
、グルーオン偏極は大きい正の値であり海クォークの偏極は小さい負の値であること
が示された。この解析によれば、陽子スピンのかなりの部分がグルーオンの偏極による
のであった。次に、上記の偏極パートン分布に対する誤差解析を Hessian 法を用いて行っ
[42]偏極深非弾性散乱の実験データを χ
2
解析して誤差行列を得ることによりパート
ン分布の誤差を評価した。その結果、偏極価クォーク分布は正確に決定できるが、偏極グ
ルーオン分布に対する誤差が非常に大きいことを示した。従ってg = 0 さえも可能で
あることが分かったこの様に、レプトン散乱の実験結果のみではグルーオン偏極につ
て断言できず実験的には例えば RHIC における偏極ハドロン散乱の結果に頼らなけれ
ならない。我々は得られた分布関数を AAC ードとして公開したが、これは世界の標
模型の一つとして用いられた。
17
35. 構造関数 h
1
の異常次元と Q
2
発展
横偏極構造関 h
1
RHIC-Spin などで研究が行われる。この構造関数 h
1
Q
2
変化は
1996 年時点 QCD の摂最低次項のみ知られていた。構造関数の Q
2
発展は、的に
摂動 2 次項を含む形で行われるためはこの摂動 2 次項 h
1
に対して求めた。つま
摂動論的 QCD を用いて、横偏極構造関数 h
1
の摂動 2 次項の Q
2
発展を決定する 2 ループ
異常次元を計算し、その結果を用いて h
1
Q
2
発展を研究した [54]。まh
1
を摂動論的
QCD で扱うためには演算子を導入する必要がありそれは O
νµ
1
···µ
n
= S
n
ψ i γ
5
σ
νµ
1
iD
µ
2
·
· · iD
µ
n
ψ trace terms , n = 1, 2, ... 。裸
O
n
R
との関係、くりこみ Z
O
を用いて O
n
B
= Z
O
n
O
n
R
で与えらる。異常次
γ
O
n
= µ (ln Z
O
n
)/∂µ により計算され、次元正則化の方法では、くりこみ定数 1 特異
性の部分から異常次元が得られる。h
1
は奇カイラル性という性質のためグルーオンは直
接異常次元に寄与しない。そこで我々は、寄与する2ループ Feynman 図を全て書き出
し、Feynman ゲージと minimal subtraction (MS) スキームを採用して異常次元の計算を
した。この研究によりh
1
についても摂動第二次項を含んだ解析が可能となた。この研
究で求められた異常次元を逆 Mellin 変換することによAltarelli-Parisi 型の微積分方
式で h
1
Q
2
発展を記述できる。この横偏極に関する発展方程式の数値解を求め [51]、縦
偏極 Q
2
発展 [52] と比較することにより両者の Q
2
発展は異ることが数値的に示され
た。例えばフレーバー一重項のパートン分布に関しては Q
2
を大きくした場合、横偏極分
布の Q
2
変化は縦偏極分布の変化よりも非常に小さい結果を得た。また摂動論 QCD
フレーバー非対称性分布
T
¯u
T
¯
d への寄与を Q
2
発展方程式を用いて計算することによ
、縦偏極の場合と比較して、その寄与が大きい x 領域に偏っていることが判明した。
れらの結果を利用して、RHIC-Spin で研究される様々なスピン非対称性を予測した。
36. パートン模型による原子核構造関数 F
A
2
の記述
関数 F
2
子核補正 EMC (European Muon Collaboration) と呼ばれBjorken-
x の領域により、異なるメカニズムが補正効果に関与する。小さい x から大きい x まで
パートン模型による統一的理解を目指して、原子核構造関数 F
A
2
とパートン分布関数を
究した [60,61,62]この模型として、パートン再結合の効果を入れた Q
2
再スケーリング
型を用いた原子核内の平均核子間距離 2.2 fm は、核子直径とほぼ同じであるこれは
原子核内において核子同士は接近しており2 つの核子が融合した状態も存在し得ること
からの平均閉込め半径子半径となりこれが F
A
2
のスケー変化とし
現れると考える模型である。また、小さい x 領域においては、パートンの閉じ込め半径が
平均子間距離よりも大きく異なる核子に属するパトンが相互作用する。これが
パートン再結合効果である。これらメカニズムを含む理論模型を設定した。まず、構造関
F
2
(x) をパートン模型で 10
3
< x < 0.9 領域において計算しSLACEMCNMC
及び E665 の実験結果と比較検討した [60,61]。この模型では、小さい x(0.005 < x < 0.1)
及びきい x(> 0.7) はパトン結合効果、中間の x Q
2
再スーリ
型で実験結果は説明された。しかし、非常に小さい x(< 0.01) 領域での理論結果は、解
に用いる核子内のグルーオン分布に大きく依存することが判明した。このパートン模型を
核内グルオン布に用し結果 [62]、小さ x (x < 0.02) はパトン
合の効果によりグルーオン分布は大きく減少し、中 x 領域 (0.2 < x < 0.6) おいて
G
A
(x)/G
N
(x) 0.9 となった。この理論結果を1992 年に発表され NMC の実験結果
G
Sn
(x)/G
C
(x) 比較したが、その実精度は良くな、詳しい検は不可能であった
核内のグルーオン分布の測定については将来の実験に期待した。本研究により原子核構
造関数の大局的性質は、このパートン模型により理解できた。
18
37. パートン模型による原子核パートン分布関数
上述のパートン再結合の効果を入れた Q
2
再スケーリング模型を用いて、原子核パートン
分布関数の新たな現象を予測した。まず、原子核内の ¯u
¯
d 分布を研究した結果 [59]、核
子内で仮にフレーバー対称な分布 (¯u
¯
d = 0) であっても、核子間相互作用のため原子核
内で有限な分 (¯u
¯
d ̸= 0) になることが判明した。従って、現存するタングステン標的
を用い Drell-Yan の実験結果と NMC の結果を直接比較することには注意が必要である。
Fermilab において、重陽子や他の原子核を標的とし Drell-Yan 実験が 2020 代初め
行われるため、原子核内の ¯u
¯
d 分布の研究は興味ある課題である。次に、我々のパート
ン模型を用いて、小さ x 領域での原子核内価クォーク分布を研究した [57]。この研究の
目的は、原子核の影散乱を説明する二つの代表的な模型であるパートン再結合とベクトル
中間子支配 (VMD: Vector Meson Dominance) 模型を判別することである。我々の解析に
より、再結合模型では価クォーク分布の原子核補正は小さい x で増加することが判明し
VMD 模型と反対の結果となった。この差異はニュートリノ実験で検証することができる
が、電子散乱における π 中間子生成の実験でも確かめることができると考えられる。第 3
に、我々が開発した Q
2
発展の数値解法を用いて Q
2
発展の原子核依存性を研究し、NMC
[F
Sn
2
/F
C
2
]/∂ ln Q
2
の実験結果と比較した [55]。その結果、現在得られている原子核
のパートン分布と DGLAP 方程式によりこの原子核依存性が部分的に説明できること
示した。しかしパートン再結合の効果を含んだ Q
2
発展方程式で計算を行った場合には実
験値と異なり、高次ツイストに関する詳細な検討が必要であることを示唆した。最後に
重イオン核反応におけ J/ψ 抑制に与える効果を調べた。J/ψ 抑制は、クォークとグルー
オンの原子核補正が同じであることを仮定して議論されていたが、原子核中心付近と周辺
付近で 2 種類のパートンの原子核補正が大きく異なる場合には原子核補正効果を正確に
取り入れる必要がある。我々はこの原子核効果を調べた結果、グルーオンの EMC 効果が
510%程度の抑制に寄与することを示した。
38. ϕ 中間子輻射崩壊を用いたスカラー中間子構造の研究
Gell-Mann Zweig のクォーク模型によれば、中間子は q¯q、バリオンは qqq のクォーク
成を持つこれに当てはまらない組成を持つものはエキゾチクハドロンと呼ばれ、長年
研究が行われてきた。の中でもスカラー中間 f
0
(975) a
0
(980) は、軽い u, d
クの q¯q 組成仮定した模型では、強い相互作用による崩壊現象を説明することができない
ことが知られておりこれらは、s¯sK
¯
K 分子、テトラクォーク (qq ¯q¯q)、あるいはグルー
ボール (gg) の構造を持つのではないかと考えられていた。1993 年当時CP 対称性の研
を進める加速器施設としてϕ 中間子研究施設が Frascati KEK において検討されてい
た。本研究では、ϕ 中間子研究施設において、スカラー中間子 S [f
0
(975),a
0
(980)] の構
ϕ Sγ の遷移率測定から決定する研究をし [63]ϕ Sγ は電気双極子遷移である。
電気双極子演算子は空間距離に比例しているため、ϕ Sγ の遷移率は S の内部構造に大
きく依存する。実際理論計算を行った結果、もし S K
¯
K の束縛状態の場合には、この
崩壊幅がかなり大きくなることが判明し [BR(4 × 10
5
)]。これは、K
¯
K がゆるい束縛状
態であるた K
¯
K 間の平均距離が大きく従っ ϕ Sγ の電気双極子遷移率が大きくな
るからである。またS q¯q あるいはグルーボールの場合には崩壊幅はこれより大幅に
さくなる [BR(10
5
10
6
)]この様にして、ϕ 中間子研究施設において S 中間子構造の
究ができることを示した。さらに、ϕ Sγ K
0
¯
K
0
γ の過程が、ϕ 中間子研究施設にお
いて CP 保存の破れを測定する上で重要なバックグランドになる可能性があったが、我々
の研究で、その過程は CP 保存の破れの実験に大きな影響を及ぼさないことが判明した。
その後、この輻射崩壊幅が実験的に測定され、これらの中間子がテトラクォークあるい
K
¯
K 分子の構造を持つことが示された。
19
39. 構造関数の Q
2
発展方程式の数値解
構造関数 Q
2
発展を記述する微積分方程式である DGLAP 方程式は、QCD の摂動高次
を含む場合には複雑な分岐関数で与えられており、容易に解くことはできない。そこで
構造関数 Q
2
発展方程式の数値解を、Laguerre 多項式を用いた方法 [58,64] Euler の方
[51,52,56] で求めた。まず、パ一トン分布と分岐関数を、Laguerre 多項式で展開して微
積分方程式の数値解を求めた。その結果、10 程度の多項式を取れば、0.05 < x < 0.5 の領
域で精度良く数値解が得られたしかも計算に要する時間は 1994 年当時 SUN-IPX で数
秒程とかなり実用的でた。小さ x例え x=0.01 ではフレーバー非重項の構造関
数の場合やや度が落ち 20 の多項式を取 10 %程度であ大き xx >0.8
おいても精度は良くないが、構造関数自体非常に小さいので実用上問題はない。従って
小さい x と大きい x 領域においてやや精度が落ちるがは、通常用いられ x 領域におい
は、この Laguerre 多項式の方法は効果的で精度良い方法として使用できる。Euler の方法
は、単純に x Q
2
を小さい区間に分割して微分と積分を行う方法であるが、この方法は
上述の小さい x 領域における難点を補うことができる。数値解析の結果x l000 区間に
Q
2
200 間に分割して微積分をすれば、0.0001 < x < 0.8 の範囲内におい 2 %以上
の精度で解が求められることが分かた。次に、この数値解法を用いて縦偏極パートン分
布の Q
2
発展を研究した [52]偏極構造関数 g
1
とスピン非対称 A
1
Q
2
依存性を摂動
最低次項のみと摂動第二次項を含む発展方程式で解析して、摂動第二次項の効果を明らか
にした。特に、多くの実験解析で非対称性 A
1
Q
2
依存性を無視して g
1
が求められてい
たが、我々の理論研究では、小さい Q
2
領域 (Q
2
< 2 GeV
2
) A
1
に顕著な Q
2
依存性が存
在することが確認された。この研究により、正確に g
1
を求めるには、スピン非対称性 A
1
Q
2
依存性を考慮に入れて解析をしなければいけないことが判明した。さらに、横偏極
パートン分布の Q
2
発展についても研究した [51]。これらの研究で得られたコードを、他
の研究者が利用できる様に web 上に公開した。
40. 反クォーク分布のフレーバー非対称性 ¯u
¯
d, (¯u +
¯
d)/2 ¯s
反クォーク分布関数は、グルーオンからの摂動論的分岐過程 g q¯q で主に生成されてい
ると考えられ、軽い反クォークの分布は同じであると仮定されていた。しかし、ストレン
ジクォーク分布が ¯u,
¯
d の半分程度である [(¯u +
¯
d)/2 ¯s] ことはニュートリノ反応にお
µ
+
µ
生成現象から示唆され、NMC (New Muon Collaboration) による Gottfried 総和
則の破れの発見か ¯u ̸=
¯
d についても明らかになった。QCD の摂動効果によって生じる
フレーバー非対称反ーク分布は摂動2次項に起因するため、その効果は Q
2
4 GeV
2
の領域においては実験結果よりはるかに小さい。従って、それらのフレーバー非対称分
は核子の非摂動メカニズムに原因があると考えられる。そこで、非摂動効果として、中間
子雲が及ぼす核子の反クォーク分布への影響について調べた。まずSU(3) フレーバー非
対称分布 (¯u +
¯
d)/2 ¯s を計算した。この模型には、パラメーターとして πNN 形状因子内
に運動量カットオフが存在するが、これを (¯u +
¯
d)/2 ¯s 実験値から決定し、単極形状
因子の場合は 0.7 GeV 程度であった。これは、1中間子交換ポテンシャルから予想される
1.4 GeV 程度の固 πNN の形状因子とは異なることを指摘した [68]このカットオ
ラメーターを (¯u +
¯
d)/2 ¯s で固定し、SU(2) フレーバー非対称分布 ¯u
¯
d を理論的に予測
した。1991 年、NMC によって ¯u 分布は
¯
d 分布と異なることが示唆されたが、我々の模型
計算で
dx(¯u
¯
d) = 0.06 が得られ、NMC の結果が π 中間子雲の寄与で説明されるこ
を指摘した [67,68]。次に、この NMC 実験とは別に、ニュートリノ散乱や Drell-Yan の実
験で ¯u(x)
¯
d(x) 測定することが可能であることを示した [53,59,65,66]。論文 [53]
フレーバー非対称分布に関する歴史的背景、摂動論的 QCD の寄与、様々な理論模型、過
去の実験結果、将来的な研究の可能性についてまとめた。
20
41. 構造関数 b
1
(x) の総和則
荷電ン深性散いて、ス 1/2 にはの構 F
1
, F
2
, g
1
,
g
2
が存在する。スピ 1 の重陽子に対しては、さらに4つの偏極構造関 b
14
が存在す
るこ 1989 年にされ。新た構造数の、ツイ 2 の構 b
1
b
2
はス
Callan-Gross 2xb
1
= b
2
b
3
b
4
は高次ツイスト構造関数であるため、我々は、まず構造関数 b
1
の総和則を導出
た。パティーと時不変立す、重陽子ピン 1 電磁
気モーメントで、スピ 1/2 の核子に存在しないものは電気四重極子モーメントである
従って、b
1
の総は電重極モートに連すと考、パート模型いて
総和を導b
1
の積値をトン布関表現、次に子・ハド弾性
乱のティー振電気状因気四形状表し、そらの
係式を求めた。これにより、反クォークが偏極していない場合には、総和則
dxb
1
(x) =
lim
t0
(5t/12) F
Q
(t) = 0 成立するこを示 [
69]こでF
Q
(t 0) はスピ 1 粒子
ーメントであまた反クークがテ
陽子 b
1
の総和則は
dx b
1
(x) = lim
t0
5
24
t F
Q
(t) +
i
e
2
i
dx δ
T
¯q
i
(x) であり [69]、これ
は同にパトン型を用いて得られる Gottfried 総和則と反クークレーバー非対称
補正 {
(dx/x) [F
p
2
(x) F
n
2
(x)] = (1/3) + (2/3)
dx [¯u(x)
¯
d(x)]} に類似する関係式であ
る。この総和則は HERMES により検討さ [A. Airapetian et al. PRL 95 (2005) 242001]
0.85
0.002
dx b
1
(x) =
1
2
[1.05 ± 0.34(stat) ± 0.35(sys)] × 10
2
が得られた。ここで 1/2 因子を入
れて総和を1核子あたりにした。これは、有限な反クォークテンソル分布を示唆し
来の重陽子模型では理解できないため原因究明が必要である。この状況はGottfried
和則の破れの発見が、反クォークのフレーバー依存性とその非摂動的メカニズムの研究分
野を創り出した状況に似ており、新しい分野の開拓が期待されるなお 2020 年代半ばに、
詳細な b
1
実験が JLab において行なわれる予定である。
42. 局所 EMC 効果
核子構造関数の原子核補正 European Muon Collab oration (EMC) よって発見され、
EMC 効果と呼ばれている。原子核構造関数は深非弾性レプトン散乱によって研究される
が、レプトンは原子核の構成粒子全てと反応するため、原子核全体の性質を反映する物
量であるしかしながら、原子核内の局所性、つまり原子核内のどの核子とレプトンが
応したかの情報を得ることは、原子核効果のメカニズムを調べるために、また応用上の
的から必要である。例えば、重イオン衝突における J/ψ 抑制は、クオーグルーオン
ラズマが生成された証拠である可能性があるが反応のイベントを全横方向エネルギー E
T
の大きさで中心と周辺の衝突に分離するため、局所 EMC 効果の把握が必要である。そこ
で、EMC 効果の局所性について理論的に研究し、実験面の検証を検討した [70]EMC
果は原子核結合模型Q
2
再スケーリング模型π 中間子模型などによって説明されてい
が、いずれも原子核内で平均された効果として研究されていた他方で、(e, e
p) 実験にお
いては、終状態の陽子が原子核内の 1s 1p 等のどの状態から放出されたかの情報を持っ
ており原子核の局所効果を知ることができる。同様に、実験過程を工夫すれば、局所的
EMC 効果について研究することができる。局 EMC 果を原子核結合模型 Q
2
スケーリング模型を用いて理論的に調べた。原子核とし
19
F を考え、理論模型として密
度依存 Hartree-Fock 法を用いた。EMC 効果は、特に系の束縛エネルギーと半径に依存す
るため、それら方の実験値を説明きる理論模型とし密度依存 Hartree-Fock 法を
用し、核子の準位 1s, 1p, 1d の波動関数を用いて局 EMC 効果を計算した。その結果、
EMC 原子核の心部において大き面部においては小さいとが判明した [70]
1990 年時点で、この現象に関連した実験として、Fermilab-E745 BEBC (Big European
Bubble Chamber) の泡箱を使用した実験結果があったが局所 EMC 効果を顕著に示して
いるとは言い難い。従って局所 EMC 効果の実験的検証については将来に期待した。
21
43. 原子核周辺の偏極した真空の励起状態
1988 年当時、ドイツ GSI ウラン・ウラン衝突実験で観測された陽電子のピークが説明
できない問題があった。我々は、量子電気力学 (QED) を用いてこの問題を研究した。こ
の重イオン衝突ではウランの原子番号が 92 であるため、184 の総電荷が存在する。QED
の微細構造定数 α( 1/137) は小さいため、QED の理論計算では通常、摂動論の手法が用
いられるしかし、今回の重イオン衝突では電荷 184 1 よりも大きいため摂動論
用いることができない。そこで、1+1 次元の QED 問題をボゾン化することによりQED
の非摂動問題を取り扱った。ここで、1+1 次元とは時間と空間動径座標 (r) を意味する。
理論的に取りうことができ様に問題を簡略化、大きい原子番 (Z180) 有す
仮想 原子りの極し真空起状を調 [77]1+1 元のの理
おいては、フェルミオンはボゾン場によって記述できることが知られている。これを利用
して、1+1 次元の QED Hamiltonian をボゾン化した。この 原子核回りの電子雲の空
間分布をボゾン場で表し、基底状態からの励起を考えた。その結果、電子雲の振動が、2
つの独立した微分方程式で記述できることが分かった。これらの微分方程式を解くこと
より原子核 回りの偏極した真空には少なくとも二つの安定な励起状態があること
を示した。この 子核半径をパラメーターとて決定し、これらの励起エネルギ
1.8 MeV 1.5 MeV となったこれらは GSI で測定された陽電子のエネルギーにほぼ対
応しておりQED の集団励起状態によって実験が説明できる可能性を示唆した。その後、
GSI の実験については再検討がなされ、常な陽電子ピークはなくなしかしなら、
我々の QED の非摂動理論は、仮想的な球対称で原子番 180 を持つ原子核を仮定してい
るものの、適切に QED を非摂動的に解いたものであり、その励起状態が存在することに
変わりはない。なお、論文 [77] の査読者から、この研究は “ingenious”との評価を受けた。
将来、この様な QED の非摂動的集団励起状態が実験で発見されることを期待する。
44. N-∆ 遷移四重極子モーメント
原子は、パーキ巻の変形もの在し、実的に気四
モーメントとして観測される。例えば、重陽子には電気四重極子モーメント 0.29 fm
2
があ
小さいながら葉巻型の変形を持つこの変形は、核力のテンソル力に起因しているこ
とが知られており、原子核の形状を調べることは、核子相互作用と多体系の性質を知るた
めの有効な手段であるそれに対して、ハドロンの形状に関しては1988 年当時、未知の
課題であった。クォーク間のグルーオン交換力においてもテンソル力が存在し、π 中間子
雲についても核子スピンとの相関があることから、核子も変形していると考えられる
かし、スピ 1/2 核子には、観測量としての電気四重極子モーメントが存在しないため
スピン 3/2 粒子を用いることを考えた。他方で、 寿命は非常に短いため安定な
標的として用いることはできないそこでN-∆ 遷移四重極子モーメントに関して研究し
た。課題 47 に述べ 電磁気モーメントの研究にて、πN πNγ における光子のエ
ネルギー (k <120 MeV) 四重極子モーメントの測定には不十分であることが分かった。
これに対してN-∆ 遷移の運動量移行は 400 MeV 程度であり、四重極子モーメントのよ
うな微細な量も測定できる可能性がある。イリノイ大学では原子核実験グループの Bates
研究所にお N(e, e
γ) N(e, e
π) の実験提案に参加し、N(e, e
γ) 反応おけ N-∆
移四重極子モーメントの役割を理論的に示した [72] の静止系において、もし有限な四
重極子モーメントがあれ N(e, e
γ) の断面積は双極子放射の形状から変化することを指
摘し、また電子の散乱面以外の光子放射過程でも四重極子モーメントが測定できる可能性
を示した。他方で、π 中間子雲 N-∆ 遷移四重極子モーメントヘの貢献が計算でき [74]
Q(N ∆)=+0.02i0.09 fm
2
が得られた。この値は、クォーク間のテンソル力で計算さ
れるより大きく実験で測定される四重極子モーメントは単純にクォーク間のテンソル
で与えられる量とはならない。
22
45. フラックス · チューブ模型によるハドロンの崩壊現象
ハドロンの崩壊現象を調べることは、ハドロンの内部構造を探る有効な手段である。光子
輻射崩壊過程は、クォーク模型を用いて比較的容易に記述できる。しかし、1987 年当時、
強い相互作用による崩壊現象の理論的記述には適切なものがなかった。そこで、ハドロン
分光において成功し、格子 QCD から得られる長距離力と一致するフラックス・チューブ
模型を用いてハドロンの強い崩壊現象を研究した [71,75]格子 QCD およ Regge 軌跡
から、クォーク・反クォーク間に距離に比例する線形ポテンシャルが得られる。これは
クォーク・反クォーク間のカラー電場が、3 次元空間に広がらず、クォークと反クォーク
を結ぶ直線方向のみに広がる一次元的に絞られた状態にあることを示唆するこの一次元
的なカラー電束を、カラー・フラックスチューブと呼ぶ。ま、中間子崩壊の現象を調べ
[75]。この研究は、ハドロンの崩壊現象をフラックス・チューブ模型により説明し、原
子核現象に重要な核子 の構造の記述を目的としたものである。1次元カラー電場中の
q¯q 生成は、
3
S
1
の状態にあるが、もし仮に,フラックスチューブあるいはハドロン弦の状
態が完全に一次元的なものではない場合横方向の角度平均を取れ
3
P
0
の状態で q¯q が生
成される。そこで、q¯q 対が中間子の色電場の中に
3
S
1
あるいは
3
P
0
の状態で生成されると
して、ρ 2πb
1
πω などの崩壊を研究し、これらの崩壊幅が終状態の相互作用や π
中間子の大きさにどのように依存するかを調べた。その結果、
3
S
1
3
P
0
の両方の模型
て、これらの崩壊輻が説明可能であることが分かた。この q¯q 生成機構を利用して
子内のフラックスチューブを分裂させることができ、この模型でバリオンの崩壊現象を
述した。この崩壊過程を、核子と中間子の結合に使用することにより2つの核子間の長
距離相互作用が記述できる。つまり、湯川相互作用である中間子交換は,カラーフラッ
クスチューブの一部が取れてそれが他方のバリオンに結合することによって起こると
釈できる [71]
46. y スケーリングと原子核現象におけるクォークの効果
原子の強相互作用部分の基本相作用量子力学 (QCD) であ原子核は
QCD によりクォーク・グルーオンの自由度により記述されるべきである。特に、原子核
内の核子間距離は核子の直径とほぼ同程度であり通常の原子核においてすでに核子の
なりはあるものと思われるが、原子核現象における明らかなクォークの効果は認められて
いない。つまり、原子核現象にはクォークの効果があるはずであるが、原子核の構造と反
応には、あらわにクォークの効果を入れる必要はなく原子核は有効自由度である核子
中間子で記述される。この疑問に答えるために単純なクォーク模型とその有効模型を
いて原子核の観測量を計算し、2つの結果を比較することにより、クォークの効果が現れ
るかどうかを理論的に調べた [76]。具体的には、調和振動子ポテンシャルに束縛された二
つのハドロンの応答関数を、クォーク模型とハドロン模型の両方で計算し比較検討した
ォーク模型とし Lenz らの提案した模型を用い、の模から導かれる断熟ポテンシャ
ルをハドロン模型におけるハドロン間の相互作用として採用した。これらの模型で計算さ
れる 原子核 の形状因子と応答関数を比較することにより、二つの差異は非常に小さい
ことがわかった。従って、従来のハドロンによる原子核の記述は正確であり原子核現象
におけるクォークの効果を発見することは困難であることが示唆された。y スケーリング
とは、電子原子核散乱の縦方向応答関数が核子の縦方向運動 y = ˆq · p のみの運動
分布で表されることを言う本研究結果によれば、ォーク模型とハドロン模型による縦
方向応答関数の差異は小さくy スケーリングによって核子の運動量分布がより良い精度
で測定できるものと思われる。また、ハドロンの大きさを原子核内で変化させるという
純な模型では、クォークの運動量分布を説明できても形状因子や応答関数などの他の現象
は説明できないことが判明した。
23
47. の電磁気モーメント
ハドロン電磁気モーメントの研究は、ハドロンの内部構造を探るための有効な手段である
特に、バリオンの磁気双極子モーメントはクォーク模型の検証に非常に重要な役割を果
したバリオン八重項以外の極子ーメトについては、あまりられていな
たとえば、 の寿命は約 10
22
秒であり、通常の測定方法を用いることはできない。そこ
で、 π 間子核子の制動輻射いて の電メントを定する可
研究した [73,78]1980 年代にはーク間のグルーオン交換による相互作用にはテン
ル力があるた が変形することが予想されており の電気四重極子モーメントにも関
心が高ていた。まず我々がアイソバー模型を用いて π 中間子雲の 電磁気モーメン
トへの貢献を調べてみたところ、µ(∆
++
) = 0.4 + i 0.6 µ
p
Q(∆
++
) = +0.2 + i 0.05 fm
2
の結を得SU(6) よる測値 µ(∆
++
) = 2 µ
p
と比すれπ 間子の磁
気双極子モーメントへの貢献は 25 %程度であるが、電気四重極子モーメントへの貢献は
クォーク間のテンソル力で予想されるよりもかなり大きい値となった。 の質量に対する
π 中間子雲の効果は、実数部分が質量の変化、虚数部分が崩壊幅であることが知られてお
、本研究で、 の電磁気モーメントに対しても虚数部分があることを示した。非偏極 π
中間子核子制動輻射の断面積が、 の磁気双極子モーメントと電気四重極子モーメン
にどの様に依存するかを示した。しかし、非偏極断面積から正確に磁気モーメントを決
することは困難であった。そこで我々は、この制動輻射過程において標的の陽子を偏極
ることによ双極子モーメントの高精度測定が可能となることを指摘した。この理論予
想は 1990 年に発表され Paul Scherrer 研究所の実験により確認され
++
の磁気双極
モーメントは 1.62 µ
p
となった [A. Bosshard et al., PRL 64 (1990) 2619]。しかし、電気
重極子モーメントの散乱断面積への影響は非常に小さこれを測定することは制動輻射
過程では困難であることが判明した。
24
研究業績リスト
1. Equation-of-motion and Lorentz-invariance relations for tensor-polarized parton
distribution functions of spin-1 hadrons,
S. Kumano, Qin-Tao Song,
Phys. Lett. B 826 (2022) 136908, 1-5.
2. 日本の核物理の将来レポート, 2021 年版,
永江知文 他、熊野俊三 7 章「核子構造の物理」担当,
原子核研究 66 Supplement 2 (2021) 1-316.
3. Twist-2 relation and sum rule for tensor-polarized parton distribution functions
of spin-1 hadrons,
S. Kumano, Qin-Tao Song,
J. High Energy Phys. 09 (2021) 141, 1-22.
4. Science Requirements and Detector Concepts for the Electron-Ion Collider:
EIC Yellow Report, R. Abdul Khalek et al. (S. Kumano 150th author;
Sec. 7.5.2, Neutrino physics by S. Kumano and R. Petti),
arXiv:2103.05419.
5. On the physics potential to study the gluon content of proton and deuteron
at NICA SPD,
A. Arbuzov, A. Bacchetta, M. Butenschoen, F.G. Celiberto, U. D’Alesio, M. Deka, I.
Denisenko, M. G. Echevarria, A. Efremov, N. Ya. Ivanov, A. Guskov, A. Karpishkov, Ya.
Klopot, B. A. Kniehl, A. Kotzinian, S. Kumano, J.P. Lansberg, Keh-Fei Liu, F. Murgia,
M. Nefedov, B. Parsamyan, C. Pisano, M. Radici, A. Rymbekova, V. Saleev, A. Shipilova,
Qin-Tao Song, O. Teryaev,
Prog. Nucl. Part. Phys. 119 (2021) 103858, 1-43. (arXiv:2011.15005)
6. Transverse-momentum-dependent parton distribution functions up to twist 4
for spin-1 hadrons,
S. Kumano, Qin-Tao Song,
Phys. Rev. D 103 (2021) 014025, 1-18.
7. Deuteron polarizations in proton-deuteron Drell-Yan process for finding gluon transversity,
S. Kumano, Qin-Tao Song,
Phys. Rev. D 101 (2020) 094013, 1-8.
8. Gluon transversity in polarized proton-deuteron Drell-Yan process,
S. Kumano, Qin-Tao Song,
Phys. Rev. D 101 (2020) 054011, 1-22.
9. ハドロンの重力形状因子
熊野俊三
原子核研究 64 1 (2019) 76-89.
10. Hadron tomography by generalized distribution amplitudes in pion-pair production process
γ
γ π
0
π
0
and gravitational form factors for pion,
S. Kumano, Qin-Tao Song, O. V. Teryaev,
Phys. Rev. D 97 (2018) 014020, 1-28.
11. Tensor-polarized structure function b
1
in standard convolution description of deuteron,
W. Cosyn, Yu-Bing Dong, S. Kumano, M. Sargsian,
Phys. Rev. D 95 (2017) 074036, 1-13.
25
12. Towards a unified model of neutrino-nucleus reactions for neutrino oscillation experiments,
S. X. Nakamura, H. Kamano, Y. Hayato, M. Hirai, W. Horiuchi, S. Kumano, T. Murata,
K. Saito, M. Sakuda, T. Sato, Y. Suzuki,
Rept. Prog. Phys. 80 (2017) 056301, 1-38.
13. First Monte Carlo analysis of fragmentation functions from single-inclusive
e
+
e
annihilation,
N. Sato, J. J. Ethier, W. Melnitchouk, M. Hirai, S. Kumano, A. Accardi,
Phys. Rev. D 94 (2016) 114004, 1-21.
14. Impacts of B-factory measurements on determination of fragmentation functions
from electron-positron annihilation data,
M. Hirai, H. Kawamura, S. Kumano, K. Saito,
PTEP 2016 (2016) 113B04, 1-19.
15. Theoretical estimate on tensor-polarization asymmetry in proton-deuteron
Drell-Yan process,
S. Kumano, Qin-Tao Song,
Phys. Rev. D 94 (2016) 054022, 1-10.
16. Accessing proton generalized parton distributions and pion distribution amplitudes
with the exclusive pion-induced Drell-Yan process at J-PARC,
T. Sawada, Wen-Chen Chang, S. Kumano, Jen-Chieh Peng, S. Sawada, K. Tanaka,
Phys. Rev. D 93 (2016) 114034, 1-17.
17. Constituent-counting rule in photoproduction of hyperon resonances,
Wen-Chen Chang, S. Kumano, T. Sekihara,
Phys. Rev. D 93 (2016) 034006, 1-7.
18. Constraint on K
¯
K compositeness of the a
0
(980) and f
0
(980) resonances
from their mixing intensity,
T. Sekihara, S. Kumano,
Phys. Rev. D 92 (2015) 034010, 1-15.
19. The Physics of the B Factories,
A. J. Bevan et al. (S. Kumano 47th author),
Eur. Phys. J. C 74 (2014) 3026, 1-928.
20. Tomography of exotic hadrons in high-energy exclusive processes,
H. Kawamura, S. Kumano,
Phys. Rev. D 89 (2014) 054007, 1-13.
21. Determination of compositeness of the Λ(1405) resonance from its radiative decay,
T. Sekihara, S. Kumano,
Phys. Rev. C 89 (2014) 025202, 1-12.
22. 日本の核物理の将来レポート
青井孝 他、熊野俊三 2.6 節「核子構造」担当
原子核研究 57 Supplement 2 (2013) 1-312.
23. Determination of exotic hadron structure by constituent-counting rule
for hard exclusive processes,
H. Kawamura, S. Kumano, T. Sekihara,
Phys. Rev. D 88 (2013) 034010, 1-12.
26
24. Numerical solution of Q
2
evolution equations for fragmentation functions,
M. Hirai, S. Kumano,
Comput. Phys. Commun. 183 (2012) 1002-1013.
25. Test of CDF dijet anomaly within the standard model,
H. Kawamura, S. Kumano, Y. Kurihara,
Phys. Rev. D 84 (2011) 114003, 1-11.
26. Strong three-body decays of Λ
c
(2940)
+
,
Yubing Dong, A. Faessler, T. Gutsche, S. Kumano, V. E. Lyubovitskij,
Phys. Rev. D 83 (2011) 094005, 1-6.
27. Clustering aspects in nuclear structure functions,
M. Hirai, S. Kumano, K. Saito, T. Watanabe,
Phys. Rev. C 83 (2011) 035202, 1-10.
28. Radiative decay of Λ
c
(2940)
+
in a hadronic molecule picture,
Yubing Dong, A. Faessler, T. Gutsche, S. Kumano, V. E. Lyubovitskij,
Phys. Rev. D 82 (2010) 034035, 1-6.
29. Tensor-polarized quark and antiquark distribution functions in a spin-one hadron,
S. Kumano,
Phys. Rev. D 82 (2010) 017501, 1-4.
30. Using branching pro cesses in nuclei to reveal dynamics of large-angle two-body scattering,
S. Kumano, M. Strikman,
Phys. Lett. B 683 (2010) 259-263.
31. Novel two-to-three hard hadronic processes and possible studies of
generalized parton distributions at hadron facilities,
S. Kumano, M. Strikman, K. Sudoh,
Phys. Rev. D 80 (2009) 074003, 1-19.
32. Determination of gluon polarization from deep inelastic scattering and collider data,
M. Hirai, S. Kumano,
Nucl. Phys. B 813 (2009) 106-122.
33. J-PARC における高エネルギーハドロン物理
熊野俊三
原子核研究、第 53 2 (2009) 74-84.
34. Projections of structure functions in a spin-one hadrons,
T.-Y. Kimura, S. Kumano,
Phys. Rev. D 78 (2008) 117505, 1-4.
35. Proposal for exotic-hadron search by fragmentation functions,
M. Hirai, S. Kumano, M. Oka, K. Sudoh,
Phys. Rev. D 77 (2008) 017504, 1-4.
36. Determination of nuclear parton distribution functions and their uncertainties
in next-to-leading order,
M. Hirai, S. Kumano, T.-H. Nagai,
Phys. Rev. C 76 (2007) 065207, 1-16.
37. Determination of fragmentation functions and their uncertainties,
M. Hirai, S. Kumano, T.-H. Nagai, K. Sudoh,
Phys. Rev. D 75 (2007) 094009, 1-17.
27
38. Determination of polarized parton distribution functions with recent data
on polarization asymmetries,
M. Hirai, S. Kumano, N. Saito,
Phys. Rev. D 74 (2006) 014015, 1-11.
39. Nuclear modification difference between u
v
and d
v
distributions
and its relation to NuTeV sin
2
θ
W
anomaly,
M. Hirai, S. Kumano, T.-H. Nagai,
Phys. Rev. D 71 (2005) 113007, 1-6.
40. Comparison of numerical solutions for Q
2
evolution equations,
S. Kumano, T.-H. Nagai,
J. Comput. Phys. 201 (2004) 651-664.
41. Nuclear parton distribution functions and their uncertainties,
M. Hirai, S. Kumano, T.-H. Nagai,
Phys. Rev. C 70 (2004) 044905, 1-10.
42. Determination of polarized parton distribution functions and their uncertainties,
M. Hirai, S. Kumano, N. Saito,
Phys. Rev. D 69 (2004) 054021, 1-10.
43. Nuclear modification of transverse longitudinal structure function ratio,
M. Ericson, S. Kumano,
Phys. Rev. C 67 (2003) 022201, 1-4.
44. Modified Paschos-Wolfenstein relation and extraction of weak mixing angle sin
2
θ
W
,
S. Kumano,
Phys. Rev. D 66 (2002) 111301, 1-5.
45. Polarized light anti-quark distributions in a meson cloud model,
S. Kumano, M. Miyama,
Phys. Rev. D 65 (2002) 034012, 1-14.
46. Determination of nuclear parton distributions,
M. Hirai, S. Kumano, M. Miyama,
Phys. Rev. D 64 (2001) 034003, 1-15.
47. Polarized parton distribution functions in the nucleon,
Y. Goto, N. Hayashi, M. Hirai, H. Horikawa, S. Kumano, M. Miyama, T. Morii, N. Saito,
T.-A. Shibata, E. Taniguchi, T. Yamanishi (Asymmetry Analysis Collaboration),
Phys. Rev. D 62 (2000) 034017, 1-18.
48. Proton-deuteron asymmetry in Drell-Yan processes and polarized
light anti-quark distributions,
S. Kumano, M. Miyama,
Phys. Lett. B 479 (2000) 149-155.
49. Structure functions in the polarized Drell-Yan processes with spin 1/2 and spin 1 hadrons:
II. Parton model,
S. Hino, S. Kumano,
Phys. Rev. D 60 (1999) 054018, 1-12.
50. Structure functions in the polarized Drell-Yan processes with spin 1/2 and spin 1 hadrons:
I. General formalism,
S. Hino, S. Kumano,
Phys. Rev. D 59 (1999) 094026, 1-16.
28
51. Numerical solution of Q
2
evolution equation for the transversity distribution
T
q,
M. Hirai, S. Kumano, M. Miyama,
Comput. Phys. Commun. 111 (1998) 150-166.
52. Numerical solution of Q
2
evolution equations for polarized structure functions,
M. Hirai, S. Kumano, M. Miyama,
Comput. Phys. Commun. 108 (1998) 38-55.
53. Flavor asymmetry of anti-quark distributions in the nucleon,
S. Kumano,
Phys. Rept. 303 (1998) 183-257.
54. Two-lo op anomalous dimensions for the structure function h
1
,
S. Kumano, M. Miyama,
Phys. Rev. D 56 (1997) R2504-R2508.
55. Nuclear dependence of Q
2
evolution in the structure function F
2
,
S. Kumano, M. Miyama,
Phys. Lett. B 378 (1996) 267-271.
56. Numerical solution of Q
2
evolution equations in a brute force method,
M. Miyama, S. Kumano,
Comput. Phys. Commun. 94 (1996) 185-215.
57. Nuclear shadowing in the structure function F
3
(x),
R. Kobayashi, S. Kumano, M. Miyama,
Phys. Lett. B 354 (1995) 465-469.
58. FORTRAN program for a numerical solution of the nonsinglet Altarelli-Parisi equation,
R. Kobayashi, M. Konuma, S. Kumano,
Comput. Phys. Commun. 86 (1995) 264-278.
59. SU(2)-flavor-symmetry breaking in nuclear anti-quark distributions,
S. Kumano,
Phys. Lett. B 342 (1995) 339-344.
60. Nuclear shadowing in a parton recombination model: Q
2
variation,
S. Kumano,
Phys. Rev. C 50 (1994) 1247-1248.
61. Nuclear shadowing in a parton recombination model,
S. Kumano,
Phys. Rev. C 48 (1993) 2016-2028.
62. Nuclear gluon distributions in a parton model,
S. Kumano,
Phys. Lett. B 298 (1993) 171-175.
63. Scalar mesons in ϕ radiative decay: Their implications for spectroscopy
and for studies of CP violation at ϕ factories,
F. E. Close, N. Isgur, S. Kumano,
Nucl. Phys. B 389 (1993) 513-533.
64. A FORTRAN program for numerical solution of the Altarelli-Parisi equations
by the Laguerre method,
S. Kumano, J. T. Londergan,
Comput. Phys. Commun. 69 (1992) 373-396.
29
65. Isolating the flavor symmetry breaking component of the nucleon sea
from Drell-Yan asymmetries,
S. Kumano, J. T. Londergan,
Phys. Rev. D 46 (1992) 457-460.
66. Origin of SU(2) flavor symmetry breaking in anti-quark distributions,
S. Kumano, J. T. Londergan,
Phys. Rev. D 44 (1991) 717-724.
67. Effects of πNN form factor on pionic contributions to ¯u(x)
¯
d(x) distribution
in the nucleon,
S. Kumano,
Phys. Rev. D 43 (1991) 3067-3070.
68. πNN form factor for explaining sea quark distributions in the nucleon,
S. Kumano,
Phys. Rev. D 43 (1991) 59-63.
69. A sum rule for the spin dependent structure function b
1
(x) for spin one hadrons,
F. E. Close, S. Kumano,
Phys. Rev. D 42 (1990) 2377-2379.
70. Dependence of the EMC effect on nuclear structure,
S. Kumano, F. E. Close,
Phys. Rev. C 41 (1990) 1855-1858.
71. Nucleon structure with pion clouds in a flux-tube quark model,
S. Kumano,
Phys. Rev. D 41 (1990) 195-202.
72. N(e, e
γ) and the N-∆ transition quadrupole moment,
S. Kumano,
Nucl. Phys. A 495 (1989) 611-621.
73. Reply to: Comment on Pion nucleon bremsstrahlung and electromagnetic moments,
L. Heller, S. Kumano, J. C. Martinez, E. J. Moniz,
Phys. Rev. C 40 (1989) 2430.
74. Pionic contribution to the scalar and longitudinal N-∆ transition quadrupole form factors,
S. Kumano,
Phys. Lett. B 214 (1988) 132-138.
75. Decay of mesons in flux-tube quark model,
S. Kumano, V. R. Pandharipande,
Phys. Rev. D 38 (1988) 146-151.
76. y-scaling in a simple quark model,
S. Kumano, E. J. Moniz,
Phys. Rev. C 37 (1988) 2088-2097.
77. Oscillations of the polarized vacuum around a large Z ‘nucleus’,
A. Iwazaki, S. Kumano,
Phys. Lett. B 212 (1988) 99-104.
78. Pion-nucleon bremsstrahlung and electromagnetic moments,
L. Heller, S. Kumano, J. C. Martinez, E. J. Moniz,
Phys. Rev. C 35 (1987) 718-736.
30