図1の左に示すようにCeB6の結晶構造は、
Ce原子とボロン八面体(B6)に
よって構成されている。 この物質の温度を 3.2K (TQ; 約−270℃)以下にすると
Ce3+のf電子の軌道状態がAとBの2つの状態をもち、図1の右に示すように
A,Bが互い違いに規則正しく整列すること(軌道秩序状態)が期待される。
これまでに、中性子散乱やNMRといった実験手段により、
この軌道状態の観測が行われてきた。
しかしながら、これらの実験手段では観測するために磁場を印可する必要があり、
純粋に磁場がかかっていない状態(ゼロ磁場下)での
軌道秩序状態を明らかにすることは出来なかった
(CeB6の軌道秩序状態は磁場に非常に敏感であり、
磁場印可下での軌道状態とゼロ磁場下での軌道状態は違う可能性がある)。
そこで、我々は上述の共鳴X線散乱の手法を適用することにより
CeB6の軌道秩序状態を明らかにすることを目指した。
実験は、高エネルギー加速器研究機構 放射光施設(Photon Factory)の
ビームライン-16A2で行った。
本ビームラインは光源にマルチポールウィグラーを使用し、
放射光施設で最強のX線を利用することができる。
ここでX線のエネルギーは、Ce3+のL3と呼ばれる吸収端エネルギーの
5.722keV近傍を使用した。
図2: 放射光施設 ビームライン-16A2での実験風景。
図2に実験風景を示す。 左側のパイプの窓から出射したX線は、
ノイズを減らしX線強度を保つために設置された
Heガスを導入したパイプ(Heパス)を通って中央の冷凍機内の試料に導かれる。
試料から出てくる微弱なX線信号は、
再びHeパスを通って図中右側のX線検出器で測定される。
この冷凍機(Heフロー型クライオスタット)は、
液体Heを使用し、試料を2Kという極めて低い温度に冷却することができる。
さらに超伝導磁石を搭載しており、非常に強い磁場(≦2T)を
試料に印加することもできる。
図3: 共鳴X線散乱の信号強度のエネルギー依存性。
[図1右のような軌道の周期的配列を反映する逆格子点
qQ=(1/2,1/2,1/2)での測定。]
このような実験装置を用い測定されたX線散乱強度のエネルギー依存性を、図3に示す。 黒丸で示すのが、ゼロ磁場下で測定された信号である。 5.722keV近傍に 非常に微弱ではあるが 確かに軌道秩序状態の存在を 示す信号強度が観測されていることが分かる。 また 磁場に敏感なCeB6では、 磁場印加により軌道が秩序する温度が上昇し、 X線信号強度の測定が比較的容易になる。 そこで磁場を印加した時の信号強度のエネルギー依存性を、白抜丸で示す。 今度はさらにはっきりと、X線信号強度が観測されていることが分かる。 このように我々は、CeB6でのゼロ磁場下での軌道秩序状態を 共鳴X線散乱という手法を用いることにより初めて明らかにすることに成功した (詳しくは、 JPSJ 70 (2001) 1857をご覧下さい)。