共鳴X線散乱を用いた電荷・軌道秩序状態の解明


私たちの身の回りに存在する物は、全て原子によって構成されています。 したがって、個々の物体の性質(物性)は これら原子の並び方(配列)や 原子自身の持つ性質により決定づけられます。 [原子は原子核と電子で構成されます。原子核は太陽のように中心に存在し、 電子は地球のように原子核の回りをぐるぐる回っています。] 特に、興味深い物性を示し近年注目を集めている 高温超伝導体、重い電子や巨大磁気抵抗物質といった 強相関電子系と呼ばれる物質群では、 この原子を構成している電子の持つ3つの内部自由度 (電荷・スピン・軌道)が その物性に決定的な役割を果たすことが 分かってきました。 そのため物性物理の研究分野では、この電子の持つ内部自由度を調べることが 重要な研究テーマとなっています。 しかしながら、電荷・スピンといった自由度が比較的容易に 調べられたのに対し、'軌道自由度'を調べる研究手段は ごく限られていただけでなく、難しくあまり進められていませんでした。 私たちは、この'軌道自由度'を調べるための新しい研究手段(共鳴X線散乱)の 大きな可能性を、数年前に示しました。 その後、世界各地で共鳴X線散乱を用いた軌道状態の研究が 盛んに行われるようになっております。

通常のX線散乱は、原子内の電子による散乱です。したがって、例えば セリウムイオン(Ce3+)の場合、55個の電子からの散乱が観測されます。 一方、ここで軌道の自由度を担っている電子(f電子)は たった1個の電子であり、その電子の軌道状態の違いを示す X線散乱強度は 極めて小さなものとなってしまいます。 ここで、利用する 共鳴X線散乱では電子の軌道間遷移(X線吸収端)を利用します。 当然、この吸収端での散乱は、飛び移った先の軌道状態を強く反映します。 結果的に、通常のX線散乱では観測することが困難な 軌道状態を反映した散乱が 比較的容易に観測できます。