第14回
世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)
サイエンスシンポジウム

サイエンストーク講演者

サイエンストーク要旨

未来の海を予測する科学の眼

黒潮やメキシコ湾流といった「西岸境界流」は、熱帯から亜熱帯へと栄養塩を運び、海の生態系や私たちの暮らしに大きな影響を与えています。地球温暖化の影響で、これらの海流の強さや深さ、栄養の流れにも変化が起きています。未来の海がどう変わっていくのかを理解するには、広い時間と空間をカバーする視点が必要です。そこで私たち研究者は、「CMIP6」という国際的な地球システムモデルを使います。これは、未来の気候や海の状態を予測できる“新しい眼”のような存在です。私はこのモデルを活用して、西岸境界流が栄養塩の流れに与える影響を調べています。また、JAMSTECのスーパーコンピュータは、この“眼”を「見る」ための計算を支えています。本講演では、こうした科学の眼で見えてきた、変わりゆく海と未来社会とのつながりについてお話しします。

Zhen Lin 先生

WPI-AIMEC

東北大学のポスドク研究員です。博士課程では、2010年代の太平洋で魚が小型化している現象に注目し、その一因が気候変動による表層の栄養塩減少に伴うプランクトン量の減少である可能性を示しました。現在は、地球システムモデルを用いて、西岸境界流による栄養塩輸送の将来変化を調べています。シミュレーションによって、見えない海の中で栄養塩がどのように変化し、それが生態系にどう影響するかを明らかにしたいと考えています。

サイエンストーク要旨

記憶を支える眠る脳の仕組み

私たちの脳には、日々の体験を「記憶」として残す力があります。そしてその記憶の多くは、脳内で再生・編集されながら定着していきます。私たちが眠っている間にも、脳は静かに「記憶の整理」を行っています。なかでも海馬で新たに生まれる“新生ニューロン”は、経験を記憶へと変える重要な役割の一端を担っています。私は、これらのニューロンが睡眠中の特定の脳波と協調して活動し、記憶を強めたり書き換えたりする仕組みを、マウスの脳活動の記録や光操作技術を用いて研究しています。本講演では、記憶の再演と定着のしくみ、そしてその理解がPTSDの治療や学習支援技術の開発などにどのように応用できるかについて、紹介します。

小柳 伊代 先生

WPI-IIIS

2016年、奈良高専を卒業後、筑波大学に学部3年次編入学。国際統合睡眠医科学研究機構IIIS坂口研究室で睡眠と記憶の研究を開始。2023年、筑波大学博士課程修了。博士(神経科学)。現在は同研究機構で特任助教。新生ニューロンが睡眠中の記憶固定化するメカニズムを、マウス脳活動の記録と光操作を用いて研究している。研究を始めたきっかけは、睡眠の必要性に興味を持ち、睡眠研究に携わってみたかったから。

サイエンストーク要旨

量子技術の眼で解き明かす宇宙

地球の運動からブラックホールに至るまで、物理学者はその時代の最先端技術を駆使し、天体・宇宙の構造やその歴史を明らかにしてきました。現代において最も注目されている技術の一つとして、量子コンピュータの実現に向けて急ピッチで開発が進む"量子技術"があります。量子コンピュータはその計算性能から大変注目されていますが、その本質は量子ビットと呼ばれるエネルギーの最小単位を操る技術(量子技術)にあります。その高度な技術を応用することにより、従来では捉えられなかったとても小さな光を見ることができることがわかってきました。現在、宇宙や素粒子の研究者はこの技術を応用し、今まで見えなかった宇宙の姿を見ようとしています。この講演では、そうした技術の紹介やこれからの展望をお話いたします。

新田 龍海 先生

WPI-QUP

2020年に早稲田大学から博士号(理学)を取得し、米国ワシントン大学のポスドクとして暗黒物質探索研究を開始。2022年より暗黒物質探索のさらなる高感度化に向けて、東京大学素粒子物理国際研究センターで超伝導量子ビットを用いたセンサー開発を始める。現在は、高エネルギー加速器研究機構 QUPの特任助教として、様々な量子技術の素粒子実験応用を進めている。