Superferric Beam Line

−−ニュートリノビームラインを安く作る−−

KEK 低温工学センター 和気正芳
 

はじめに
JPARCにおけるニュートリノビームラインは極めて高い 放射線環境において50GeVの大強度陽子線を半径110mで90 度ベンドしてターゲット地点に導くが、予算的にも時間的にも厳 しい制約があり、通常の方法では難しい。銅鉄磁石にすれば 運転電力が膨大なものとなり、超伝導磁石の場合は放射線による クエンチが懸念されて技術上の不安がオーバースペックを生 みだし建設コストに跳ね返ってしまう。 ニュートリノビームラインを少ない予算で手早く立ち上 げるための新しい方策としてSuperferric Beam Lineを提案( 2001年7月 和気メモ)したが、その後ビームエネルギーを 下げることも検討されるようになり、superferric Magnet はさらに実用性が高まったと考えられる。30GeVの場合、 常伝導磁石との競合になるがこのデザインは常伝導磁石とも十分 に対抗出来る経済性を持っている。

Superferric磁石

Superferric Beam Line は超伝導線を使った通電を行 いながらも、鉄に依存した磁石(Superferric磁石)を用いる。 したがって、鉄の飽和磁化以上の磁場発生には向かず、2Tが一 つの限界となる。2T以下の低磁場でありながらヘリウム冷却を 要し、鉄にコイルを巻く形状が力学的に保持しにくく熱侵入が多 いためこれまではあまり効率の良いものとはされて来なかった。< br> しかしながら、FermilabのW.Fosterはハドロンコライダーを目指 して電磁力が導体に働かない簡単な構造を見いだし、 Transmission Line MagnetとしてVLHCの1st stageで用 いることになった。これは一本の導体を中央に配置しその周りを 覆う鉄の隙間にビームチューブを配して左右の対称により中央の 導体にかかる電磁力をバランスするものである。電流は中央の 配管内に軽く支えられて流れるだけであり従って熱侵入は少なく 、構造も極めて簡単である。このため建設費用は格段に安 くなるし、冷凍機も小さなものにすることができる。微細な 超伝導体の配置や磁化には影響されず鉄の配置だけでで磁場が決 まるので簡単に磁場精度を確保することができる。しかし、この 型の磁石はコライダーを目指したものであり、この構造では 必然的にダブルボアとなり、ビームラインには励磁効率が悪い。 Wake&Yamadaはリターン電流を利用することを考え、片方の隙間 をせばめるかわりに導体の位置を中心からずらすことを提案した ("New Type of Superconducting Magnets for Hadron Collider" ,proc.MT-15pp103(1998))。このようにすればシングルボアでも 電磁力をバランスさせることが出来る。実際には鉄の飽和が励磁 によってかわるので電磁力は完全にはゼロとならないが、 かなりの部分が相殺されて簡便なサポートで十分な程度 にはすることが出来る。30GeVの場合、鉄の飽和の問題が抜本的に 緩和されるので、殆ど電磁力なしを実現できる。図に導体 にかかる電磁力をいくつかのカウンターギャップについて磁場の 関数として示すが、ビームラインに必要な磁場の範囲では500N/m 以下の極めて低いものになっている。これはほとんど単なる 送電線の程度のサポートで十分な力である。 この磁石の設置は断熱配管の中に導体を入れて電送ラインを作 ったところに鉄を挟み込むだけなので建設工事は極めて簡単 になる。電流を中心からずらすことでビームチューブとの間に スクリーンを入れるだけのスペースも生まれ、超伝導線は直接に ビームを見なくても済むようになる。断熱配管が半径110mの 曲げに対応できるならば鉄の形状だけでサジッタを加えることが 出来る。

問題点とその解決

この方式の磁石をニュートリノビームラインに適用 するにはいくつかの問題点がある。まず収束磁石をどうするかの 問題がある。これはcombined functionの光学系を構成することで 解決できる。combined functionにすることはその他の問題も同時 に解決してくれる。Superferric磁石では鉄の飽和から2Tに磁場 が限定されてしまうが、50GeVで半径110mならば平均磁場は1.514T で済むはずである。超伝導磁石が必要とされるのは収束磁石その 他のスペースが必要なためであるから、combined function にすることにより磁石の占有率を90%にすれば1.683T。85%でも 1.782Tで足りることになる。これならSuperferricで可能な 磁場範囲になる。10%の磁場勾配をつけてもおそらく2T以下に収 めることが出来るだろう。30GeVなら平均で0.9T、実際にも1.2Tの 設計で十分なので鉄の飽和を考えなくて済むから話はずっと楽 になる。
次の問題点はbeam sizeである。 Superfheikerric磁石は縦口径が大きくなると電流が極端に大 きくなり製作が難しくなる。実際今までに試作された transmission line磁石は縦口径2cmになっている。しかし、 これも2Tぎりぎりまで磁場を上げようとするからであり、30GeV の場合にはかなり口径も大きくすることができる。加速器の ビームパイプ口径は100mmもあるが、50GeVまで加速されたビーム はかなりサイズが小さくなっており30mm位になっている。この ビームをビームライン入り口の収束磁石で扁平にしてやれば 23x39mmにすることができそうで磁石の口径は25x45とする事 が出来る。これはsuperferricの範囲に入ってくる。勿論さらに 扁平度が高められるならばさらに励磁しやすくなる。ビームが 扁平ならばそれに合わせて磁石の磁場勾配も垂直収束では大きく 、水平収束では小さくしたものとしなければならない。超伝導線 が直接ビームを見ない構造から、多少のもれビーム があってもすぐにクエンチにつながることはないので縦方向には ビームサイズぎりぎりの大きさでかまわない。30GeV の場合には 、ビームは36mm位と予測されるが、磁場が低いので同じ起磁力で 大きな口径を取ることができて、図に示す設計例では40x100の 口径を確保している。
特筆すべきことは、ビームチューブと 超伝導ケーブルの距離が大きく空いていて、しかもこの間が分厚 いステンレススチールで埋められていることである。この磁石は 非常に高い放射線レベルにさらされるのであるが、超伝導と ビームが隔絶しているためにビームによるクエンチの心配 がないのである。ビームチューブと導体との距離は磁石の間の 磁場のあるべきでない所で、磁気シールドを置く空間も保証 している。この型の磁石で問題なのは単純さの見返りとして非常 に大きな電流を必要とすることである。約100kA(30GeVなら70kA )と見込まれる大電流であるが、超伝導線の位置では磁場は1Tに過 ぎない。このため超伝導線の電流密度は極めて高く100kAを流 すためにはNbTiを5.2KのSupercritical冷却で使っても12mm2 あれば足りることがわかる。VLHCの開発ですでに100kAの実績 はあるのでこの点について心配はない。
コイルに巻 くのではなく直線上で150m引っ張るのであるから熱収縮の問題 がある。ヘリウム温度への冷却によりこのケーブルの長さは5cm縮 むのでこの収縮を吸収するのはなかなか難しい。一つの方法 として図に示す様に超伝導線自体は柔らかな網の目に編み込み、 熱収縮係数の非常に小さな材料であるInvarのパイプにかぶせて 固定する方法がある。VLHCでは内外の2つのinvarパイプで挟み込 んでしまう方法も考案されている。日本で袋編みブレイド もすでに試作しており、熱収縮しないケーブルの製作は可能 である。長さ150mの両端スペースには余裕があるので熱収縮の 吸収機構を両端に設けることも出来ないわけではない。
100kAの電源は費用的にももあまり問題はない。IGBTチョッパーと ショットキーダイオードによる超低電圧電源が試作出来ており 0.5Vx100kAで効率50%でも100kWで済む。VLHCでは10kAモジュール を作っているのでこれを10台用いればよい。日本でも同じ方式 でバッテリーから2000Aを取り出す実験でデモンストレーションが 出来ている。

性能向上

以上の検討により一応superferric beam lineは成り立つ見込 みが立った。マグネット部分が100W、リターンが100Wくらいの 熱侵入ではあるが100kAでは冷却ガスの流量を含めると カレントリードが600W相当の熱負荷となる。それでも1kW以下の 冷凍機ですむのでシステムとしては十分成り立つ。 カレントリードにHTSを用いれば熱負荷が半分になると考 えられるので運転としては楽になる。しかしHTSはコスト がかさむのでどちらにするかは検討の余地があるだろう。電流を 減らすにはケーブルをマルチターンにするのが良いと考えられる 。ケーブルを8分割くらいにわけて互いに絶縁してしまう。端末 でずらし接続することで8ターンのコイルが形成される。8分割 のそれぞれにInvarのCasingを行い熱収縮の問題は起 こらないようにしておくのが得策だろう。この場合電流は12kA位 になって一応普通に使われる範囲の電流となり、カレントリード の熱負荷もずっと軽減される。しかし、この方式はまだ例がなく 、電流相互の電磁力も問題になるので実証試験をしておく必要 がある。早期にR&Dを行うべき最大の事項と考えられる。一本の 導体の場合はクエンチに対しても全くプロテクションなしで良 いことがわかっているが、マルチターンにした場合は プロテクションの検討も必要になる。さらにアドバンスド なことを考えると導体をHTSにすることが考えられる。コイル に巻くのではなく直状に設置するのであるからそろそろHTSが 使える領域になってきている。コストから言えばHTSは高 くつくのに決まっているが送電線の実験が進 んでいるところなので、場合によっては資金が別のところから 提供される可能性もある。この場合窒素温度の運転で冷凍機 もいらず運転は極めて楽なことになる。

まとめ

新しい概念であるsuperferric beam lineを提案し、可能性を 検討した。十分に可能性があると考えられるのでビームラインの 光学設計と協力した検討を少なくとも通常の超伝導磁石による ビームラインと平行して進めるべきである。線材に関する 要素技術等も先行して開発していく必要があるだろう。統合計画 は予算的に厳しいものがあり、結果的にはこの方法以外に建設の 道はないかもしれない。実はFermilabでパイプトロンの実証 のため超伝導ラインが建設中である。実験終了後この超伝導 ラインを電源ごとKEKに持って来る事が考えられ、この場合 KEKで必要なのは鉄と冷凍機だけであるから、運転電力 はおろか建設費も常伝導より安くなる。

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