ビームアボート FAQ (坪山 透)
  1. 用語
    LERの方がbeam abortが多いのは何故ですか?
      これは加速器の状況に依存しています。現状(2004年5月)では以下のとおりです。
      ソフトウエアアボート
      FとBのPINドーズを比べて、Bが多ければLERをFが多ければ HERをアボートします。
      理由:BはLERに、FはHERへの感度が高いことを知っているから。 ただし、いまはほとんど常にBのドーズが多い。 だから、LERを落とす場合が多い。
      ハードウエアアボート
      アボート信号生成モジュールは、FとBのPIN入力を同等に 扱っている(回路は入力が12ヶのPINダイオードで、出力は アボート要求1本です。) LERとHERへのアボート要求は加速器におくるアボート決定モジュールで振り分けます。 現在はまずHERビームを先におとします。 それでバックグラウンドが減らなければおよそ5m秒後にLERを落とします。
      理由:加速器は一度アボートすると電流を蓄積するのにLERで20分、 HERで10分程度の時間がかかります。 現在ハードウエアアボートは12のPINダイオードの短純なORなので、 HERかLERかわかりません。そこで、 入射時間のロスを減らすため、まずHERをアボートするようになっています。
      全部なったらLERアボートが多いようだ
      ハードウエアアボートの場合、HERを先に落とすが、原因が LERである場合はさらに5m秒バックグラウンドが 増えつづける。そのような場合PINダイオードは全部鳴ってしまう。
  2. ダイアモンドセンサーにバイアスが必要な理由
    ダイヤモンドセンサーはバイアス電圧をかけなくても最初からほぼ空乏化してる状態です。 ただし、ほぼ空乏化しているとはいえ、不純物や格子欠陥がのこっていて、放射線の通過に 伴い発生する「電子・正孔」は次第に失われます。電場をかけ れば、電子・正孔が失われる前に、電極で集めることができる。 PN接合ではないので、バイアス電圧をどっちの方向にかけても良い。 電圧は「厚み1μmあたり、1Vかける」のが経験則です。 いまは400Vかけているので、多分厚さ400μmなのでしょう。 厚みが300μmか400μmか、私は知らない。 バイアス電圧を上げると出力電流はいくらかは増えると思われている。

    PN(PIN)ダイオードの場合は電圧をかけなくても、PとNの境界(5−6μm)は自然に空乏化 している。空乏化に伴い、PとNに内部の電界が発生する。したがって、空乏化領域で 発生する電子・正孔はPとNに引き寄せられる。それが信号電流になる。 さらに、P/N接合に電圧をかけると、空乏層が広がり、センサーの感度が上がる。 電子・正孔の移動速度もあがり、短時間で電荷を集めることが可能になる。 PINの場合はバイアス電圧を反転すると、空乏化領域が無くなり、ほぼ導体になり電流が じゃんじゃん流れるようになる。

  3. 12個のPIN diodeで、受ける放射線の量が違うのは何故ですか?
  4. 上にはHERビームをまずアボートするとかいてありますが、しばしば LERでビームアボート がおきています。
    2004年10月にソフトビームアボートプログラムを見直したところバグがありました。 ビームの入射を2時間ごとにしていた頃にはその問題によるバグで 顕著な問題にはなりませんでしたが、 連続入射モードになって以来そのバグが問題を引き起こす頻度が 上がってしまいました。いまはそれを直しました。
  5. 「先頭強化型バンチパターン」とは?
    1. LER ビームはトレインの先頭以外は光電子雲効果で、ベータトロンチューンがあがる。
    2. ルミノシティをあげるためには、ビーム全体のチューンを下げ る必要がある。 普通は、ビーム寿命がたえられる範囲で、できるだけチューンを 下げるよう調整する。 そうすると、 トレイン先頭のバンチではチューンが低すぎる状態になる。
    3. バンチのチューンが低すぎる状態になると、そのバンチのライフが下がる。 したがってトレイン先頭のバンチがまず消失し、次のバンチのライフが下りは じめる。結局先頭から順番にビームのトレインが削れてゆく。
    4. それをふせぐためには、できるだけ早くトレイン先頭附近に光電子雲効果 を発生させる必要がある。 そのためにトレイン先頭のバンチ密度を上げる。
    5. 一方、衝突状態においてはLERバンチは衝突するHERバンチがないとやはり 寿命が下がり、バンチ電流の寿命が短いくなる。
    6. その対策として、LERの先頭強化用バンチがある場所にはHERにもバンチを入れておく必要がある。
    7. これらの処置を「先頭強化型バンチパターン」とよぶ。
  6. ルーム位相とビーム衝突点の関係
  7. ビームが不安定になる理由とフィードバック
    真空チェンバー中のピームは、加速空洞で加速して、磁石で曲げたり 四重極磁石で収束してぶつければ良いようなものだが、 そこに「ビーム不安定性という重要な問題がある。不安定性の主な原因は三つある。
    HOM/Wake field
    荷電粒子は運動するだけで電磁波をだす。ただし、太さ一定のパイプ中を 通るときには問題はおこらない。 しかし、真空パイプの形状が変化するところでは、 電子の運動により発生する電磁波はHOMというかたちで、強い電場を発生させる。 この電場がピームの不安定性をひきおこす。 ことに加速空洞は強い加速電場を作るために、 よい共鳴箱構造になっているため、この傾向が強い。 さらにBファクトリーでは、たくさんの電子ビームバケットがリング内を 回っているため、 ひとつの電子ビームバケットが作ったHOM電場が それより後にくるバケットが正常に加速されることを妨げる。 これを「カップルドバンチ不安定性」とよぶ。 この不安定性はKEKBでは、 スーパーキャビティやARESキャビティを導入することで効果的に 抑制されている。 これらのキャビティでは「電子ビームからHOM電力が発生しても、 問題ないほど大きなエネルギーを最初からキャビティ内にためておく」 ように設計されているのだ。
    電子雲
    陽電子ビームは放射光をだす。 その光が真空パイプ内壁に辺ると、光電効果により電子を壁から叩き出す。 ところで電子は、負の電荷をもつので、陽電子ビームにすいよせられて 真空チェンバの中心で衝突をはじめる(電子雲の発生)、 これがビーム中の陽電子の運動に揺動をあたえて 不安定性のもとになる。 この問題は真空チェンバーにコイルを巻いて ソレノイド磁場を作ることで軽減する。 (電子はソレノイド磁場にまかれて、 真空チェンバーの中央に行くことができなくなる。ビーム は磁場に並行に運動するのでおおきな影響はうけないが、微少な垂直方向の運 動がソレノイド磁場から影響をうけるので、ベータトロンチューンが微妙に影 響をうける。) 実際ソレノイドをKEKB陽電子用真空チェンバー全体に巻くことで、KEKBで蓄積 できる陽電子ビームの電流は格段に増えた。
    HER:高速イオン
    電子ビームの場合は光電子が発生しても走っている電子ビームに反発される ので、電子ビームには近付かず、電子雲による不安定性はおきない。 そのかわり、真空中の残留ガス(当然原子核と電子からなる分子) に 電子があたり、電離されて発生する+イオンが電子ビーム軌道周辺に トラップされる。イオンが電子により強く散乱される確立は低く、 イオンは電子の軌道にとどまる。 一方イオンに散乱されることで、電子ビームは不安定になる。 この効果は主に「真空をよりよくすること」で影響をへらすことが可能である。 特に真空作業後は高速イオンの影響がおおきく、低いビーム電流でも、 電子ビームが不安定になり、ビームアボートが起る場合がある。
    「カップルドバンチ不安定性」はビームに並行 (longitudinal(ロンジチューディナルと発音))な不安定性である。 その一方「電子雲」と「高速イオン」による不安定性は垂直方向(transverse) への不安定性である。 こうした不安定性を矯正するために、 バンチごとに軌道のずれを測定し、 それを補正する方向に電気的に補正するのがフィードバックシステムである。 KEKBでは最強のARESおよび超伝動加速空洞のおかげで、 longitudinalの不安定性は制御されておりフィードバックは今は必要ない。 508MHzであるため、バンチ間隔は最低2n秒になるので、 バンチごとにフィードバックをかけるには広帯域の増幅器が必要であり、 技術的にも難しい。アンプはkW級の出力があるので接続に問題があると アンプ/ケーブル/電極が燃える。 (インピーダンス不正合などで正しく電力がビームに伝わらないと、 反射電力で電極/ケーブル/アンプで 不正な熱が発生する。 ビームが安定にならないと、アンプ出力はますます増える といった悪循環も起る) こうした事故はこれまでも数回おこった。 フィードバックはかけかたをまちがえると不安定性を増幅することになる。 そうなるとほんのすこしの電流も蓄積できない。
  8. LER beam size target
    衝突点でのビームサイズが小さいほど 同じ電流で得られるルミノシティは大きい。ところが、 LERとHERのビームサイズは互いに強い相関をもち、独立には 調整できない。たとえば、ビームを完全に正面衝突さ せると、ビームビーム効果でビームサイズは膨らんでしまい、 その結果、得られる ルミノシティは大幅に下ってしまう。逆に、 ふたつのビームの衝突点における位置や角度を変化させることで LERのビームサイズを一定にするようなフィードバックを行えば、 安定な衝突と最適なルミノシティを維持できることがKEKB運転の 初期に理解された。その目標値が「サイズターゲット」である。
    たとえば、2005年2月には 「LERのビーム入射効率が悪いので、LERのビームサイズを太らせ たら、(多分HERとLERの衝突が正面衝突に近付き、多少振らつきながら 走っている、入射したてのビームが蹴りだされにくくなり) 入射効率が改善した」というようなことも起った。
23 Jan 2005 Description on beam instability is added.
18 Jan 2005 Description on vertex position is added.
8 Nov 2004 Description on 先頭強化型バンチパターン is added
10 May 2004 The first version