NSEの基礎
1.1 中性子散乱とは
1.2 中性子非弾性散乱
2.1 中性子スピンエコーの特徴
2.2 中性子スピンエコーの原理
3.1 NSEの装置
3.2 世界のNSE分光器
4.1 NSEデータの意味
4.2 NSEデータの解析

3.1 NSEの装置

 日本に唯一存在するNSEの装置は、東大物性研中性子散乱研究施設が広島大学のグループと協力して原研改造3号炉(JRR-3M)に設置したISSP-NSEです。

この装置はJRR-3Mの冷中性子ガイドポートC2-2にあります。年間175日程度のマシンタイムを全国共同利用に供しており、日本国内の常勤の研究者なら申請により誰でも利用することができます。

この装置はλ=7.14Å(Δλ/λ=18%)の中性子をスーパーミラーにより取り出して利用しています。測定可能なQ領域は0.01〜0.16Å-1、フーリエ時間tの領域は0.08〜15nsで、これはエネルギー分解能に換算すると10neV〜30μeV程度に相当します。試料位置での中性子束が1.4×105 /cm2sと弱いので、通常の試料の大きさを25mm×50mmにしています。バスクーラーを用いて0℃〜50℃、電気炉を用いて室温〜100℃の温度変化ができるだけでなく、100MPa程度までの高圧の実験も可能です。これまでは主にマイクロエマルションやミセル、高分子や生体系などいわゆるソフトマターの実験が行われてきてます。

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3.2 世界のNSE分光器

 このISSP-NSEの他に稼働しているNSE分光器は、世界に全部で7台しかありません。これらの性能をまとめると、次のようになります。

実験施設

装置名

Q領域(Å-1)

t領域(ns)

中性子束(cm-2s-1)

ラウエ・ランジュバン研究所(ILL)

フランス

IN11

0.01-2.7

0.002-45

IN15

0.001-0.4

<300

レオン・ブリルアン研究所(LLB)

フランス

MESS

0.018-1.5

<40

5×105

ユーリッヒ中央研究所(FZ-Juelich)

ドイツ

NSE

0.01-1.5

0.1-25

8×105(8Å)

ハーン・マイトナー研究所(HMI-Berlin)

ドイツ

SPAN

0.025-1.35

0.013-8

5×105(8Å)

国立標準技術研究所(NIST)

アメリカ合衆国

NG-5

0.02-1.25

<100

2×106(8Å)

これらのうち代表的なものがカバーするQtの領域を図で示すと、次のようになっています。

ISSP-NSEのカバーする領域は他の装置に比べてかなり小さいのですが、ソフトマターを対象とする上では最適化されている、と言っても良いでしょう。物性研と原研は今後このISSP-NSEを別のポートに移設する計画を持っています。それが実現すれば強度で1桁程度、Qの領域も最大2Å-1程度まで広がり、更にFourier timeも大きくなることが期待できます。それによってガラス系や固体物理など、様々な分野へ利用の可能性が広がるのではないでしょうか。

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