ATF加速器の紹介
ATF加速器はリニアーコライダーの電子側直線加速器の入射加速器と同じ構成となっています。
すなわち電子銃部、1.5GeV直線型電子加速器、1.5GeVダンピングリング(円形加速器)、ビーム取り出し計測ラインから構成されています。
1990年に設計作業が開始され、1997年にビーム運転開始、そして2001年には設計エミッタンスに到達している事を確認しました。
現在もリニアーコライダーに必要なさらなる高品質ビーム生成に向けて、そしてそのビームを使用したユニークな研究開発を続けています。
この加速器で実現されている電子ビーム品質は世界最高水準のもので、そのエミッタンス性能は同種の加速器のなかで世界最高の超低エミッタンスを誇るものです。
主要性能 |
アセンブリーホール内でのATFの構成図 |
ビームエネルギー: |
1.28 GeV |
ビーム強度 シングルバンチ運転時: |
1.0x1010 electrons/bunch |
マルチバンチ運転時: |
0.7x1010 electrons/bunch x 20 bunch |
ビーム繰り返し: |
0.7 ~ 6.4 Hz |
X方向エミッタンス (0ビーム強度時外挿時): |
1.0x10-9rad.m (at 1.28GeV) |
Y方向エミッタンス (0ビーム強度時外挿時): |
1.0x10-11 rad.m (at 1.28GeV) |
典型的なビームの大きさ: |
70µm x 7µm (rms横x rms縦) |
電子銃部
2002年の夏まで使用していた熱陰極電子銃に換えて2002年秋からの運転では光陰極RF電子銃を使用し、より高性能な電子ビーム生成を行い加速時やビーム輸送時およびリング入射時のビーム損失を極力抑えることに成功しています。熱陰極電子銃と異なりパルスレーザーを使用した電子引き出しのため多彩なビームを作り出す事ができるようになりました。典型的なビーム生成は10ps幅、強度1x1010個のパルス電子ビーム列(間隔2.8ns)20個を繰り返し0.7
~ 6.2 Hzで行っています。
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電子銃部と直線加速器入射部 |
RF電子銃本体 |
直線型電子加速器
周波数2856MHz、パルス幅4.5µsのマイクロ波をビーム加速に使用した直線型加速器です。
3m長の加速管をビーム加速に17本、マルチバンチ時の過渡エネルギー補正に2本使用しています。
平均の加速勾配は26MV/mと従来型直線加速器の2倍程度の高勾配にてビーム加速をしています。
加速器の全長は約90mです。世界最大級の出力(ピークパワー80MW、4.5µsパルス幅)をもつクライストロン(マイクロ波増幅装置)を10本使用しています。
また、クライストロンのマイクロ波出力はSLEDと呼ばれるパルス圧縮装置につながっていてピークパワーはさらに4〜5倍に上げられます。
その後に2本の3m加速管に分配供給されます。
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直線型電子加速器の加速管 |
ダンピングリング
直線加速器からの電子ビームはダンピングリングと呼ばれる円形加速器に入射され、100 ~ 450 msの間蓄積されます。
その間にビームは放射ダンピング過程によりエミッタンスが減少していき、平衡エミッタンス近くまで待ってから取り出されます。
ダンピングリングは周長138mで2つの長い直線部分にウィグラー電磁石を備えたレーストラック型をしています。
できるだけ小さい平衡エミッタンスとなるようにアーク部分のラティス構造はコンバイン型偏向電磁石と収束4極電磁石の組み合せ構造を採用しています。
ウィグラー電磁石は放射ダンピングを強める働きをし、より早く平衡エミッタンスに到達できるようにするために導入されました。
ビームの入射や取り出しには周回ビーム群の中から必要なビームだけに選択的に働かせるために約120nsという高速なパルス磁場を生成するキッカー電磁石が用いられます。
入射ビームをできるだけぎりぎりまで周回軌道に寄せるため、あるいは周回ビームから
ごくわずかだけ蹴りだされたビームをできるだけ周回軌道から離すようにするために、
セプタム電磁石という特殊な電磁石が用いられ、それらは高安定なビーム取り出しの目的のため直流電流により駆動されています。
周回ビームの軌道を各周回ターン毎に精密に制御するために、
高速高精度なビーム位置モニターが96台設置されています。
また、放射ダンピング過程で失ったビームエネルギーを供給する加速空洞はビーム軌道不安定を起こさないように
するために高調波吸収型空洞(ダンプドキャビティー)を2台使用しています。
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ダンピングリングのアーク部分 |
取り出しビームライン
ダンピングリングによりエミッタンスの下がったビームは取り出しキッカー電磁石および取り出しセプタム電磁石によりリングの
外へと取り出されます。このビームラインの後半部は分散関数を小さくするような設計となっていて、そこでのビームサイズ測定により
分散関数の影響を小さくしたエミッタンス測定ができるように設計されています。また、ビームライン中の分散関数の大きなところを積極的に
利用してビームのエネルギー広がりの測定がなされています。
超低エミッタンスビーム生成
超低エミッタンスビームの生成はダンピングリングで行います。X方向(ビーム進行横方向のうち周回軌道面方向)の
エミッタンスは各電磁石の設計位置への設置精度(アライメント精度)や各電磁石の設計磁場への励磁精度、
そして周回ビーム軌道の設計軌道への補正精度などで決まります。またY方向(周回軌道面に垂直な方向)のエミッタンスは
アライメント精度やビーム軌道補正精度で決まるX方向エミッタンスのY方向への結合度(もれ)で決まります。
各電磁石を設計位置へ高精度に並べるために電磁石の取り付け台には高精度位置調整装置が装着されています。
また電磁石の精密励磁のためビーム応答を利用した校正方法を採用しています。
ビーム軌道補正精度を上げるため非常に多くの高分解能なビーム位置測定装置(96台)を使用しています。
高安定ビーム生成
高安定な超低エミッタンスビーム生成のためにはダンピングリング内の周回ビームが高安定である必要があります。
すなわち各電磁石の励磁磁場の変動が非常に小さく抑えられている(例えば1x10-4以下)
必要がありますし、各種の冷却水温度や加速器室内の温度の変動も小さく抑えられ(例えば0.1度以下程度)、
各電磁石の微小振動も小さく抑えられている(例えば数10nm以下)必要があります。
また、ダンピングリングで生成された高安定低エミッタンスビームをパルス電磁石によりリング外へ取り出すとき、
パルス毎に取り出しビーム位置や取り出し角度が安定となるように設計されたダブルキッカーシステムを使用しています。
高精度ビーム計測技術開発
高安定な超低エミッタンスビーム生成のためには高分解能高精度なビーム位置計測が必要です。
さらにエミッタンス計測をするためには高分解能高精度なビームサイズ計測が必要です。
加速器性能の開発はこれらの計測技術の開発に支えられています。
計測技術の進展により加速器性能を上げる事が可能となります。
ATFで行われていますビーム計測技術開発を以下に挙げます。
1 ダンピングリング内のビーム位置を高速高分解能で計測するビーム位置モニター
1―1:ボタン型ビーム位置モニター
1―1:マルチバンチ・ターンバイターンビーム位置モニター
2 ダンピングリング内のビームサイズを高分解能で計測するビームサイズモニター
2―1:レーザーワイヤーモニター
2―2:SR光干渉型モニター
2―3:X線SR光ビームサイズモニター
2―4:SR光バンチ長モニター
3 取り出されたビームのビーム位置を高速高分解能で計測するビーム位置モニター
3―1:ストリップライン型ビーム位置モニター
3―2:マイクロ波空洞型ビーム位置モニター
4 取り出されたビームのビームサイズを高分解能で計測するビームサイズモニター
2―1:タングステン(カーボン)ワイヤーモニター
2―2:遷移放射光ビームサイズモニター
2―3:回折放射光ビームサイズモニター
(これらのビーム計測技術開発の詳細は研究紹介や各論文を参照してください。)