講演の概要

基研研究会
場の量子論の基礎的諸問題と応用
(登壇順)
24日

藤川 和男 (東大理) 「 ゲージ場の理論:その起源、発展、そして将来」(招待講演)
非Abel的なゲージ理論がYangとMillsにより提案されてから50年が経つ。この理論に関して最も驚くべきことは、自然がこの魅力的なアイデアを採用しているということである。ゲージ場理論に関してはしては、2つの側面がある。一つは古典解とかそれに関係した位相的な側面であり、もう一つは漸近自由性等により象徴される量子的な側面である。ゲージ場理論の量子論の特徴は、その新しい物理的な内容のほとんど全てが経路積分の形式で明らかにされたことである。古典的位相的な側面と量子論の関係も、経路積分により明快に定式化された。ゲージ場の非摂動的な分析も、経路積分を抜きにしては考えられない。このような過去50年間のゲージ場理論およびその破れの研究を概観し、同時に残された課題とか今後の発展を参加者の皆さんと一緒に考えたい。


鈴木 博 (茨大) 「 Anomalies, Local Counter Terms and Bosonization」
Were-examine the issue of local counter terms in the analysis of quantum anomalies. We analyze two-dimensional theories and show that the notion of local counter terms need to be carefully defined depending on the physics contents such as whether one is analyzing gauge theory or bosonization. It is shown that apart of the Jacobian, which is apparently spurious and eliminated by a local counter term corresponding to the mass term of the gauge field in gauge theory, cannot be removed by a local counter term and plays a central role by giving the kinetic term of the bosonized field in the context of path integral bosonization. 論文はhep-th/0305008で、Phys.Rept.に掲載予定です。


静谷 謙一 (基研) 「 Quantum anomalies in supersymmetric theories with topological excitations」
ソリトンやdomain wallなど位相的な励起が現れる超対称理論では超対称代数(のcentralcharges等)に量子異常が生じうることが知られています。新種の量子異常であり、計算上微妙な点もあって、近年少なからぬ関心が向けられています。研究会では、このような位相的チャージの量子異常を超場で書かれた超カレントを用いた明白に超対称な枠組の中で定式化し、解析した結果について報告したいと思います。


小久保陽介 (日大) 「 非アーベル的な反対称テンソル場を含むWess-Zumino-Witten模型」
アーベル的な反対称テンソル場を用いて、量子異常を再現するWess-Zumino-Witten(WZW)項が作られることは、超弦理論等においてすでに知られている。しかし、そこで導入された反対称テンソル場はアーベル的であるため、構成されたWZW項は限られた量子異常に対してのみ有効である。本研究では、非アーベル的な反対称テンソル場を導入して、4次元の非可換量子異常を再現するWZW模型を構成した。これは、FreedmanとTownsendにより与えられた非アーベル的な4次元テンソルゲージ理論(Freedman-Townsend模型)の拡張になっており、古典論的には通常の4次元WZW模型と等価である。 非アーベル的な反対称テンソル場を用いたWZW模型の構成には、Freedman-Townsend模型に現れる2階の4次元反対称テンソル場に加え、3階の5次元反対称テンソル場の導入が不可欠となる。これは通常のWZW模型に含まれるWitten項が、5次元的な表式で表されることに関連している。実際にこれらの反対称テンソル場のゲージ変換則を適当に定義することで、作用に含まれる位相項であるBF項が有効に働き、非可換量子異常を導くような理論を構成することができる。


高橋 智彦 (奈良女大) 「 弦の場の理論におけるゲージ対称性」
弦の場の理論はゲージ理論として定式化されているが、そのゲージ群の構造は、いまだその全貌が明らかではない。この発表では、弦の場の理論におけるpuregauge配位と非自明なゲージ配位の厳密な構成について論じます。コホモロジーの解析と数値解析によって、非自明な配位はタキオン真空に対応することが示唆されます。これらのゲージ配位の存在は、「弦の場の理論のゲージ群」というものが定義されうることを示唆しています。この新しいゲージ群のもつ、弦理論における可能性・意味についても論じます。


奥村 吉孝 (中部大) 「 任意の電荷を持つ非可換ゲージ理論」
U(1) ゲージ理論では物質場の電荷は、ゲージ変換の制約のために0,+e,-eに限られている。ここでは非可換時空上で拡張されたリー代数に基づいてSU(N) ゲージ理論を作り、そのゲージ場の対称性の自発的な破れの結果として±eではない電荷を持ったfermionを導入することができることを示す。拡張された非可換ゲージ群は非可換時空のパラメーターθを0にすると通常のゲージ群になる特徴を持っている。これに基づいて、非可換時空上の標準理論も創ることができることを示す。


平山 実 (富山大) 「 Skyrme-Faddeev 模型の厳密2変数解」
Skyrme-Faddeev模型(Skyrme項をもつSO(3)非線形σ模型)はグルーボールを記述するとされる模型である。この模型の4次元ミンコフスギー時空での2変数厳密解を求める。解はひとつの任意実関数とひとつの任意複素解析関数を含む。Vortex型の特解を詳しく調べる。


中村 聡 (京大基研) 「 How to integrate out heavy degrees of freedom in Effective Field Theory」
In Effective Field Theory (EFT), one uses an effective Lagrangian which explicitly includes only degrees of freedom (d.o.f.) relevant to a phenomenon under consideration; for the phenomenon characterized by a typical energy-momentum scale 'Q', it is expected that it is unimportant to include d.o.f. with energy-momentum scale much larger than 'Q'. Such heavy d.o.f. are integrated out to be absorbed by contact interactions. For low-energy processes in few-nucleon system, it is sufficient to take account of nucleons and pions as explicit d.o.f. For very low-energy processes where even pion can be regarded as a heavy-meson to be integrated out, we expect that we can describe the processes with the use of only contact interactions between nucleons. In this presentation, we start with EFT with dynamical pion and integrate out the pion to obtain a pionless EFT. An essential point is that we must integrate out the high-momentum components of the nucleons as well so that the energy-momentum scales of all d.o.f. in the obtained EFT are sufficiently smaller than the pion mass.


新野 康彦 (佐賀大) 「 自由エネルギー密度におけるフラットニングと最大エントロピー法」
$¥theta$項を含む理論は豊かな相構造を持っていることが期待され、その相構造を解明することは意義深い。格子理論の立場から数値シミュレーションを行って解析する場合、符号問題を避けるためにトポロジカル電荷分布関数$P(Q)$をフーリエ変換することによって分配関数を計算するが、この計算法では、自由エネルギーが$¥theta=¥pi$近傍でなだらかになってしまうフラットニングと呼ばれる現象が起こり得る。この現象は$P(Q)$分布の誤差がフーリエ変換を介して自由エネルギーの振舞に影響を与えることが原因で、その傾向は体積が大きくなるほど顕著になる。フラットニングはデータの統計数を上げることによって回避されるが、実際問題として膨大な統計数が必要となり現実的ではない。そこで我々は異なるアプローチとして、最大エ
ントロピー法を用いた解析を行った。本研究では、分配関数が解析的に計算される模型に対して最大エントロピー法を適用し、フーリエ変換においてフラットニングが生じるデータと生じないデータとについて解析を行った。結果、前者はフーリエ変換の結果と一致する解が得られ、後者
はフラットニングのない解が得られた。ここでは得られた解の振舞いや妥当性について議論したい。


Subrata Bal (京大理) 「Nonperturbative Studiesof the Fuzzy Sphere in a Matrix Model with the Chern-Simons term」
We investigate the $S^{2}$ fuzzy-sphere solution of the matrix model with the Chern-Simons term nonperturbatively by Monte Carlo simulation. We have observed a first order transition from the Yang-Mills phase for smaller value of $¥alpha$, the coefficient of the Chern-Simons term to the fuzzy sphere phase for bigger $¥alpha$. In fuzzy sphere phase the simulation results match with the one-loop results. We have also observed various multi-fuzzy shpere metastable states as the system evolves to thermalise as a stable one fuzzy sphere state.


中島 宏明 (中大) 「 Supersymmetric CP^N Sigma Model on Noncommutative Superspace」
我々はSeibergによって提唱された非可換超空間の上で超対称なCP^Nシグマ模型を構成した。その結果、多項式でない作用であるにもかかわらず、補助場をすべて消去して作用の閉じた形を得ることができた。さらにこの模型助場をすべて消去して作用の閉じた形を得ることができた。さらにこの模型の古典的な性質として、可解性が成り立つかどうかをみるために高階の保存則が存在することを調べた。


25日

中野 貴史 (阪大RCNP) 「S=+1 ペンタクォーク バリオンの実験的証拠」(招待講演)
Experimental evidences for the existence of the S=+1 penta-quark baryon will be reviewed.


保坂 淳 (阪大RCNP) 「 ペンタクォーク - 発見から最近の話題まで(仮題)」(招待講演)
(未着)


赤石 義紀 (KEK) 「 Kaon原子核 - 原子核物理の新パラダイム(仮題)」(招待講演)
Kaonが深く束縛した原子核が存在する可能性を我々は理論的に指摘した。それらは ppK$^-$, $^3$HeK$^-$, $^4$HeK$^-$, $^8$BeK$^-$ 等で、結合エネルギー 48, 108, 86, 113 MeV 、巾 61, 20, 34, 38 MeVと予想した。注目すべき点は、Kaonが周囲の核子を引きつけて低温高密度の状態をつくりだすことである。中心密度は通常核密度の5〜8倍に達っするのでそこでは多重クォーク状態になっている可能性もある。
最近、岩崎氏たちは $^4$He(stopped K$^-$, n) 反応実験を行い、$^3$HeK$^-$の深い束縛状態の証拠を得た。これが確定すれば、核物質の低温高密度相の研究に大きな進展をもたらすこととなる。
参考文献
Y. Akaishi and T. Yamazaki, Phys. Rev. C65 (2002) 044005.
T. Yamazaki and Y. Akaishi, Phys. Lett. B535 (2002) 70.
M. Iwasaki et al., nucl-ex/0310018.


橘 基 (理研) 「 Thermal color-flavor unlocking in color superconductivity」
高密度ハドロン物質として存在が示唆されているカラー超伝導の有限温度相転移について、ギンツブルグーランダウ模型を用いて解析する。特にここではストレンジクォークの質量およびインスタントンの効果が与える影響を弱結合近似の元で評価し、厳密な表式を与える。またこれらの解析に続いて平均場近似を越えた取り扱い、すなわち場のゆらぎを取り込んだ結果を示し、相転移の様子がどう変化するかを見る。さらにはこれらの結果をもとに中性子星内部などで期待される中間核密度領域を含めた相図に対するspeculationを行う。


木村 大自 (広大) 「 4体フェルミ模型の有限温度・密度相構造に対する磁場の効果」
QCDの相構造は、温度-密度相に関して解明されつつある。ところで、強い外部磁場の下では、高密度領域でグリーン関数に新しいポールが現われる。我々は、2点グリーン関数に温度、密度、そして、磁場を厳密に導入し、物理的な経路を明らかにしている。これを4体フェルミ模型に適用し温度・密度相構造に対する磁場の効果を調べた。QCDでは、物性理論とは逆に、外部磁場の増加につれて対称性が破れやすくなる性質が知られている。今回、我々は磁場の効果によって、低温-高密度領域で新しい相が現われることを見つけたので報告する。


杉山 直 (国立天文台 「 WMAPの初期成果と残された問題点」(招待講演)
2003年2月に発表された、WMAPの一年目の観測データを解析した結果は、宇宙論に大きなインパクトを与えるものであった。例えば、宇宙論パラメターが精密に決定され、インフレーションの存在がほぼ証明された。本講演では、WMAPで、いったいどこまで、何が明らかにされたのか、について解説するとともに、残された謎や問題点について触れる。


湯川 哲之 (総研大) 「Quantum Gravity from CMB Anisotropies」
COBEやWMAPで観測された宇宙背景輻射(CMB)揺らぎの低多重極成分は、インフレーション理論を信用すれば、宇宙初期の量子揺らぎをそのまま反映していると考えられている。特にl=2や3成分が標準的な理論からずれていることは、これを統計的な誤差(CosmicVariance)の範囲とするか、量子重力理論の物理的な反映とするかでそれを支配する力学、すなわち量子重力理論の選択に重要となる。この発表では、コンフォーマル重力を基礎にした重力理論がCMBの温度揺らぎとインフレーションを自然に導くことを示す。


手塚 謙一 (千葉大 「 Quantum Poincare Algebra and Ultra High Energy Cosmic Rays」
1020eV以上の超高energy宇宙線が観測されており、これはPoincare不変性に何らかの変更が必要なことを示唆している。ここではPoincarealgebraを量子群にしたものを考える。Poincare群を量子群にすると時空が非可換になることが知られており、このような対称性を持つ相対論はdoublyspecialrelativityと呼ばれる。この講演では、Poincare量子群を新しく導入し、この理論を宇宙線に応用する。


坂井 典佑 (東工大) 「 Stability and Fluctuations on Walls in N=1 Supergravity, [hep-th/0307206]」
The recently found non-BPS multi-wall configurations in the ${¥cal N}=1$ supergravity in four dimensions is shown to have no tachyonic scalar fluctuations without additional stabilization mechanisms. Mass of radion (lightest massive fluctuation) is found to be proportional to $¥Lambda {¥rm e}^{-¥pi¥Lambda R/2}$, where $¥Lambda $ is the inverse width of the wall and $ R$ is the radius of compactified dimension. We obtain localized massless graviton and gravitino forming a supermultiplet with respect to the Killing spinor. The relation between the bulk energy density and the boundary energy density (cosmological constants) is an automatic consequence of the field equation and Einstein equation. In the limit of vanishing gravitational coupling, the Nambu-Goldstone modes are reproduced.


新田 宗土 (東工大) 「 ハイパーケーラーシグマ模型におけるドメインウォール」
The Higgs branch of N=2 supersymmetric gauge theories with non-Abelian gauge groups are described by hyper-Kahler (HK) nonlinear sigma models with potential terms. With the non-Abelian HK quotient by U(M) and SU(M) gauge groups, we give the massive HK sigma models that are not toric in the N=1 superfield formalism and the harmonic superspace formalism. The U(M) quotient gives N!/[M! (N-M)!] discrete vacua that may allow various types of domain walls, whereas the SU(M) quotient gives no discrete vacua. We construct a domain wall solution in the simplest case of the Eguchi-Hanson space.


大橋 圭介 (東工大) 「Massless Localized Vector Field on a Wall in D=5 SQED with Tensor Multiplets」
ドメインウォールを用いたブレーン世界シナリオを考えたい。そこでまず、5次元SQEDに電荷を持った複数のハイパー多重項を加えた理論において、BPS解としてドメインウォールが得られることを示した。また、いくつかの特定の有限のゲージ結合定数においてその厳密解を構成した。このウォール解上で展開した摂動論において、5次元のゲージ場のいくつかのKKモードは局在するが、それらは質量を持ってしまうことが示される。そこで、5次元でゲージ場に双対である2階反対称場を考える。このような場を含むテンソル多重項を理論に加え電荷を持たせることによって、その古典解として質量ゼロの4次元べクトル場がウォール上に局在することを示した。これによってウォール上に標準理論を構成する足がかりを得た。


26日

中島 龍也 (東北大) 「 二次元ボーズ系におけるエネルギーギャップと励起スペクトル」
弱く斥力相互作用する二次元ボーズ系では,高角運動量極限において、ν=1/2ラフリン状態が短距離型相互作用に対するゼロ・エネルギー解として現れる.このラフリン状態の上には,長波長励起に対しても有限のエネルギーギャップが存在する.また,有限波数でもラフリン準粒子の束縛状態としてのロトン励起が,低エネルギー励起として実現可能である.


長谷部一気 (基研 ) 「 Dimensional hierarchy in quantum Halle effects on fuzzy spheres」
We construct higher dimensional quantum Hall systems based on fuzzy spheres and the generalized Hopf map. Fuzzy spheres are realized as spheres in colored monopole backgrounds. The space noncommutativity is related to higher spins. In $2k$-dimensional quantum Hall systems, Laughlin-like wave function supports fractionally charged excitations, $q=m^{-{1/2}k(k+1)}$. Topological objects are ($2k-2$)-branes whose statistics are determined by the linking number related to the general Hopf map. Higher dimensional quantum Hall systems exhibit a dimensional hierarchy, where lower dimensional branes condense to make higher dimensional incompressible liquid. (hep-th/0310274)


谷村 省吾 (大阪市立大) 「磁場中トーラスにおける位置演算子なしの量子化 空間が先か?対称性が先か? 」
いわゆる正準量子化は、正準交換関係を満たす位置演算子と運動量演算子の既約表現空間を作ることである。しかし、位置演算子が存在するという仮定は、大域的な座標系がア・プリオリに存在するという仮定であり、そのような扱いでは、ユークリッド空間以外の多様体は扱えない。とくに、磁場の入ったトーラス上で量子力学を定式化しようとすると、二重の困難を抱える。まず、トーラスでは大域的な座標系が存在しない。さらにゲージ場を一価連続関数として書けない。我々は、位置演算子に当たるものを導入せずに、代わりに対称性を特徴づけるシフト演算子と運動量演算子だけを導入して、正準交換関係に代わる新しい代数を設定し、その表現論として磁場中トーラス上の量子力学を定義・構成した。さらにその既約表現はすべてユニタリ同値であることを証明した。この意味で、トーラス上の量子力学はあらかじめ座標系を用意することなく、対称性だけで一意的に特徴づけられた。この結果は坂本眞人氏(神戸大学)との共同研究の延長上にあるものである。参考論文:hep-th/0205053, 0306006, 0309091


山田 徳史 (福井大) 「透過振幅の微分で表される4つの「トンネル時間」の統一的導出」
量子力学的な粒子がトンネル効果でポテンシャル障壁を通過するのに要する時間をトンネル時間という。トンネル時間の研究の歴史は長く,これまでに様々な「トンネル時間」が提案されてきた。なかでも透過振幅に関係した4つのトンネル時間は重要であると考えられている。それらは全く異なった物理的なモデルから導かれるものであるが,得られた結果の簡潔さと類似性は,それらが具体的なモデルに依らずに統一的に理解できるのではないかという期待を抱かせる。本講演では,Gell-Mann,Hartleらによるconsistent history approach(CHA)と呼ばれる手法と実時間ファインマン経路積分法とを組み合わせることによって,透過振幅に関係した4つのトンネル時間を統一的に導出できることを紹介する。まず,実時間ファインマン経路が障壁をどのように横切るかに着目して,トンネル時間を滞在時間型と通過時間型の二種類に分類し,それぞれの場合に非干渉汎関数D[¥tau;¥tau']を計算する。非干渉汎関数はCHAで定義される量で,例えば滞在時間型の場合には,D[¥tau;¥tau']は「障壁中に滞在する時間が?tauであるファインマン経路と?tau'であるファインマン経路との間の干渉」を表す。Larmor時間と呼ばれるトンネル時間は,D[¥tau;¥tau'](¥tau+¥tau')を?tauと?tau'に関して積分することによって得られ,Buttiker-Landauer時間と呼ばれるトンネル時間は,D[¥tau;¥tau'](¥tau-¥tau')を?tauと¥tau'に関して積分することによって得られる。通過時間型の場合のD[¥tau;¥tau']からも同様な手続きによってWignerの位相時間とPollak-Miller時間というトンネル時間が得られる。このような4つのトンネル時間のシステマティックな導出は,トンネル時間の研究に新しい視点を提供するものと考える。


小芦 雅斗 (総研大) 「大きな量子系の制御 - Fault-tolerant 量子計算」 (招待講演)
マクロに区別できる2状態の重ね合わせ(猫状態)は、雑音に対して非常に弱く、放っ ておけばすぐに壊れてしまうし、外から制御することで状態を保持することも事実上 不可能と考えられる。このことから、多数の系が量子的な相関を持った状態は、系の 数が無限の極限においては制御不可能だろうと思われがちである。この問題は、大規 模な量子計算は原理的に可能なのか?という形で最近研究が進んでおり、結論として は、「ある意味では制御可能だ」ということになっている。この「ある意味で」とい う部分が非常に微妙で、例えば、猫状態は不安定という事実を覆すわけではないが、 それでも安定な「猫状態」が作れる、という、逆説めいた話が出てきたりする。一方 で、この結論は、計算機が動くかどうかというはっきりした判定基準に根差している ので、単なる言葉のトリックではない。本講演では、この微妙なからくりを、なるべ く正確に理解していただけるように解説したいと考えている。雑音に弱いはずの量子 的な相関が、逆に雑音に対抗する有力な武器になっていたり、一見すると量子系には 使えないような古典系における制御のテクニックが、見方を少し変えるだけで適用可 能になるなど、興味深いポイントがいろいろ登場するので、因数分解の計算スピード に関心がない方々にも興味をもっていただければと考えている。


一瀬 郁夫 (名古屋工大) 「 ゲージ理論から見た量子メモリーおよび量子計算の可能性」
現在、量子計算機の実現は情報数理、量子物理学そしてナノ工学共通の問題として 多くの研究者の注目を集めている。本講演では、量子計算におけるゲージ理論の重要性を強調し、 実際の物理系で如何にして量子計算と量子メモリーが実現するかを具体的なモデルを用いて説明する。 さらに、それらの系で出現するであろうエラーやノイズを如何にして除去し、安定な系を構築するか述べ、 許されるエラー発生確率の閾値をランダムゲージ理論の数値計算により与える。


竹田 晃人 (東工大) 「自己双対なランダム格子ゲージ模型と量子トーラス符号の誤り訂正限界」
本研究では、トーラス符号というトポロジカルな量子誤り訂正符号を、格子ゲージ理論の立場から調べることを目的とする。量子誤り訂正符号とは、量子情報をノイズ等から保護するための情報の冗長化の手法であり、適切な誤り訂正の手続きを行うことにより量子情報を守ることが出来る。但し誤り訂正には系のノイズレートに対して限界が存在する。この誤り訂正限界は、2次元のトーラス符号においてはランダムボンドIsingモデルの相転移点として理解出来ることが最近示された。ここでは、4次元のトーラス符号の誤り訂正限界がランダムなZ2格子ゲージ模型の相転移現象から理解出来ることを述べ、その相転移の性質を模型の自己双対性を用いて解析する。


河本 昇 (北大) 「Twisted Superspace and Dirac-K¥'ahler Fermion Mechanism」
2次元のBF理論及び、トポロジカルなヤングミルズ理論のインスタントンゲージ固定による量子化を行うと、ツイストされた空間でのN=2の超対称性が隠れていることが明らかになる。これ等の量子化された作用は、ツイストされた空間でのカイラル超場ですっきり書き下すことができ、その構造の裏にN=2のR対称性に相当するディラックケーラーのフェルミオンの構造が隠れていてゴーストを物資場としてのフェルミオンに変換し、全体として超対称構造を表現している。この構造は4次元にも拡張されオフシェルでN=4のツイストされた超対象性を持った理論に導かれる。これ等のツイストされた理論と一般化されたゲージ理論の関係、更にはその背景にある格子模型との関連を指摘する。


土屋 麻人 (阪大理) 「 Three-dimensional black hole in the Chern-Simons gravity」
3次元のBTZブラックホールをChern-Simons gravityで解析する。 まず、古典的なgeometryとChern-Simons作用に加える物質場のsource termの関係を明らかにする。 次に、その物質場と重力場を量子化して得られるHilbert空間を同定することにより、 古典的なgeometryと量子論的なHilbert空間の対応を確立する。さらにそれを用いて、 ブラックホールの散乱問題を調べる。特に、braiding演算子の果たす役割について議論する。


月岡 卓也 (DIAS) 「String Models in 26+2 and 10+2-dimensional Spacetime」
我々は、2次元に一般化されたChern-Simons理論を弦理論に結合させた型を解析する。この模型は、弦理論を記述する2次元世界面上に、非自明なゲージ対称性を導入する事により定式化される。模型の量子化を、光円錐ゲージ、及び、BRST形式の双方で解析し、その標的空間の臨界次元は2つの時間軸を含む26+2次元となる事を示す。また、超対称性の導入から、標的空間を10+2次元とする超弦理論模型を議論する。


丸 信人 (理研) 「Supersymmetric Radius Stabilization in Warped Extra Dimensions」
Randall-Sundrumモデルにおけるバルクハイパー多重項および2つのブレーン上に局在したソース項の系を考えます。ブレーン上のソースパラメタを調節することで、2つのブレーンをつなぐハイパー多重項の超対称古典配位解がもとまり、ブレーン間の距離が安定化することを示します。また超対称性の破れの効果を考慮に入れても、ブレーン間距離が不安定化しないことを議論します。このときFCNCに抵触する危険性のあるバルクハイパー、バルク重力多重項で伝達されるスカラーの質量項が抑制されるパラメタ領域をもとめました。


浅野 雅子 (京大理) 「PP-Wave Holography for Dp-Brane Backgrounds」
弦理論-ゲージ理論対応に関連した以下の研究について報告する。Dp-brane背景時空(p<5)の中の弦理論に対して、ある種のWick回転を行うと、(horizon近傍領域の)境界上の2点を結ぶ光的測地線(`tunneling null geodesic')の存在が示される。ここでは、弦理論の作用のボソン部分をこの測地線の周りで展開して散乱振幅を求める一般的方法を与え、さらに、その振幅が境界上の(p+1)次元ゲージ理論のある種の演算子の2点関数を与えるという予想を提唱する。この予想に基づき、特に、対応する(p+1)次元ゲージ理論の赤外領域の振る舞いを議論する。以上は、hep-th/0308024 (関野恭弘氏(KEK)、米谷民明氏(東大駒場)との共同研究)に基づくものである。


吉田健太郎 (KEK 「One-Loop Flatness of Membrane Fuzzy Sphere Interaction in Plane-Wave Matrix Model」
PP波背景上の行列模型における二つの非可換球面解(Myers効果により球面状に膨らんだ重力子解)間の相互作用について議論する.この行列模型のスペクトラム,超対称性,古典解の構成については盛んに調べられたが,古典解間の相互作用は未だ明らかにされていない.これは平坦背景上の行列模型の場合と異なり,PP波背景上では作用に質量項が存在することに起因する.本講演では,PP波背景上の行列模型における古典解間の相互作用を計算するためのセッアップを提案するとともに,非可換球面解の相互作用の考察からPP波行列模型におけるポテンシャルの平坦方向の問題について議論したい.この講演は,Hyeonjoon Shin氏(Sungkyunkwan大学,韓国)との共同研究[hep-th/0309258]に基づく.


阪口 真 (大阪府立大) 「Matrix model on a time-dependent plane-wave」
時間依存性を持つplane-wave時空と座標変換で関係するanti-Mach型plane-wave時空上の行列模型を構成する。このplane-wave時空は20個の超対称性を持つ事が知られている。我々は、この模型の超対称性変換を構成し、kinematical 4個とdynamical 16個の計20個の超対称性荷量で生成されることを示す。また、作用の可換部分のを調べることで真空のエネルギーが時間依存性に付随するパラメタに依存しないこと、常に負であることを示す。更に、graviton解、fuzzy(楕円)球面解、fuzzy双曲面解などの古典解を構成し、これらのエネルギーを調べる。我々の模型は、一様磁場中の粒子の運動を記述していると解釈でき、非可換幾何学と密接な関係がある。また、ハミルトニアンは、時間に依存する調和振動子と関係している。これらについて議論したい。この発表は、吉田健太郎氏(KEK)との共同研究 " M-theory on a time-dependent plane-wave,''JHEP 0311 (2003) 030 [arXiv:hep-th/0309025]に基づいています。


Last updated: 22 December 2003