結晶からの散乱

前節では、一般的に物体からの散乱を考えましたが、 ここでは、原子や分子などが周期的に配列した結晶からの散乱を考えてみます。 下図に、長さaの周期を持つ 1次元の周期的な構造を示しています。

前節で計算したように、この周期的な構造からの散乱振幅も

F(k-k')=∫drρ(r) exp[i(k-k')・r]

のように表されます。ここで、 Q=k-k'とします。
次に、長さaの周期がm回繰り返された構造で 実際に散乱振幅を計算してみます。

F(Q)=∫_0^ma drρ(r) exp[iQ・r] (積分範囲 0~ma)

F(Q)=Σ_n=0^m-1 exp(inqa) ∫_0^a drρ(r) exp[iQ・r]

F(Q)=(1-exp(imQa))/(1-exp(iQa))∫_0^a drρ(r) exp[iQ・r]

この式は、周期的に並んでいる構造で 散乱振幅を 計算するときは、長さaの周期の中の構造(単位胞)の積分計算をすれば、 後は (1-exp(imQa))/(1-exp(iQa))(Laue関数)の因子だけ 掛ければよいということを意味している。
通常の結晶では、mの値がアボガドロ数(6.02×10^23個)程度あり、 Laue関数は Qa=2πnのときのみ 値mを持つことになる。 (注: 位相の項を無視したとき) このとき Qa=2πnの条件は 何を意味しているだろうか?
Q=2ksinθ、k= 2π/λを 代入すると

2a sinθ=nλ

ピーンと来ましたか? そうです、ブラッグの法則 です。 このように、単に散乱振幅を積分で計算するだけで、ブラッグの法則は 導かれるのです。
つまり、結晶の場合は、ブラッグの法則が成り立つ点Q (逆格子点)でのみ 散乱振幅F(Q)が値を持つことになります。 以下の図に結晶からの散乱を X線写真で測定した実験結果を示します。
逆格子点でのみF(Q)が値を持ち 黒点として写真に写っています。

したがって、前節で 散乱振幅F(Q)を 測定すれば、物体の電子密度分布ρ(r)が求まるとしましたが、 結晶の場合、これらの逆格子点での散乱強度を収集すると、 単位胞内の電子密度分布ρ(r)が求まるわけです。

 

次に 長さaの周期が何回繰り返された構造なのかは どうすれば わかるでしょうか?
その情報は もちろん Laue関数がもっています。 mの値が あまりに大きい場合には、すでに上で述べたように Qa=2πnのときのみ 値を持ちます。 しかしながら、mの値が小さい場合には Qa=2πnのブラッグの法則を 満たさないQでも散乱振幅が値を持ちます。 以下の図は、m=4,m=6のときのf(x)=sin^2(mx)/sin^2(x)のグラフである。

x=180°のときが Qa=2πに対応しており、ブラッグの法則が成立している。 さらに、Braggの法則が成り立たない領域に散乱強度が存在し、 かつ周期的な振動構造が観測される。 この周期的な振動構造より、mの値が決定できるのである。 例えば、m=4では 0、180°に観測されるブラッグ反射の間に 2つのピーク構造を示すことが m=4の特徴となっている。


<前: 物体からの散乱