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中性子用オブジェクト指向データ収集解析システム

鈴木次郎、川端節彌、真鍋篤、村上晃一

大強度陽子加速器プロジェクト(J-PARC)は、KEKと日本原子力研究所 が共同で建設を行っており、2007年度末に利用が開始される予定である。 物質 生命科学実験施設(MLF)は、中性子、中間子ビームを利用する J-PARCで建設される実験施設である。 そこでは世界最高クラス(1MW)のパルス核破砕中性子源および中間子源を用いて、 物質科学、生命科学研究が行われる。

現在の放射光、中性子などの大型の物性研究の散乱実験装置は、 それぞれの研究目的に応じた装置制御と解析ソフトウエアが整備、開発され 共同利用に用いられている。 散乱装置の特性に応じたソフトウエアの開発は個々の装置ごとに行われているた め、 施設内でのデータの共有、長期にわたる維持管理が困難である。

MLFにおける中性子、中間子の実験装置の計算機環境は MLF計算機環境検討グループによって研究開発が進められている。 この検討グループは、KEK物質構造科学研究所 中性子施設、 KEK計算科学センター、日本原子力研究所 中性子利用研究センター によって組織されている。検討内容は、データ収集、データ解析、 セキュリティ、シミュレーションなどである。 中性子用オブジェクト指向データ解析システムは、 上記の計算機環境のうちデータ解析ソフトウエアの 骨格となるフレームワークであり、Manyo-Lib(万葉集)と名付けられた。 Manyo-Libは、中性子実験で共通に使用される機能と 各装置の仕様に合わせたソフトウエアの 開発基盤を提供する。 このようにオブジェクト指向にもとづく基盤ソフトウエアを整備することで、 解析ソフトウエアの開発が小さな人的資源で迅速に行え、 維持管理が長期にわたって容易になることが期待でき、 施設全体のソフトウエア環境の信頼性向上が望むことができる。 世界最高クラスの中性子ビームを有効に使用するためには、 このような研究施設レベルで整備された堅固な基盤を持つ 計算機環境が必須である。

実験データの読み込み、データ解析の演算子、データベースインターフェース、 分散処理環境の各パッケージは、オブジェクト指向に基づくC++の フレームワークとして開発されており、C++だけで独立に機能する。 個々の実験装置で別途必要な解析機能は、 C++のモジュールとして追加することで拡張ができる。 更に、上記パッケージの対話的利用や グラフィカルユーザーインターフェースは、 オブジェクト指向のスクリプト言語であるPythonを用いて開発されている。 C++の解析環境を柔軟なスクリプト言語から使用するため、 C++の高い機能と性能をユーザーに親和的な環境が実現できる。 この解析環境は、C++だけのバッチモードと、 Pythonを用いたインタラクティブモードを有効に使い分けることのできる 特徴を持つ。

平成16年度は、

(1)
データコンテナの設計、製作、テスト、
(2)
C++の環境をPythonから利用するためのインターフェースの作成、
(3)
分散処理環境の作成、テスト、
(4)
実際の中性子分光器の解析ソフトウエアの作成
を行なった。(1-3)の研究開発の成果を、(4)で実際に解析ソフトウエアを動作さ せることによってJ-PARCの基盤ソフトウエアとして適当であることを確かめた。

現在、英国ISIS 2nd-Target, 米国SNS計画、J-PARCが進行中であり、中性 子の実験環境は劇的な向上を見せつつあり、 同時に中性子のソフトウエア環境は、国際協調による整備が 求められている。 中性子源の世代交代には、計算機科学(ソフトウエア)の 世代交代も必要である。 Manyo-Libは、Neutron Science Software Initiative (NeSSI)を基盤にし、 中性子のデータ解析ソフトウエアの世界標準を目指し共同開発を はじめた状態である。 さらに、 "Data Format for Neutron, X-ray and Muon Science" (NeXus) をサポートすることによって、実験施設間のデータの共有の実現を 目指して開発を進める。

この研究は物質構造研究所との共同で実施されている。



成果の公表 : [[*], [*], [*], [*], [*]]



Computing Research Center, 2005