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物理過程の検証作業

現在、テスト実験や各応用分野での参照データとの比較を通して、実装されてい る物理過程の比較検証作業が各分野で精力的に行われている。そうした検証作業 からのフィードバックを得て、Geant4側でも物理過程の記述精度に関する改善が 行われている。特に、放射線治療のようなミッションクリティカルな場面に応用 する場合は、シミュレーションに要求される精度は非常に厳しくなるため、検証 作業の役割は重要である。



核破砕反応のシミュレーション技術の開発

粒子線(陽子、炭素線)によるがん治療は将来の放射線治療法として期待されて いるが、治療計画や線量評価に必要なシミュレーション技術は開発途上段階にあ る。そこで、重荷電粒子反応シミュレーションのための基礎データを収集するた めに、放射線医学総合研究所にある重粒子線がん治療装置(HIMAC)を利用した ビームテスト実験(HIMAC15P152)を行った。この実験では、エマルジョンチェ ンバーを使って、医療用重荷電粒子である炭素イオンと水などの原子核反応を観 測し、核破砕反応の詳細を調べる。今年度は、エマルジョンチェンバーでの電荷 を特定するための手法を確立し、人体の主構成物質である水をターゲットとして 照射実験を行い、炭素線の電荷変換断面積などの核データを測定した。今後は、 炭素線の核破砕反応に関して、さらに詳細な核データを測定していく予定である。 また、シミュレーション側では、いくつかの核破砕反応のコード(バイナリーカ スケード、QMD、半実験的コード)を、Geant4上で動作可能にした。今後は、実 験データとシミュレーションの比較検証作業を行っていき、核破砕反応のシミュ レーション精度の向上をはかる予定である。



陽子線治療ビームラインにおける線量分布計算の検証

兵庫県立がんセンターの協力を得て、同施設の陽子線治療ビームラインを使った 陽子線のシミュレーションを行った。実際のビームラインを構成する各要素(各 種コリメータ類)を幾何情報として入力し、同施設のビームラインのシミュレー ション環境を整備した。これらのビームラインの構成要素は、医療用のビームラ インの構成要素として汎用的に使われる要素であるので、他施設のビームライン のシミュレーションでも再利用可能な開発要素となる。さらに、陽子線の水ファ ントム中での線量分布計算を行い、物理過程の記述部分をチューンすることで、 ブラッグピークなどの線量分布を精度よく再現できることを確認した。



医学応用のための電磁相互作用の検証作業

電磁相互作用の記述にしても、医学分野での標準データを再現することが要求さ れる。そこで、シミュレーションの検証作業を医学利用の観点から系統的に行っ た。特に、電磁相互に関しては、ICRUやNISTの標準データや論文の実験データと シミュレーションとの比較を様々な項目で行った。今年度は、光子の質量減弱係 数や、電子、陽子の阻止能、飛程に関して、Geant4がNISTの標準データを再現で きることを示した。その他の物理量に関しても、引き続き、系統的な検証作業を 行っていき、検証データの共有化を行う予定である。



Computing Research Center, 2005